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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#091 『売買ノ街』(岡部啓一/ニーア ゲシュタルト・レプリカント/X360・PS3)

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キャビアがおくるアクションRPG・ニーアより、

岡部啓一作曲、ゲシュタルトレプリカントの『売買ノ街』。海岸の街で流れます。

ドラッグオンドラグーンの制作スタッフが手がけた精神的後継作にあたる本作。正体不明の魔物が徘徊し、人類が滅びゆく世界を舞台に、黒文病と呼ばれる死に至る奇病に侵された最愛の娘または妹・ヨナを救うべく、主人公・ニーアは旅に赴くことになる。バージョン別で内容はほぼ同一だが、ゲシュタルトでは父娘の、レプリカントでは兄妹の物語が描かれ、癖のある狂気的な世界観やそのなかで生きる個性豊かなキャラクターたちが魅力である。マルチエンディング制で、一周しただけではとても味わい尽くせない奥深さを持つ仕上がりとなっている。後にレプリカントをベースにしたバージョンアップ版がPS4Xbox One、PC向けに登場した。

本作の音楽を担当するのは岡部啓一氏。音楽制作会社MONACAの代表で、本作においては全曲の作曲を一手に担っている。いくつかの曲に関しては同じくMONACA所属の石濱翔氏、高田龍一氏、帆足圭吾氏、およびキャビア所属の西村隆文氏がアレンジをおこなっている。本作ではパーカッションやベースラインなど、最大で4つのレイヤーを個別につくり、プレイヤーの行動やゲーム中の状況に応じてインタラクティブに組み合わせる手法を取っていて、ギターやテクノを意図的に使用しないことで、滅びの世界に馴染むような奥ゆかしげな雰囲気を表現している。また、ボーカル曲にも力を入れていて、Emi Evans氏が歌い上げる造語歌詞の楽曲や、多重コーラスを用いた幻想的な楽曲が数多く揃っている。サウンドトラックはオリジナルのもののほか、DLCの15 Nightmaresでの追加楽曲を完全収録したうえでボーナストラックとして新規アレンジを加えたものも発売されている。

海岸の街で流れるのがこの曲である。地中海を彷彿させる真っ白な建物が立ち並ぶ美しい街並みが特徴的な、交易が盛んで賑やかな街だが、そうした外観とは裏腹に、アコースティックギターを中心とした寂しげな曲調となっている。合間合間にコーラスを挟むことで、その儚く虚ろな響きによって、活気あふれる実際の街の風景とは対照的な印象を与える。一方で、全体を貫くメロディアスな曲調は、海に臨む街並みの美しさをよく捉えている。独特な憂いと悲しみが秘められた一曲である。

商いの陰に潜むもの、売買という言葉の重みが伝わってくるような、良い曲名です。