VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#175 『Fire Wire』(菊田裕樹/双界儀/PS)

www.youtube.com

スクウェアがおくるアクションアドベンチャー双界儀より、

菊田裕樹作曲、『Fire Wire』。高千穂で流れます。

神道や陰陽、風水の概念を取り入れた意欲作として登場した本作。富士山が崩壊し、未曾有の危機に陥った日本を舞台に、大量発生した怪異・寄り神を退治する組織・五方輪に所属する青年・真武居直柔と、寄り神に襲われていたところを救われ、彼についていくことを決めた女子高生・御巫美津穂は、大いなる悪の野望に立ち向かうことになる。万葉集といった日本古来の書物を参考に、万物流転と陰陽五行の観念を色濃く反映した、圧倒的な深さを持つ和の世界観が魅力で、五行説に基づく相生と相克(属性の有利不利)の関係がゲームシステムにしっかり組み込まれているなど、隅々までその特異な世界観が浸透している。斬新さが高く評価される一方で、3Dのアクションゲームにしては動きがもっさりしていて操作性にすくなからぬ難があることでも知られ、実験的な要素をはらんだ仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは菊田裕樹氏。当時スクウェアに所属していた作曲家で、まさしく本作がスクウェア在籍時の最後の担当作である。PSのハード性能の限界に挑戦する勢いで生演奏と生収録を徹底した本作の楽曲群は、いずれもエキゾチックな魅力を湛えた会心の出来栄えである。ゲーム中では古語を中心に、アラビア数字までもを排した厳格な和の表記が見受けられるなか、サウンドトラックで明かされた曲名はすべて横文字に統一されているのも特徴である。サントラは主題歌も含めて収録されている。

高千穂で流れるのがこの曲である。古くから天孫降臨の地として語り継がれるステージである。開始早々、棘々しく響き渡るバイオリンの音色によって、一度聴いたら忘れられないほどの豪快なインパクトを生む。何人たりとも寄せ付けない威圧感を放つ主旋律に、臆することなく寄り添うピアノ、渋く痺れるようなグルーヴ感を醸すベース、メリハリの利いたパーカッションが絡み合うことで、凄まじく鮮烈な疾走感を漂わせる。曲の後半、1分40秒頃にはピアノの大きな見せ場があり、今まで以上に激しく突き刺すような存在感を魅せつける。最終的には大胆なバイオリン演奏で締め括ることで、ここに至るまでにとことん高められたエネルギーが一気に完全燃焼する印象を与える。爽快の極致のような一曲である。

個人的には菊田さんの最高傑作だと思っています。