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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#243 『旅立ち』(谷岡久美/ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル/GC)

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スクエニがおくるRPGファイナルファンタジークリスタルクロニクルより、

谷岡久美作曲、『旅立ち』。リバーベル街道で流れます。

FFシリーズの外伝として、久々の任天堂ハードとなるゲームキューブ向けに発売された本作。人体に悪影響を及ぼす瘴気に覆われた世界を舞台に、唯一瘴気から身を守る手段であるクリスタルを、年に一度だけミルラの雫で清めるべく、辺境の村から旅立ったクリスタル・キャラバンの若者たちが雫を探し求めることになる。ナンバリングの本編とはやや趣向が異なる、マルチプレイ重視で世界観を大事にしたつくりが特徴で、絵本のような美しくファンタジックなグラフィックが、本作ならではの魅力を放っている。後にスイッチ、PS4スマホ向けにリマスター版が登場した。

本作の音楽を担当するのは谷岡久美氏。当時スクエニに所属していた作曲家で、FF関連の作品ではこれより以前にチョコボなどでの作曲経験があるほか、本作以降もクリスタルクロニクルシリーズに連綿と携わることになる。本作では優しくも切ない作風にあわせて、民族楽器を用いた楽曲が多く、ボーカル曲にあたる主題歌の作曲も氏が担当している。特に演奏にはロバの音楽座(中世・ルネサンス時代の古楽器や空想楽器を用いる合奏団)が携わるなど、かなり雰囲気づくりを徹底している。サウンドトラックは主題歌やボーナストラックも含めて収録されている。

リバーベル街道で流れるのがこの曲である。序盤も序盤、ミルラの雫を探しに最初に立ち入ることになるダンジョンである。小鬼が棲むという不吉な伝承が残ることから徐々に使われなくなり、今では魔物たちがうろつく廃街道となっている。物憂げなナレーションが語るそんな寂れた雰囲気を表現するにあたって、透明感あふれる笛の音を主軸に据えた民族音楽調で彩る。サズやタンバリンなど、独特な耳心地の良さを持つ音色を取り入れて、安穏と退廃の境界線を彷徨いながら繊細な旋律を奏でることで、心に残るような郷愁と温もりを感じさせる。とりわけ1分20秒過ぎの間奏にはクルムホルンを思わせる木管楽器の特徴的な音が響くことで、非常に味わい深い印象を与える。最序盤にして本作の世界観がぎゅっと詰め込まれた一曲である。

River Bell Pathと書かれた優雅な筆記体と、空にぼうっと浮かぶ虹を背景に、そっと流れ始める……この曲はシチュエーション込みでさらに魅力が増すものだと思うので、ぜひナレーションと一緒にどうぞ。

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