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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#296 『The Road of Trials』(Austin Wintory/風ノ旅ビト/PS3)

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thatgamecompanyがおくるアドベンチャー風ノ旅ビト(Journey)より、

Austin Wintory作曲、『The Road of Trials』。沈んだ都市で流れます。

アメリカのゲームスタジオ・thatgamecompanyの代表作にあたる本作。茫漠たる砂の世界を舞台に、数々の文明の跡地を辿りながら、旅の意味を、果てには自己の存在意義を見出していくことになる。作中には言葉が一切登場せず、美しいビジュアルと息を呑む演出でのみ語られる謎の多い世界観が最大の特徴である。オンライン要素として、同じステージを攻略している見ず知らずの誰かと二人旅することができ、コミュニケーションの手段が限られているからこその奥深いゲーム体験を共有できる。ダウンロード専用のインディー作品ながら、同年の主要なゲーム・オブ・ザ・イヤー賞を総なめした華々しい経歴を持つ名作に仕上がっている。

本作の音楽を担当するのはAustin Wintory氏。アメリカ出身の作曲家で、同じくthatgamecompanyの作品としては本作以前のflOwでも作曲を担当している。本作では前述の通り言葉が存在しないため、世界観を形成するにあたって音楽が果たす役割は一際大きい。そうしたなか、本作では楽曲それ自体に文学性を持たせるかのごとく、純粋に素朴にメロディーで勝負をするような、ストリングス主体の上品なオーケストラサウンドが揃っている。氏自ら"It was the perfect culmination of everything in my life(今までの人生の完璧な集大成)"と語るほどの出来で、本作の評価を押し上げる大きな要因となっている。サウンドトラックはデジタルアルバムに加えCD盤も存在する。

4章の沈んだ都市で流れるのがこの曲である。砂に覆われた坂道を滑降しながら進むエリアを彩るにあたって、リズミカルなパーカッションを下敷きに奏でられるチェロの主旋律が、独特な渋さを醸し出す。15秒からはややエスニックな雰囲気を帯びたフルートの音色が紡がれ、軽やかな疾走感を印象付ける。躍動感あふれる演奏がしばらく続いた後、45秒頃から小休止を挟み、砂漠地帯に蔓延する退廃的な穏やかさをも感じさせる。後半にかけてはチェロ以外の弦楽器が活躍する場面が増え、1分41秒などでみられる美しくも切迫した響きが、さながら何者かに試されているかのような威圧感を生む。ときに一息入れながらも断続的に盛り上がる、粘り強いメリハリに満ちた一曲である。

ちなみにサントラのアルバムアートワークに用いられた、夕焼けに染まる山の風景は、この曲が流れている場面のものですね。参考までに記事のアイキャッチ画像にしておきました。動画の静止画とは異なります。