VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#377 『失われた時は何処に』(桃井聖司/ヘラクレスの栄光III 神々の沈黙/SFC)

www.youtube.com

データイーストがおくるRPGヘラクレスの栄光より、

桃井聖司作曲、3の『失われた時は何処に』。フィールドで流れます。

ギリシャ神話をベースにしたヘラクレスの栄光シリーズの3作目にあたる本作。オリンポスの神々が見守っているはずの世界で地上に異変が生じるなか、記憶喪失で不死身の主人公は、同じ境遇の仲間と出会って冒険を繰り広げるうち、神々の思惑と己の正体を知ることになる。本作の最大の魅力は、その緻密に練られたシナリオと世界観描写で、記憶喪失かつ不死身という設定を活かしたゲーム上の仕掛けが充実している。ゲーム性は従来通りのコマンド選択式のRPGだが、崖からの飛び下りや潜水といった大胆な行動が取れる点が特徴的である。戦闘はこちらのレベルに合わせて敵の強さが決まる仕組みで、エンカウント率の高さと相まってシビアでテンポが重めな印象がある。仲間は直接指示する以外にも自動戦闘で各々の個性を反映した戦いぶりを披露してくれるほか、主人公への信頼度(街中での行動などによって変動する)に応じて命令を聞いたり聞かなかったりする。システム面を中心にもどかしさがあるが、それを補って余りあるほどの根強い人気を誇る傑作として名高い。後にバーチャルコンソールで配信されたほか、PC、モバイル、スイッチなどに移植された。

本作の音楽を担当するのは(効果音の担当者も含めて)ATOMIC H.こと濱田誠一氏、S. MOMOIこと桃井聖司氏、NGDA M.こと三浦タカフミ氏、SHOGOこと酒井省吾氏、Z. YAMANAKAこと山仲清二氏の五名。データイーストお抱えのサウンドチーム・ゲーマデリックのメンバーが中心となっている。このうち作曲を担当しているのは濱田氏、桃井氏、酒井氏である。本作の楽曲はいずれも王道なRPGにふさわしい勇壮なものが多く、スーファミ前期の素朴な音源ながらも物語を色鮮やかに彩ってくれる。サウンドトラックは本作単体では発売されていないが、シリーズ5タイトルを収録したCD6枚組のサウンドクロニクルがSweepRecordにて販売されている。

フィールドで流れるのがこの曲である。未曾有の天変地異により地上では魔物が蔓延り、危機的な状況に陥っているにもかかわらず、天上の神々が沈黙を守り続けているという異常な退廃感に満ちた状況を、深い悲しみを帯びた曲調で美しく彩る。暗澹とした主旋律に、チェロかコントラバスを思わせる弦楽器の伴奏がずっしりと響き渡ることで、悲劇的なムードを目一杯漂わせている。サビでは高音を利かせたメランコリックな音使いが、ぽろぽろと零れるように奏でられるハープの音階と相まって強い哀愁を生み、曲尺が短いからこそかえって情緒に富んだ仕上がりとなっている。続編の魂の証明では同じくフィールド曲としてこの曲のアレンジ版が用いられていて、音質の向上に伴ってより透明感が増している。

悲しみがこみあげてくるような感じがして、とても素敵ですね。菅野優一さんと弘田佳孝さんによる魂の証明のアレンジは、原曲の雰囲気をうまく捉えた良アレンジです。あわせてどうぞ。

www.youtube.com