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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

隔週末の作曲家談議 vol.002:高田雅史

作曲家について語るコラムです。

隔週末ごとの更新ということでやっていこうと思います。

vol.002で扱うのは高田雅史(たかだ・まさふみ)氏。

代表作は「地球防衛軍」「ダンガンロンパ」「デジモンストーリー」など。

なお、記事に記載された内容はすべて2019年1月19日現在のものです。

まずは一曲。

www.youtube.com『DANGANRONPA』(ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生PSP/2010年)

氏の代表作であり、シリーズ通して全曲を単独で担当しているダンガンロンパのメインテーマであるこの曲は、ハイスピード推理アクションという謳い文句にふさわしい一曲である。閉ざされた学園でコロシアイをおこなうというサイコスリラー的なゲーム性を象徴するかのごとく、怪しげな雰囲気を醸すトランス調の音使いが特徴で、「ダンガンロンパ」というボイスを皮切りに、無機質ながらメリハリの効いた曲調が展開する。ダンロンシリーズはコロシアイという倫理的に極めてダークなテーマを扱っているものの、実際にはカラっとしたユーモラスな作風となっていて、それを支えているのは高田氏によるポップでサイケデリックな楽曲の数々である。

高田雅史氏、1970年生まれ、愛知県出身の作曲家。得意楽器はエレクトーンおよびピアノ。1996年に小学館プロダクションが手がける漫画原作のゲーム化作品釣りバカ日誌で作曲家デビューし、翌年からはヒューマンに所属し、ムーンライトシンドローム(1997年)御神楽少女探偵団(1998年)などに携わる。その後、同じくヒューマンに在籍していたゲームクリエイター須田剛一氏が設立したグラスホッパー・マニファクチュア(以下GHM)に移籍し、同社発足時からサウンド制作に打ち込む。シルバー事件(1999年)では、同作の先鋭的な世界観を忠実に表現した楽曲を書き下ろし、GHMサウンドの方向性を印象付けた。

www.youtube.com『The Silver Case』(シルバー事件/PS/1999年)

ハイセンスな映像とともにオープニングにて流れるこの曲は、ピアノとドラムを主軸に据えたエレクトロ・テクノ調の一曲である。「シルバー事件」はGHMにとってデビュー作にあたるアドベンチャーゲームで、オープニングからすでにこうした尖ったサウンドを取り入れることで、他に類を見ない存在感を放っている。合成音声の使い方も特徴的で、曲の途中に挿入される謎の歌詞(「素晴らしい未来~素晴らしい私」)および曲の最後のタイトルコールは、いずれもスタイリッシュな雰囲気に磨きをかけている。

続編の花と太陽と雨と(2001年)シルバー事件25区」(2005年)でも引き続き作曲を務めることになる。また、GHMにサウンド制作を外注してきたサンドロットTHE 地球防衛軍(2003年)にも関わり、以降のシリーズにも軒並み携わる。killer7(2005年)「コンタクト」(2006年)NO MORE HEROES(2007年)など、GHMが開発した作品ではほぼ皆勤賞を果たしていて、同時期に同社に所属していた福田淳氏と仕事をすることが多い。それ以外に、コナミのDJシミュレーション・beatmaniaIIDX(以下弐寺)のCS版にも定期的に楽曲を提供していて、一部を除きすべて曲名が「~Cube」で統一されていることから、通称Cubeシリーズとして知られている。

www.youtube.com『PentaCube Gt.(RX-Ver.S.P.L.)』(beatmania IIDX 14 GOLD/PS2/2008年)

『IceCube Pf.(RX-Ver.S.P.L.)』『WaterCube Pf.(RX-Ver.S.P.L.)』に続いてCubeシリーズ第3弾として登場したこの曲は、曲名にPf.(ピアノ)ではなくGt.(ギター)と付いてあることから、シリーズのなかでもとりわけ攻撃的なギターサウンドが印象的である。氏曰く、この曲のアイディアは「都会から郊外へ向かう夜の高速で沸いてきた」もので、そうしたイメージを反映してか、五拍子というやや珍しい構成となっている。Cubeシリーズではムービーをkototoi氏が製作するのが恒例で、この曲においても専用のものとして、黒を基調にした疾走感あふれる映像を鑑賞できるようになっている。

ちなみにGHM時代では主にクラッシュ&ビルドの作曲法をとっていたことから、実際にゲームに収録する段階で未使用となった曲も多いとのこと。高田氏にとって初の弐寺作品beatmania IIDX 12 HAPPY SKY(2006年)における『IceCube Pf.(RX-Ver.S.P.L.)』は、もとは「killer7」のスタッフロールのために作曲した没曲が、改めて採用されたものだと言われている。

2008年暮れ、創業以来数多くの作曲の仕事を一手に引き受けてきたGHMを離れてからは、独立して自身の会社・サウンドプレステージ合同会社を設立。活動のフィールドを広げるべく、ゲームのBGMや効果音の制作以外にも精力的に携わる。独立後の代表作はダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生(2010年)とその派生作で、同シリーズのサイコポップな世界観づくりに大きく貢献する。ダンロンシリーズはアニメ化や舞台化もされていて、そちらの劇伴やキャラソンの作曲もあわせて務める。また、大乱闘スマッシュブラザーズX(2008年)および「for」(2014年)、最新作の「SPECIAL」(2018年)でもアレンジャーとして参戦し、ディレクターの桜井政博氏から直々に「曲の引き出しの多さに驚かされた」と評される。スマブラではヨッシーどうぶつの森といったほのぼの系のヒーリングサウンドや、マッピーテトリスなどのレトロサウンドを中心に編曲を手がけている。

デジモンアドベンチャー15周年の記念作として登場したデジモンストーリー サイバースルゥース」(2015年)では、後に発売される外伝ハッカーズメモリー(2017年)も含め、全曲を単独で作曲する。それまで対象年齢層が低めだったシリーズにとって、同作は大人向けを謳った意欲作であり、そうした印象を裏付けるかのごとく、高田氏の冴え渡る作曲センスが存分に発揮されている。

www.youtube.com『とある探偵事務所の一日』(デジモンストーリー サイバースルゥース/PSV/2015年)

同作は電脳と現実が交差する近未来を舞台にしたSF探偵モノであるが、そうしたシックな世界観を、ピアノとエレキギターが高度に絡み合ったフュージョンサウンドによって表現している。時折吐息のような音が挿入されることで、一種官能的とすら言える大人の魅力が伝わってくる。

同じく2015年には、ジークレストがおくる女性向けコンテンツ夢王国と眠れる100人の王子様(以下夢100)で作曲を担当する。同作はスマホ向けのパズルRPGで、ダンロンよろしくアニメ化や舞台化もされている。ソーシャルゲームであるという特性上、アップデートによって楽曲が追加されるため、季節ごとのイベント曲なども充実している。

www.nicovideo.jp『ユメクイとの戦い』(夢王国と眠れる100人の王子様iOS・And/2015年)

ユメクイというのは同作における敵であり、人々の夢を喰い散らし、永遠の眠りへと誘う存在として恐れられている。そうした脅威との通常戦闘において流れるこの曲は、淑やかで煌びやかなファンタジーRPGにふさわしく、気品あふれるストリングスの音色が心地良い一曲である。まさに夢見心地ということばがしっくりくるような幻想的な曲調で、さらっと簡単操作でパズルを解く快感を綺麗に表現している。

最近では前述の通りダンロンシリーズや夢100で引き続き音楽を担当している他、女性向け繋がりでオトメイトのADV「花朧 ~戦国伝乱奇~」(2017年)に携わる。同作は戦国時代を舞台とした和風アドベンチャーであるため、楽曲も基本的に和モノで統一されている。同作以前に高田氏が担当した和風の作品としては、古くは「猫侍」(1999年)、比較的新しいもののなかでは「零 ~月蝕の仮面~」(2008年)といったものが挙げられ、このたび「花朧」では久々に純和風サウンドを制作することとなった。

最後にもう一曲、直近ではないが高田氏の作曲スタイルを捉えたものとして、100曲以上の楽曲を単独でつくりあげたニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期(2017年)から紹介する。

www.youtube.com『Beautiful Lie』(ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期PS4PSV/2017年)

ダンロンシリーズでは楽曲の方向性はある程度固まっていて、曲名を見ればだいたいどのグループに属するものなのかが分かる仕組みになっている。この曲は初代の『Beautiful Days』『Beautiful Dead』『Beautiful Morning』、2の『Beautiful Ruin』などの『Beautiful~』系に連なる一曲として、確たる存在感を示している。これらの楽曲はいずれも繊細で複雑なヴァイブを漂わせたものとなっていて、とりわけこの曲は、のべつ幕なしに奏でられる高音のアルペジオによる伴奏が耳に残りやすい。鮮やかな伴奏の上を、無機質なピアノの音色が駆け抜けることで、静けさと賑やかさの相反する二つの要素が違和感なく溶け合っている。

2018年9月には新たなコンテンツ制作会社・Tookyo Games合同会社が設立されたことが明らかになり、七名の主要メンバーのうちの一人として、高田氏は同社のCOOを務めている。進行中の新プロジェクトの続報が期待されるとともに、新規IPにおける高田氏の活躍にも目が離せない。

 

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選曲がすこし偏り気味ですがご愛嬌。高田さんはサイケデリック系の曲をつくらせると向かうところ敵なし、というような印象を受けます。参考までに、今まで格納した高田さんの楽曲をどうぞ。