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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#383 『北風のミュゼット』(阿知波大輔/アーシャのアトリエ ~黄昏の大地の錬金術士~/PS3)

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ガストがおくる錬金術RPG・アトリエより、

阿知波大輔作曲、アーシャの『北風のミュゼット』。

フィルツベルクのアトリエで流れます。

素材を集めて調合して依頼をこなしていくアトリエシリーズの14作目にして、黄昏シリーズの第1弾にあたる本作。滅びゆく大地を舞台に、人里離れた地でアトリエを営む錬金術士の少女・アーシャは、数年前に行方不明になったはずの妹の幻影を見たことをきっかけに旅に出ることになる。本作はそれまでの世界観を一新し、終末ものを彷彿させる退廃的な作風を取り入れている。戦闘面では距離の概念が導入され、位置取りによってアドバンテージを取れるような仕組みを採用している。調合面では、潜在能力を引き出したり打ち消したりできる調合スキルという新要素が加えられていて、素材の投入順によって成果が変わる。また、時間制限も健在で、3年間をどう過ごすかはプレイヤー次第である。新章ならではの独特な世界観が魅力的な意欲作に仕上がっている。

本作の音楽を担当するのは阿知波大輔氏、下田祐氏、柳川和樹氏の三名。いずれも当時ガストに所属していた(あるいは現在も所属している)作曲家たちである。このうち下田氏はアトリエシリーズ初参加で、続編のエスカ&ロジーでも引き続き阿知波氏や柳川氏とともに作曲を手がけることになる。滅亡を控えた黄昏の世界を表現するにあたって、本作では哀愁漂う民族音楽調の楽曲が数多く取り揃えられていて、採取地ごとに戦闘曲が切り替わるなどの工夫も見受けられる。サウンドトラックは通常のものに加えてボーカル曲をフィーチャーしたアルバムも発売されている。

フィルツベルクは本作最大の拠点であり、人々の自由と自治の精神が築き上げた、歴史ある城塞都市である。そこに居を構えてアトリエを経営する際に工房内で流れるのがこの曲である。素朴な三拍子のもと、コンサーティーナアコーディオンのような蛇腹楽器)を思わせる主旋律に、ギターの伴奏が静やかに寄り添うことで、温かくも切ない民族調の響きを生み出す。前向きでありながら確かな哀愁を滲ませる絶妙な曲調が印象的で、曲全体を通じて黄昏の大地で営む工房というイメージにぴったりな空気感を漂わす。なお、曲名にあるミュゼットとは、フランスに古くから伝わる気鳴楽器の一種およびそれに関連する演奏法や舞曲一般を指す複合的な概念で、この曲もそれに通ずる踊るような軽やかさを感じさせる。

この短いループのなかに黄昏の雰囲気を完璧に表現していて、多作なアトリエシリーズのなかでも特に好きな一曲です。たしかサントラ音源とインゲーム音源だと曲の入りがすこし違うんですよね(上はサントラ音源、インゲームだとイントロの11秒間がない)。