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隔週末の作曲家談議 vol.003:下村陽子

作曲家について語るコラムです。

vol.003で扱うのは下村陽子(しもむら・ようこ)氏。

代表作は「ストリートファイター」「キングダムハーツ」「マリオ&ルイージRPG」など。

なお、記事に記載された内容はすべて2019年2月2日現在のものです。

まずは一曲。

www.youtube.com『ホームタウン ドミナ』(聖剣伝説 LEGEND OF MANA/PS/1999年)

氏の代名詞とも言うべき、未だに根強い人気を誇るこの曲は、ゲーム内で最初に訪れるドミナの町で流れる曲である。聖剣伝説といえば、それまでは伊藤賢治氏や菊田裕樹氏が作曲を担当してきたが、LOMでは下村氏が全曲単独で作曲していて、伊藤氏や菊田氏がつくりあげたシリーズサウンドを受け継ぎつつ、さらなる深みへと導いた珠玉の名曲揃いとなっている。オルガンと笛とストリングスが奏でるノスタルジックなメロディーラインは、ここドミナの町こそが故郷なのだとプレイヤーの胸に強く刻み込み、始めたばかりで右も左も分からぬはずのLOMの世界への没入感を最大限にまで高めてくれる。RPGの幕開けにふさわしい、象徴的な一曲である。

下村陽子氏、1967年生まれ、兵庫県出身の作曲家。得意楽器は音大時代に専攻していたピアノ。フルートやギター、トランペットの演奏経験もあり、指揮も学んでいた。音大卒業後、カプコンに入社。1988年に同社のファミコンディスクシステム用アドベンチャー「サムライソード」にて、おいものようちゃん名義で作曲家デビュー。同社のサウンドチーム・ALPH LYLAの一員として、ベルトスクロールアクションの名作ファイナルファイト(1990年)など、90年前後のカプコンサウンドを支える。氏にとって「人生が変わったタイトル」と語るのは、1991年のストリートファイターII。当時の対戦格闘ブームを巻き起こした伝説のアーケードゲームである。同作は同じくALPH LYLA所属の阿部功氏との共作だが、ほとんどの楽曲は下村氏が手がけていることから、下村氏のつくった音楽が幅広い世代に知れ渡ることとなる。

www.youtube.comアメリカ(ガイル)』(ストリートファイターII/AC/1991年)

親友の敵討ちのため、復讐に燃えるアメリカ空軍少佐・ガイルのテーマ曲として、彼のステージで流れるのがこの曲である。冷静沈着でとことんまでストイック、それでいて熱血漢でもあるハードボイルな性格の彼を体現した、重苦しくも熱さたぎる曲調は、イントロのフレーズだけですでにインパクトが大きく、同作をプレイする環境、すなわちゲームセンターという場所そのものの賑やかさや、ゲーム内において技の名前を叫ぶSEの迫力に掻き消されることのない力強さを持ち合わせている。当時の格ゲーブームの熱狂ぶりを今なお鮮烈に思い起こさせてくれる一曲である。

以前から下村氏はRPGに関心を寄せていたため、1993年にカプコンを退社すると、同年にスクウェアに入社。翌年には氏にとって初となる本格的なRPGライブ・ア・ライブ(1994年)で作曲する。同作以前にはRPG作品としてはカプコン「ブレス オブ ファイア 竜の戦士」(1993年)での作曲経験があるが、そちらでは一曲のみの参加に留まっている。「ライブ・ア・ライブ」は場所も時代もバラバラな7つのストーリーから成るオムニバス形式のRPGで、それぞれのシナリオごとに異なるメインテーマや戦闘曲が用意されているが、これらすべてを下村氏が単独で作曲している。

www.youtube.com『MEGALOMANIA』(ライブ・ア・ライブSFC/1994年)

現代や原始、SFに幕末に功夫に西部に近未来、それぞれまったく異なる世界を舞台にしているが、そこには確かな共通点があり、世界の真相へと迫る道筋が示されている。ことに各編のラスボス戦は物語上で非常に重要な役割を果たしていて、それまで別々の戦闘曲が当てられていたが、ラスボス戦のみは共通してこの曲が用いられる。一貫して奏でられる勢いあふれるプログレッシブなサウンドが特徴で、途中オルガンの音色が挿入されることで、中世風の荘厳で凄絶な雰囲気を漂わせている。曲名は「誇大妄想」を意味し、すべてのシナリオをクリアした暁にはきっとその真意に辿り着ける。

氏は2002年までスクウェアに在籍するが、同作以降、同じく当時スクウェアに所属していた松枝賀子氏との共作でジークラフト開発のシミュレーションRPGフロントミッション(1995年)や、ホラー小説原作のシネマティックRPGパラサイト・イヴ(1998年)なども担当する。どちらも後にシリーズ化されることとなるヒット作である。また、スクウェア任天堂の共同制作タイトルであるスーパーマリオRPG(1996年)でも全曲を単独で手がけ、同作の流れを汲むマリオ&ルイージRPGシリーズにも携わることとなる。その他、シリーズの源流を辿れば元々はファイナルファンタジーの外伝から始まった聖剣伝説 LEGEND OF MANA(1999年)や、同じくFFの派生作であるはたらくチョコボ(2000年)など、スクウェアの主力タイトルのスピンオフで活躍する。さらに、ディズニーとの衝撃のコラボ作にして、後にスクウェアおよび合併後のスクウェア・エニックスの代表作にまで上り詰めることになるRPGキングダム ハーツ(2002年)において、氏はスクウェア在籍時の最後の作品として単独で作曲を務めることになる。フリーになってからもキングダムハーツシリーズには引き続き携わる。

2003年よりフリーの作曲家兼編曲家として活動することになり、初めて手がけたのは先に触れた通り、アルファドリーム開発のマリオ&ルイージRPG(2003年)である。アルファドリームは「スーパーマリオRPG」の開発スタッフの一部が独立して誕生したゲームメーカーで、下村氏も同作でサウンドを務めた縁があることから、シリーズの作曲を任せられることとなる。ポップでコミカルな世界観にあわせて、陽気な楽曲が大半を占めるが、物語終盤に差し掛かるにつれてシリアス調の曲が存在感を増していく。続編のマリオ&ルイージRPG2(2005年)では特にその傾向が顕著で、こうした作風は後の作品に受け継がれていくことになる。

www.youtube.com『もう一人のレクイエム』(マリオ&ルイージRPG2NDS/2005年)

同作はシリーズのなかでもとりわけ鬱要素が強めで、ともすればホラーに近い不気味さがあるが、そうしたなかでのラスボス戦で流れるのがこの曲である。一見して戦闘曲らしからぬオーケストラ調の壮大なバラードで、ゆったりとした曲調のなかには切なさと美しさと本物の絶望感が滲んでいる。曲名にある「もう一人」というのは、同作のラスボスが姉妹の片割れ(姉)であり、妹への復讐を燃やしている状況を示したものと考えられ、それと相対するのがマリオとルイージの兄弟である、という構図が、いっそう悲愴感を増長する。それまでの展開や、長期戦になりやすいシチュエーションと相まって、特に印象深い一曲である。

フリーになってからはゲーム以外で活躍するようにもなり、アニメに関しては学園ラブコメ極上生徒会(2005年)や、最近ではアーケードゲームを題材にした「ハイスコアガール(2018年)などで劇伴を務める。後者は「ストリートファイターII」を物語の中心に据えていて、まさしく下村氏本人が作曲を手がけたゲームを扱う作品について、その劇伴を担当するという夢のセルフ共演が果たされたことが記憶に新しい。数はすくないが舞台や映画なども時折手がけていて、アニメ映画「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」(2017年)で臨場感あふれるサウンドを生み出した。

ゲームに関しては、ジャンルや開発会社の垣根を越えて数多くの作品に携わる。スクウェア・エニックスキングダム ハーツII(2005年)聖剣伝説 HEROES of MANA(2007年)といったシリーズものはもちろんのこと、コナミ音ゲー「pop'n music 13 カーニバル」(2005年)や同シリーズ「17 THE MOVIE」(2009年)などにも楽曲を提供する。2010年にはモノリスソフトの大作RPGゼノブレイドにて、光田康典氏や清田愛未氏、ACE+の面々とともに作曲を務める。担当曲は一部に留まっているが、メインテーマを始めとする重要な楽曲を手がけていて、下村氏の情熱あふれる作風が反映されている。

www.youtube.com『引けない戦い』(ゼノブレイドWii/2010年)

同作では物語開始前に大きな戦争があり、迫りくる敵兵相手に英雄的な活躍をしたダンバンという登場人物がいるが、その彼がパーティメンバーとして加入する際のイベント戦闘において、ゲーム中たった一度きりしか流れないのがこの曲である。ストリングスの魅力を極限まで引き出したスタイリッシュな旋律は、今でこそ年長者らしく落ち着いた兄貴然としているが、本質的には直情的で一点特化なイノシシとしてのダンバンの姿を如実に表していて、優雅さと熱血さが絶妙なバランスで組み合わさった仕上がりとなっている。「ゼノブレイド」は全般的に演出が秀逸なことで知られているが、この曲は一度しか流れないからこそ、その格好良さが深く脳裏に刻まれることだろう。

近年はスマホ向けアプリの作曲にも携わっていて、ベテラン作曲家の下村氏がサウンドを手がける、というのが宣伝文句として用いられることもすくなくない。イニスがおくるブレイクビーツアクション「DEMON'S SCORE」(2012年、サービス終了済み)を筆頭に、ガンホーのボードRPG「サモンボード」(2014年)やFuji&gumiのタクティクスRPG「誰ガ為のアルケミスト(2016年)など、様々なアプリで良曲を生み出している。また、コンシューマー向けの作品ではファイナルファンタジーXV(2016年)で、今まで聖剣伝説チョコボなどの外伝の作曲を務めていたが、満を持して本家シリーズに初参戦することになる。編曲方面では大乱闘スマッシュブラザーズX(2008年)以降、最新作の「SPECIAL」(2018年)に至るまで、セルフアレンジ含め様々な楽曲を手がけている。

最後にもう一曲、直近のキングダム ハーツIII(2019年)より、以下を紹介して聴き納めとする。

www.youtube.com『Hearts as One』(キングダム ハーツIIIPS4・XOne/2019年)

シリーズ屈指の名作として名高い『The Other Promise』に『Vectors to Heaven』、さらに『Sora』やその他いくつかの楽曲をリミックスした、まさに集大成とも言うべきこの曲は、サイクスとの戦闘で流れる曲である。『The Other Promise』はロクサスを、『Vectors to Heaven』はシオンを、『Sora』はソラをそれぞれ象徴するテーマ曲だが、かつて敵として対峙した彼らと協力してサイクスを打ち倒すという壮絶な展開を飾るにふさわしい豪華なアレンジとなっている。「キングダム ハーツIII」は初代から連綿と続いてきた物語の完結編であり、そうした期待に見事に応えた仕上がりとなっている。なお、サウンドトラックは現時点ではまだ登場しておらず、編曲者も明かされていないが、原曲はいずれも下村氏の作曲である。(※追記:記事執筆当時はサントラ発売前だったが、その後、曲名が確定し、編曲者は島翔太朗氏と明かされた)

下村氏は2018年にはデビュー30周年を迎え、ゲーム音楽界を牽引する立場として、今後の活躍も大いに見込まれる。

 

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担当作品が多すぎて、有名どころを紹介するだけで終わってしまいました。スマブラSPの『カッシーワのテーマ』を紹介しようと思っていたのですが、それはまた今度。参考までに、今まで格納した下村さんの楽曲をどうぞ。