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隔週末の作曲家談議 vol.005:浜渦正志

作曲家について語るコラムです。

vol.005で扱うのは浜渦正志(はまうず・まさし)氏。

代表作は「チョコボの不思議なダンジョン「サガ」「FF」など。

なお、記事に記載された内容はすべて2019年3月2日現在のものです。

まずは一曲。

www.youtube.com『閃光』(ファイナルファンタジーXIIIPS3/2009年)

浜渦氏と言えばこれ、というほどの知名度と人気を誇るこの曲は、ファイナルファンタジーXIIIの通常戦闘曲である。同作は氏が全曲単独で作曲していて、いずれの楽曲も国民的な大作RPGにふさわしい力作揃いである。とりわけこの曲は、曲名が主人公のライトニングをイメージしたものであり、『ライトニングのテーマ』と共通するフレーズを用いていること、さらにはPVや体験版の段階から頻繁に流れていたために存在感が一際大きく、同作の代表曲にして、浜渦氏の代表曲として名高い。じりじりと熱を蓄えていくイントロに、すべてのしがらみを解放するかのごとく伸び伸びと奏でられるサビ、終始戦闘曲らしい疾走感を保ちつつも、緩急の差がはっきりと顕れていて、非常に聴き応えのある一曲である。

浜渦正志氏、1971年生まれ、ドイツ・ミュンヘン出身(当時両親が音楽留学していたことから)の作曲家。得意楽器はピアノとバイオリン。東京藝術大学音楽学部声楽科を卒業しているため、声楽への造詣も深い。卒業後、1996年にスクウェア(2003年にエニックスと合併しスクウェア・エニックスとなる)に入社。同年のFRONT MISSION SERIES GUN HAZARD」にてデビューを果たすが、同作以前にもコナミの読者参加型企画ラグランジュポイント(1991年)にて、一般公募されていたBGM部門で入賞し、実際に氏の音楽が収録されたため、ゲーム音楽に携わるのは初めてではない。「GUN HAZARD」はフロントミッションシリーズの外伝であり、氏の他には当時同じくスクウェアに所属していた植松伸夫氏、仲野順也氏、光田康典氏も作曲を手がけている。

www.youtube.com『APPROACH TO A SHRINE』(FRONT MISSION SERIES GUN HAZARD/SFC/1996年)

同作では植松氏と光田氏が大半の作曲を務め、仲野氏と浜渦氏の担当分はわずか数曲に留まるが、そのなかでもこの曲は、ラストステージという重要な場面にて流れる一曲である。浜渦氏はその緻密な打ち込みと透明感あふれる音使いで知られるが、デビュー作にしてすでにそうした作風を十二分に発揮している。コーラスや鐘を大胆に用いたリズミカルな曲調は、後には退けぬ独特な緊張感と昂揚感を生み出していて、ラストダンジョンにふさわしい荘厳な盛り上がりを見せつけてくれる。

同作を担当した半年後には、スクウェアにとって初のプレイステーション参入タイトルとなるキャラ格闘ゲームトバルNo.1(1996年)にて、複数の作曲家たちと共作でいくつか楽曲を提供することになる。また、翌年にはスクウェアの主力タイトル「ファイナルファンタジー」のマスコットキャラを主人公にした外伝作チョコボの不思議なダンジョン(1997年)にて、今度は全編単独で作曲を担うことに。今でこそチョコボシリーズのサウンドはFFの楽曲のアレンジを中心に構成されているが、初代にあたる同作ではすべて浜渦氏オリジナルのものが用いられている。

www.youtube.com『未知の空間』(チョコボの不思議なダンジョン/PS/1997年)

数あるダンジョン曲のなかの一つであるこの曲は、軽快に跳ね回るピアノと自由自在に音階を奏でる笛やトランペットの即興風のアンサンブルが心地良い一曲である。全体的に陽気で可愛らしい雰囲気を醸している反面、1分13秒から唐突に、宇宙空間を思わせる間延びした電子音がしばらく響き渡ることで、どこか怪しげで不気味で、それゆえ好奇心くすぐる仕上がりとなっている。

次に担当することになるのは1999年のサガフロンティア2サガシリーズは同作以前は伊藤賢治氏が作曲を担っていたが、同作では浜渦氏に一任されている。同作の楽曲は極めて特徴的なスタイルで作曲されていて、主となる三種類のメロディーラインを基に複数の異なる楽曲をつくりだしている。共通のフレーズを用いることで統一感を演出しつつ、楽器や曲調、テンポなどを弄ることで多様性をも創出している。なお、曲名はすべてドイツ語が用いられていて、ミュンヘン生まれの氏ならではの高い教養と独自性にあふれている。また、サガシリーズには次作のアンリミテッド:サガ(2002年)でも単独で作曲している。

www.youtube.com『バトルテーマIV』(アンリミテッド:サガPS2/2002年)

同作はその難解さゆえに人を選ぶ作品として知られているが、そうした癖の強さを表現するかのごとく、この曲は非常にスパイスの効いた戦闘曲である。イントロから勢いあふれるフィドルが舞い込み、バンドネオンの情緒的な伴奏やカスタネットが刻むビート、そこにピアノが力強くしがみつくことで、一見カオスじみた曲調ながらも、かなり美しく均整のとれた流麗な出来栄えとなっている。このゲームにしてこのBGMあり、と言わんばかりの中毒性あふれる一曲である。

FFシリーズにはチョコボなどの外伝を除くと)ファイナルファンタジーX(2001年)で初めて参戦し、植松氏や仲野氏とともに、FF初の東洋風の世界観に見合った癒しと叙情のエスニックサウンドを数多く制作した。以降、再び外伝作としてダージュ オブ ケルベロス - ファイナルファンタジーVII -」(2006年)を担当する他、正規のナンバリングタイトルとしては「ファイナルファンタジーXIII(2009年)とその続編ファイナルファンタジーXIII-2(2011年)およびライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII(2013年)も手がけた。

氏は携帯機の作品を担当することはすくない傾向にあるが、2008年にはDSで発売された大正浪漫風のミステリーRPGシグマハーモニクスにおいて、据置機と遜色のないレベルの高音質で高品質なサウンドを生み出した。同作では題名にハーモニクスとある通り、作中で音楽が重要視されていて、装備ごとに異なる戦闘曲が用意されているなど、楽曲に対する強いこだわりが窺える。

2010年にスクウェア・エニックスを退社すると、引き続きスクエニ作品に関わる傍ら、かねてから精力的に活動を続けていたコンサートやアレンジアルバムの制作に邁進するようになる。海外公演などをこなしつつ、翌年にはMina氏とともに音楽ユニット・IMERUAT(イメルア)を形成。Mina氏はアイヌ民族の血を引き継いだ北海道出身の舞踊家兼ボーカリストである。浜渦氏は以前より北方の少数民族に関心を寄せ、長年にわたって積極的にフィールドワークをおこなっていたことから、IMERUATの活動には特別力を注いでいるようである。現代音楽やコンテンポラリーダンスなど、幅広いジャンルで活躍しているなか、ゲーム音楽の方面では、ユニットの二人組でタイトー音楽ゲームミュージックガンガン! 2」(2011年)「グルーヴコースター」(AC版、稼働開始は2013年だが浜渦氏の楽曲が追加されたのは2014年)にオリジナルの楽曲を提供している。

フリーになってからは、音ゲーに加え、バンナムの国民的アイドルオーディションゲームデータカードダス アイカツ!(2012年)大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS / WiiU(2014年)など、多数の作曲家が一堂に会する作品にて作曲することが多くなる。マーベラスの超速ドラマチックRPG勇者30 SECOND」(2011年)にも他の精鋭たちとともに作曲をおこなっていて、作曲家たちそれぞれの持ち味が顕著に表現されているなか、浜渦氏も氏ならではの作風を貫いている。

www.youtube.com『Final Battle of REVOLUTION』(勇者30 SECOND/PSP/2011年)

同作はもともとはフリーゲーム「三十秒勇者」を基にしてつくられた作品の第2作目で、短い制限時間内(基本的に30秒以内)に魔王を倒し世界を救わなければならないというスピーディーなゲーム性が特徴である。そうした緊張感あふれるシチュエーションを極限まで盛り上げてくれるのが疾走感に満ちた楽曲の数々であり、モードの一つである「勇者30 REVOLUTION」の最終決戦を彩るこの曲は、いかにも浜渦氏らしいクールなパーカッションとエレガントなバイオリンによる旋律が美しい。このステージは例外的に制限時間が60秒とすこし長めであり、圧倒的な密度を誇る氏の音楽に酔い痴れる時間的猶予が設けられている。

ゲーム音楽の作編曲やIMERUATのライブに励むなか、アニメの劇伴などにも活動の幅を広げ、2012年にはギャグアニメ「貧乏神が!」、2014年にはノイタミナの短編「ポレットのイス」などを担当する。2016年にはクラシックを題材としたドタバタコメディ「クラシカロイド」にて、クラシック音楽オーケストレーションに精通している氏の手腕を発揮している。

2015年にはIMERUATのMina氏と共同で株式会社MONOMUSIKを立ち上げる。公式サイトからは浜渦氏やIMERUATに関連するCDやグッズなどの通販がおこなわれている。また、同じ年にフリューの完全新作レジェンド オブ レガシー(2015年)にて作曲を務めることになる。同作はサガシリーズのクリエイターなどを起用していて、その繋がりからか浜渦氏も制作陣に名を連ねている。

www.youtube.com『双次元バトル』(レジェンド オブ レガシー3DS/2015年)

同作は7人の旅人たちがそれぞれの目的のために謎の島アヴァロンを探索するファンタジーRPGで、戦闘システムなどを中心にサガシリーズを強く意識した仕上がりとなっている。そうした印象を裏付けるのが、浜渦氏の格調高い楽曲群で、とりわけこの戦闘曲は、氏の得意楽器であるピアノとバイオリンの両方の魅力を最大限にまで引き出したメロディアスな一曲である。ゆったりと落ち着いた雰囲気を醸しつつ、どこか先鋭的で切れ味のある音使いは、未知への挑戦や手探りの楽しさを重視する同作にふさわしい冒険感にあふれている。

レジェンド オブ レガシー」以降、同作の精神的後継作である「アライアンス・アライブ」(2017年)でも引き続き作曲をおこなっている。「アライアンス・アライブ」では氏の娘にあたるAYANE氏も一部の作曲に携わっていて、親子の共演を果たしている。

最近は劇場アニメ「くまのがっこう パティシエ・ジャッキーとおひさまのスイーツ」(2018年)といった子供向けのタイトルの劇伴を務めたり、丸山珈琲のイベントに楽曲を提供したり、国籍の垣根を越えて交流する現代音楽企画「mosaic」に参加したりするなど、ゲーム音楽業界に限らず様々なフィールドで活動している。そうした多分野で培った経験が氏の音楽づくりにどのような好影響を与えていくのか、今後の活躍に期待が高まる。

 

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「これぞ浜渦さん!」みたいな楽曲ばかり紹介しました。アレンジ盤などでは上記のような作風以外にも、テクノやヒーリング系の楽曲も充実しています。参考までに、今まで格納した浜渦さんの楽曲をどうぞ。