VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#440 『Déraciné』(北村友香/Déraciné/PSVR)

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フロムがおくるVRアドベンチャーデラシネより、

北村友香作曲、『Déraciné』。スタッフロールで流れます。

「古典的アドベンチャーゲームを、最新のVR技術で描く」というコンセプトのもと、PSVR専用タイトルとして登場した本作。プレイヤーは止まった時の世界に住む、人間の目には見えない妖精となり、寄宿学校で暮らす6人の少年少女たちの運命に干渉していくことになる。VRならではの魅力がたっぷり注ぎ込まれた温かく臨場感のある世界と、そこで繰り広げられる子どもたちによる残酷で美しいドラマが特徴である。随所に散らばるアイテムや、言霊という手を近付けることでそこに残留している音声を聴けるギミック、時間や命を操ることのできる指輪など、様々な仕掛けを駆使しながら文字通り手探りで物語を進めていく。五感のすべてを用いて味わい尽くすことのできる仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは北村友香氏、齋藤司氏、宮澤翔衣氏。北村氏は当時、齋藤氏と宮澤氏は現在もフロムに所属する作曲家で、社内のサウンドチーム・FreQuencyのメンバーである。FreQuencyでは北村氏がバイオリンを、斎藤氏がドラムを、宮澤氏がギターとマニピュレートをそれぞれ担当している。このうち宮澤氏は当時フロムに入社したての新人で、ゲームでの作曲を務めるのも本作が初めてである。ミステリアスでありつつ、終始落ち着いた雰囲気の本作の作風にあわせて、弦楽器の多重奏を中心とした格調高いアンサンブルサウンドが揃っている。サウンドトラックは限定版の特典として付属されている。

物語を終え、エンディングとともに流れ出すのがこの曲である。静謐さを目一杯漂わせたピアノと素朴なバイオリンの旋律が紡ぐアンサンブルが印象的で、ドラマチックな起伏を見せつつ、優しく物柔らかに響き渡る。全体的に滑らかで音の切れ目を感じさせない一方で、時折ぱたっと音が止む小休止を入れることで、情緒豊かに緩急をつけ、聴く者の心を揺さぶる。また、要所要所にオルゴールの音色を入れることで、その澄んだ響きによって魔法にかけられたような幻想的な空気感を生む。最後の最後で本作への没入感を最大限にまで高めてくれる温もりあふれる一曲である。

デラシネはボリュームは少々抑えめで曲数もすくないですが、非常に丁寧さが光る作品ですね。