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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を一日一曲を目安に紹介します。

隔週末の作曲家談議 vol.007:坂本英城

作曲家について語るコラムです。

vol.007で扱うのは、ノイジークロークの坂本英城(さかもと・ひでき)氏。

代表作は「無限回廊」「討鬼伝」「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」など。

なお、記事に記載された内容はすべて2019年3月30日現在のものです。

まずは一曲。

www.youtube.com『Time Travelers』(TIME TRAVELERS/3DSPSV/2012年)

オーケストラや弦楽器の扱いに定評のある氏の楽曲のうち、特に顕著に氏の作風が反映されているのがこの曲である。レベルファイブがおくるタイムトラベルアドベンチャー「TIME TRAVELERS」(2012年)は、以前氏が作曲を担当したチュンソフトの「428 ~封鎖された渋谷で~」(2008年)と世界観を共有していて、同作の楽曲は「428」で培ったオーケストラサウンドを受け継ぎつつ、時を越えるSFサスペンス群像劇にふさわしい、悠久の時を感じさせる壮大さにあふれている。その最たる例として挙げられるのがこの曲であり、弦楽器、管楽器、コーラス、それぞれが確固たる存在感を放ちつつ、音の一つ一つが見事に調和し、溶け合うさまは圧巻の一言である。エンディングではこの雄大なメロディーにオーストラリア出身の歌手・Sarah Àlainn氏による英語のボーカルを乗せた『The Final Time Traveler』が用いられ、そちらは坂本氏のコンサートで頻繁に演奏される定番曲となっている。

坂本英城氏、1972年生まれ、東京都出身の作曲家。得意楽器はピアノ。中学時代からゲーム音楽に関心を寄せ、クラシック調のオーケストラサウンドの作曲にかけては卓抜した実力を誇る。大学卒業後、1996年からフリーのゲーム音楽作曲家として活動を開始する。初期の頃の代表作はトミーの動物型メカ玩具・ゾイドのゲーム作品で、とりわけ2000年に登場した「ZOIDS 帝国VS共和国 メカ生体の遺伝子」は、本格的なシミュレーションゲームとしての完成度の高さとともに、氏が単独で作曲を務めたサウンドの評価も高い。

www.youtube.com『帝国第1章戦闘曲』(ZOIDS 帝国VS共和国 メカ生体の遺伝子/PS/2000年)

※正式曲名不明、上記動画の2:34から4:28まで。

同作ではゼネバス帝国とヘリック共和国のいずれかを選択し、物語を進めていくことになるが、帝国側を選択した際の第1章の戦闘曲として流れるのがこの曲である。帝国側のシナリオでは休戦協定を破って共和国に奇襲攻撃を仕掛けていくことになり、そうした波乱の幕開けを彩るのが、このシリアスかつアップテンポなサウンドである。帝国らしい厳格さを漂わせた音使いが印象的で、出だしのサビはもちろんのこと、悲愴感あふれる間奏を経てさらに力強く戦闘を盛り上げてくれる。凄惨な戦争の始まりを告げるにふさわしい一曲である。ちなみに同作のサウンドトラック等は現在に至るまで発売されていないため、上記の曲名は便宜上の仮称とする。

その後もしばらくフリーで活動を続ける氏だが、2004年にゲーム音楽の制作を担う株式会社ノイジークロークを設立し、同社の代表取締役CEOに就任する。2005年には同じく同社に所属するいとうけいすけ氏とともにアクワイア開発の「忍道 戒」にて作曲を務め、ノイジークロークの名を内外に知らしめることになる。続編の「忍道 匠」や「忍道 焔」(いずれも2006年)でも引き続きノイジークロークがサウンドを制作することになる。また、この時期に坂本氏が担当した作品として特に有名なのはセガ龍が如くシリーズで、「龍が如く2」(2006年)で庄司英徳氏ら複数の作曲家たちとともに、同作の濃厚な世界観を描き出す。以降もスピンオフの「見参!」(2008年)含めシリーズの作曲にしばらく携わることになる。

携帯機向けの作品ではチュンソフトの「ポケモン不思議のダンジョン 時の探検隊・闇の探検隊」(2007年)をいとう氏や飯吉新氏と共同で作曲したほか、コナミの「放課後少年」(2008年)といったタイトルでも、昭和50年代の片田舎を舞台としたノスタルジックな作風にあわせて温かみのある良質な楽曲の数々を生み出す。アクションやアドベンチャー、ダンジョンRPGなど、ジャンルを問わず活躍し続けるなか、今度はがらっと趣向を変えて室内楽を意識した弦楽四重奏の作曲を、SCEの錯視パズルゲーム「無限回廊」(2008年)で担当することになる。同作はエッシャーの騙し絵に着想を得てつくられた作品で、エッシャーがバッハに傾倒していたという経緯から、サウンドの方向性は古めのクラシックで統一することになる。使用する楽器はバイオリン二本にヴィオラとチェロを一本ずつという構成で、いずれの楽曲もゲーム内の特定のステージを想定したものではなく、全曲中ランダムで再生される仕組みとなっている。

www.youtube.com『prime #919』(無限回廊PSP/2008年)

数ある楽曲のなかで、とりわけこの曲は情熱的な色合いを帯びた一曲である。頭をひねらせて解答を導き出す同作では、シンキングタイムを彩るしっとりめの落ち着いた曲調のものが多いが、この曲はその限りではない。緊張感たっぷりに奏でられる重厚な音使いは、一刻も早く正解に辿り着いてみろと言わんばかりの挑発的な勢いに満ちていて、均整のとれた美しい和音の重なり合いが、アレグロの疾走感のなかで活き活きと響き渡る。弦楽四重奏の持つ刺激的な魅力を全面に押し出した逸品である。

氏にとって無限回廊にはもう一つ重要な逸話があり、それは続編の「無限回廊 光と影の箱」(2010年)にてギネス世界記録に挑戦し、認定されたというものである。同作では複数の楽曲を用意してランダムで再生していた前作とは異なり、一つの曲のみを流しっぱなしにするという手法を取っているが、そのただ一つの楽曲の長さは、75分7秒にも及ぶ大作となっている。分数を年齢に見立て、人間の一生を描くイメージで作曲したとされる『prime # 4507』は、弦楽四重奏にピアノの音色を加えることでますますメリハリに富んだ仕上がりとなっていて、世界一長いゲームミュージックとしてギネスに登録された。ちなみにこの曲のレコーディング風景はUSTREAMにて生放送され、この頃からすでにファンとの交流を重視する氏の姿勢が顕著に現れていた。

忍道での繋がり故なのか、同じく2010年にはアクワイアが開発した「100万トンのバラバラ」「勇者のくせになまいきだ:3D」の両方を手がけることになる。このうちゆうなまシリーズはそれまではまたけし氏(当時ノイジークロークに所属していた)が単独で作曲を務めていたが、3作目にして坂本氏にバトンタッチし、はま氏の築き上げたゆうなまサウンドを継承しつつ坂本氏らしい特色を新たに加味することになる。同作では基本的に小学校で用いられる楽器を中心に曲づくりをおこなっているが、そこにストリングスを足すことで従来にない新鮮さを演出することに成功している。

www.youtube.com『来るべきセカイ』(勇者のくせになまいきだ:3D/PSP/2010年)

同作のエンディングで流れるこの曲は、まさに集大成かつ大団円にふさわしい完成度の高さを誇る一曲である。リコーダーや木琴、トライアングルなどの素朴で軽やかな音色に、流麗なストリングスの音色が伴奏として加わることで、ただ底抜けに明るいだけに留まらぬ深遠な雰囲気を醸していて、音の厚みが格段に増している。楽曲の良さもさることながらエンディングムービーの出来栄えも素晴らしく、全編ドット絵で描かれた、恐るべき美麗さを備えたアニメーションとこの曲とのシンクロ度合いも目を見張る。「個性的だが聞きやすく覚えやすく」をモットーに掲げる氏の手腕が見事なまでに発揮された一曲である。

氏はゲーム音楽の作曲家として、同業者同士の関わり合いはもちろんのこと、ファンとの交流の場を設けることに並々ならぬ意欲を示していて、2009年に第1回ゲームミュージックコンポーザー座談会を主宰すると、デザインウェーブ甲田雅人氏、キャビア佐野信義氏、セガの庄司氏や光吉猛修氏、ブレインストームの中村隆之氏、スーパースィープの細江慎治氏、プロキオン光田康典氏、そしてノイジークロークの坂本氏といとう氏という、総勢九名からなる錚々たるメンバーが一堂に会することになる。また、この企画を基にニコニコ生放送で「おとや」というトーク番組が不定期で放送される。「おとや」は2010年に複数回放送した後、しばらく音沙汰がなかったが、2015年に復活し、現在までに5回放送されている。それとは別にUSTREAM向けにノイジークロークのメンバーでおくる「ノイズなやつら。」という番組も生配信していて、ファンの質問や感想などを随時受け付けながら、様々な音楽制作秘話をゆるく語り合っている。

2010年に自社専属のレーベルとなるノイジークロークレコーズを立ち上げ、2011年にはロシアでオーケストラコンサートを開催するなど、会社一丸となって活躍の場を広げるなか、新たに活動の拠点として福岡支社を設ける。これを受けて氏は福岡を中心にゲーム制作をおこなっているレベルファイブより「TIME TRAVELERS」や「怪獣が出る金曜日」(2013年)、ガンバリオンより「ONE PIECE アンリミテッドワールド R」(2013年)といった作品のサウンドを手がけることになる。また、2012年には社内バンドのTEKARUを結成、氏はバンドリーダーとして、ボーカル・オルガン・キーボードを兼任する。オリジナル曲のほか、既存のゲーム楽曲に大胆なプログレアレンジを施したファーストアルバム「TEKARU TECHNICAL」(2012年)を皮切りに、「TEKARU MECHANICAL」(2012年)、「TEKARU HECTOPASCAL」(2015年)といったCDを次々と発表する。2014年にはゲーム音楽の作曲家を集めて「沖縄ゲームタクト2014」を開催し、琉球フィルハーモニーによるゲーム音楽のフルオーケストラ演奏を実現する。以降、東京に拠点を移し東京ゲームタクトとして、ゲーム音楽の魅力を幅広く発信していくことになる。また、その翌年にはゲーム音楽専門の音楽出版社であるココカラ株式会社を設立し、氏は代表取締役として、ゲーム音楽文化遺産として後世に伝えるべく音楽著作権の管理や著作物の制作などの事業に邁進するようになる。

CD制作やコンサート、イベントの開催に尽力する一方で、作曲の仕事も引き続きおこなっていて、コーエーテクモの完全新作「討鬼伝」(2013年)では、和風ハンティングアクションというジャンルに沿って和楽器をふんだんに用いた楽曲を作曲する。完全版にあたる「討鬼伝 極」(2014年)の追加曲も担当したほか、続編の「討鬼伝2」(2016年)でも氏が単独でサウンドを請け負うことになり、シームレス化した同作にふさわしい広大な和ロックのサウンドが勢揃いしている。

www.youtube.comトキワノオロチ - 時輪大蛇 -』(討鬼伝2/PS3PS4PSV/2016年)

同作のラスボスことトキワノオロチとの戦闘で流れるのがこの曲である。尺八や三味線といった渋い和楽器の音色に、ピアノやストリングスなどの洋楽器、さらには無国籍なコーラスを組み合わせることで、和洋折衷ということばには収まり切らないバウンドレスなサウンドをつくり出すことに成功している。和楽器の緩急自在なメロディーラインと洋楽器のクラシカルな曲調が融合して奏でられる荘厳な音使いは、ラストバトルというシチュエーションを体現したかのような昂揚感に満ちている。スリリングな戦闘をますますスリリングにしてくれる一曲である。

最近ではコンシューマー向けの作品の他にブラウザゲームの「かくりよの門」(2014年)や「文豪とアルケミスト」(2016年)、アプリ向けの「予言者育成学園 Fortune Tellers Academy」(2016年、サービス終了済み)、「ドールズオーダー」(2018年)、「シンゾウアプリ」(2019年)なども担当するようになる。ゲーム以外では短編映画の「女流棋士の春」(2016年)にて主題歌と劇中歌の作曲を務めたり、アニメの方面では「モンスターストライク」(2015年)や「殺戮の天使」(2018年)の劇伴を担当したりもする。また、氏にとって直近の代表作として挙げられるのは「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」(2018年)である。スマブラシリーズには「大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS」「for Wii U」(2014年)より参戦しているが、スマブラSPでは数ある楽曲のうち、栄えあるメインテーマの作曲を任されることになる。

www.youtube.com『命の灯火』(大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL/NS/2018年)

同作のオープニングで流れ、かつアドベンチャーモードにあたる灯火の星のエンディングをも飾るこの曲は、現役の女子高校生である古賀英里奈氏による凛々しいボーカルが印象的な一曲である。壮大なオーケストラが奏でるメロディーラインそのものの美しさに加え、灯火の星のシナリオにマッチした力強い歌詞が、聴く者の魂ごと揺さぶってくれる。サビのフレーズはインパクトがありつつ、およそいかなるアレンジでも映えるであろう耳馴染みの良さを誇り、様々な場面であの手この手の編曲が加えられるメインテーマらしい特徴を完璧に備えている。

ゲーム音楽を文化に昇格させる取り組みが評価され、CEDEC AWARDS 2014のサウンド部門で最優秀賞に輝いたこともある坂本氏。今月ノイジークロークが15周年を迎えたことを受け、今後ますます坂本氏およびノイジークロークに所属するすべての作曲家たちの活躍が期待される。

 

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作曲家の名前や代表作・代表曲は知っていても、顔は正直分からない……ということが結構あるのですが、坂本さんはとてもよく顔を出しているのでばっちり分かりますね。すごく精力的に活動されている印象です。参考までに、今まで格納した坂本さんの楽曲をどうぞ。