VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を一日一曲を目安に紹介します。

隔週末の作曲家談議 vol.010:近藤浩治

作曲家について語るコラムです。

vol.010で扱うのは任天堂近藤浩治(こんどう・こうじ)氏。

代表作は「マリオ」「ゼルダの伝説」など。

なお、記事に記載された内容はすべて2019年5月11日現在のものです。

まずは一曲。

www.youtube.com『地上BGM』(スーパーマリオUSA/FC/1992年)

近藤氏の作曲のうち『地上BGM』の名で知られるものは数多くあり、そのどれもが抜群の知名度を誇るなかで、同作の地上面で流れるこの曲は、小刻みに音が揺れるトリルを多用した一曲である。全体的に陽気なピクニック気分を思わせる曲調でありながら、こうしたちょっとした装飾音を加えたり、ときに大胆に転調したりすることで、長く聴くことになっても決して飽きがこない工夫が凝らされている。ちなみに同作は変わった経緯で発売されていて、もともとはファミコン夢工場ドキドキパニック」(1987年、作曲は同じく近藤氏)という別個の作品を、北米向けにキャラをマリオシリーズのものに差し替えたのが「SUPER MARIO BROS. 2」(1988年)、それを日本国内に逆輸入したのが同作である。ゆえにこの曲は「夢工場ドキドキパニック」の『地上BGM』に新たに後半の転調部分を付け加えてセルフアレンジしたという世にも珍しい異色の一曲である。

近藤浩治氏、1961年生まれ、愛知県出身の作曲家。得意楽器はピアノとエレクトーン。大学でプロデュースについて学ぶ芸術計画学を専攻した。ファミコンが発売された翌年にあたる1984年、任天堂に、同社としては初の音楽専門のスタッフとして入社すると、同年のドットイート型アクションゲーム「デビルワールド」で作曲家デビュー(効果音のみであれば同作以前に「パンチアウト!!」や「ゴルフ」を担当している)を果たす。同作は中塚章人氏と共同で作曲していて、曲数がすくないうえにいずれの楽曲も曲尺が短いが、それでも限られた音のなかで耳に残りやすいフレーズを生み出すことに成功している。翌年の1985年には「サッカー」(1985年)に続き、ゲーム史上、そしてゲーム音楽史上に名を残すことになるあの「スーパーマリオブラザーズ」(1985年)で作曲を務め、上では紹介しなかった『地上BGM』をはじめ、いずれの楽曲も氏の持ち味であるシンプルかつキャッチーな作風が存分に発揮されている。

www.youtube.com『水中BGM』(スーパーマリオブラザーズ/FC/1985年)

主に水中面で流れるこの曲は、その特徴的な三拍子のリズムから、優雅なワルツやバラードを彷彿させる一曲である。休止符をたくさん用いて、音を細かく切っていくことで軽快さを演出している『地上BGM』と比較して、この曲ではなるべく滑らかに音を繋げる、いわゆるレガートのような手法を取り入れることで、水中を移動する際に生じるあの独特な浮力と、水そのものが持つ豊かな包容力を的確に表現している。その安寧に満ちた音使いは、地上や地下とは異なる昂揚感を生み出していて、どんどん先に進んでいきたい気持ちにさせてくれる。

同作の空前の大ヒットを受け、同作以降のマリオシリーズの作曲にも最新作に至るまで携わり続けることになるが、それとは別にこの時期、続けざまに氏のもう一つの代表作が誕生する。1986年、ファミコンディスクシステムの発売とともにローンチタイトルとして登場したアクションアドベンチャーゼルダの伝説」において、氏は全曲を単独で手がけ、マリオに続きまたしてもこれが大ヒットを記録したことから、ますます氏の音楽が広く一般に親しまれることになる。こうしてマリオと並行してゼルダの作曲をも務め、後に任天堂屈指の名作として語り継がれる両方の作品のサウンドを、氏一人がぜんぶ手がけるという離れ業をやってのける。それぞれのシリーズの方向性としては、マリオはアクションの気持ち良さを感じられるサウンドを、ゼルダは情景や場所ごとの空気感を重視したサウンドを念頭に作曲しているとのこと。以降のシリーズ作品においても、マリオは「サンシャイン」(2002年)まで、ゼルダは「ムジュラの仮面」(2000年)までメインコンポーザーとして活躍し続ける。その他、「謎の村雨城」(1986年)や「ふぁみこんむかし話 新・鬼ヶ島」(前後編ともに1987年)などといった和風の作品でも作曲し、音数が限られているなかでもしっかり和の世界観を感じさせる仕上がりとなっている。

1990年になるとファミコンの後継機としてスーパーファミコンが発売され、ハードの移行に伴ってファミコンでは表現し切れなかった音色を出せるようになる。こうしたなか、「スーパーマリオワールド」や「パイロットウイングス」(いずれも1990年、後者は岡素世氏との共作)において、音源の進化を印象付ける豊かな楽曲を書き下ろす。翌年、スーファミ一周年の節目に発売された「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」では、表と裏、光と闇で隔てられる二つの世界を旅する大冒険を彩る極上のファンタジーサウンドを生み出し、楽曲の多くはシリーズを通してアレンジされ続けることになる。

www.youtube.com『裏の地上』(ゼルダの伝説 神々のトライフォースSFC/1991年)

光の世界で流れる曲は初代に登場したメインテーマをアレンジしたものだが、その対となる闇の世界で流れるこの曲は、本作で新たに追加されたもう一つのメインテーマである。光の世界の曲と負けず劣らずの勇ましさを誇る一方で、笛やストリングスのしたたかな重低音は一転してダークファンタジーらしい陰を感じさせ、同一であるはずのフィールドが表と裏で様変わりするという秀逸すぎる発想に見合った悲愴感を漂わせている。物語中盤を過ぎて敵の本拠地にいざ出陣、というシチュエーションにぴったりな力強さを含んだ一曲である。

スーファミの作品としてはこのほかに、初めてヨッシーが主人公となる「スーパーマリオ ヨッシーアイランド」(1995年)で作曲し、絵本のようなグラフィックで描かれるメルヘンチックな作風にあわせて、ファンシーな楽曲を数多くつくり出す。その一方で、『クッパ』などのボス戦ではそうした世界観を突き破るような斬新なロックサウンドをも披露し、可愛いけどときに怖くもあるヨッシーシリーズの音楽の方向性を決定づけることとなる。1996年に新機種NINTENDO64が発売されると、ますます音源の幅が広がり、氏が作曲を務めたローンチタイトル「スーパーマリオ64」では、3Dアクションへと進化した画期的なゲーム性に見合った多種多様なサウンドを生み出す。この頃からゲームと連動して音を鳴らすインタラクティブな仕掛けを取り入れる機会が増えるようになる。このインタラクティブ性は、初代マリオの頃から大事にしている氏の音楽づくりの最重要ポイントであり、この傾向は氏のみならず任天堂サウンド全体に波及し、年々強まっている。そうしたなかで、とりわけ革新的だったのが「ゼルダの伝説 時のオカリナ」(1998年)であり、同作ではフィールドと戦闘との間で違和感なくシームレスに音楽が切り替わったり、昼や夜、リンクの行動によって細かく変化したりするという遊び心に満ちたギミックが数多く搭載されている。

www.youtube.comハイラル平原メインテーマ』(ゼルダの伝説 時のオカリナN64/1998年)

同作を同作たらしめる最大の要素であるあの広大な(その実、意外にも面積はそれほど大きくない)ハイラル平原で流れるのがこの曲である。曲尺やフレーズ数の多さから窺える通り、この曲は一つの曲でありながら、リンクの動き次第で様々な顔を見せてくれる。ここでは大まかにハイラルの日の出、平原中心部の探索、戦闘、日の入りというような形でメドレーになっているが、実際のゲームでは8小節ごとのフレーズが状況に応じてランダムに繋げられる仕組みとなっている。楽器の使い方や曲調を適宜変化させることで、大元の主旋律は共通していても、決して飽きることのないサウンドを生み出すことに大成功をおさめている。

時のオカリナですでにかなり円熟の域に達したと思われたゲーム音楽インタラクティブ性だが、同作以降も氏の担当作品では音楽面においてさらなる発展を遂げていく。ただしこの頃から徐々に氏がメインコンポーザーを務めることがすくなくなり、その音楽のノウハウを後輩の作曲家たちに託していくことになる。若井淑氏と共同で作曲した「スターフォックス64」(1997年)、峰岸透氏と共同で作曲した「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」(2000年)、田中しのぶ氏と共同で作曲した「スーパーマリオサンシャイン」(2002年)など、いずれも近藤氏が単独で作曲する機会が減るなかで、氏の築いた音楽性の基礎は踏襲され続けることになる。ちなみに2001年にはニンテンドーゲームキューブが発売され、サンシャインでは新機種の新たな可能性を余すことなく表現した南国風の元気溌剌なサウンドを書き下ろす。

監修やディレクションサウンドアドバイスの立場から多くの作品に携わっていくが、ときには氏自らが一部楽曲を担当することもある。2006年に次世代機のWiiが登場すると、その翌年に発売された「スーパーマリオギャラクシー」において、大半の楽曲を横田真人氏が大半の作曲するなかで、近藤氏は4曲提供する。同作はマリオシリーズサウンドに転機をもたらした快作で、今まで生演奏をあまり使ってこなかった任天堂のゲームとしては初となる本格的なオーケストラで収録された楽曲をストリーミング再生することになる。同作は宇宙を舞台とした大冒険活劇であり、そのスケールの壮大さを表現すべく、サウンドにおいてマリオっぽさと宇宙っぽさの間で見事な折衷案を導き出すことができた会心の出来栄えとなっている。

www.youtube.com『エッグプラネット』(スーパーマリオギャラクシーWii/2007年)

同作の一番最初のステージで流れるこの曲は、まさに新たなマリオシリーズの門出を祝福するかのような豪華絢爛なオーケストラの一曲である。ラテンやトロピカルな音色が印象的な従来のマリオサウンドとは一線を画する雄大な音使いが魅力で、ストリングスにトランペットにフルートにハープ、オーケストラの花形楽器をぜんぶ詰め込んで奏でられる贅沢な旋律は、銀河を股にかけるマリオのかっこいい姿をありありと思い浮かべさせてくれる。この曲には逸話があり、同作のサウンドの方向性を決める際に用意された三種類の楽曲のうち、プロデューサーの宮本茂氏のお眼鏡にかなって選ばれたのがずばりこの曲であったという。

その後もときに作曲しつつ、基本的にはサウンド監修の立場からマリオやゼルダシリーズに関わり続けるなかで、「大乱闘スマッシュブラザーズX」(2008年)ではアレンジャーとして参戦し、かの『地上BGM』にセルフアレンジを施す。スマブラには以降も「for Wii U」(2014年)や「SPECIAL」(2018年)に携わり、いずれも自ら作曲したマリオシリーズの往年の名曲を時を経て編曲することで、懐かしくも新しい新曲を生み出している。こうしてしばらくは任天堂所属の他の作曲家たちの音楽づくりを見守ることになるが、2015年にマリオ生誕30周年を記念して、コースを自作できる「スーパーマリオメーカー」が登場すると、同作では久しぶりに氏が中心となって、久保直人氏や早崎あすか氏とともに作曲する。同作では「スーパーマリオブラザーズ」「スーパーマリオブラザーズ3」「スーパーマリオワールド」「New スーパーマリオブラザーズ U」の四作品からゲームスキンを選択してコースを組み立てていくため、新たに追加されたコース曲はそれぞれのハード(初代と3はファミコン、ワールドはスーファミ、UはWiiU)が表現できる音源で構成されていて、なかにはファミコン音源のチップチューンサウンドが新録されている。

直近の担当作は上述の通り「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」だが、その1年前に登場した「スーパーマリオ オデッセイ」(2017年)においても、氏は久保氏や横田氏、藤井志帆氏などとともに新しいマリオサウンドを書き下ろす。同作は氏が最後にメインコンポーザーを務めたサンシャイン以来となる3Dの箱庭マリオで、世界の旅をテーマに、国ごとの風土や雰囲気に沿ったバラエティ豊かな楽曲が揃っている。

www.youtube.com『スチームガーデン』(スーパーマリオ オデッセイ/NS/2017年)

森の国スチームガーデンは、植物と機械という相反するはずの二つの存在が完璧に融合した陽気なユートピアである。そこで流れるこの曲は、60年代風のアプローチで奏でられるノリノリなレトロサウンドで、エレキギターやオルガンを用いたジャズロック的な軽快さに満ちている。ステージのコンセプトからしてどことなく文明崩壊後のような退廃感があってもおかしくないなかで、そうした後ろ暗さを一切感じさせないハッピーな音使いが印象的で、機械が自然を支配したわけでも、自然が機械を支配したわけでもなく、それぞれが共存して見事な調和を果たしているスチームガーデンならではの底抜けに明るい一曲となっている。

こうして数々の名曲を生み出し、ゲーム音楽の無限の可能性を果敢に切り拓いてきた近藤氏だが、今年で作曲家デビューから35年が経ち、その偉大な功績ゆえに名実ともにゲーム音楽の父として親しまれている。今後もゲーム音楽界を牽引する立場として最先端の音楽づくりに挑んでいくなかで、いつかまたゲーム一本丸ごと単独で担当するような機会が訪れることが期待される。

 

--

作曲家談議も10回目(かつ偶然にも当ブログ500記事目)ということでレジェンドを取り上げてみましたが、マリオとゼルダの超有名どころを紹介するだけで終わってしまいました。近藤さんの曲はどれを選んでも誰もが知っているレベルのものばかりで、月並みですがあらためてそのすごさを実感しました。参考までに、今まで格納した近藤さんの楽曲をどうぞ。