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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を一日一曲を目安に紹介します。

隔週末の作曲家談議 vol.014:光田康典

作曲家について語るコラムです。

vol.014で扱うのは光田康典(みつだ・やすのり)氏。

代表作は「クロノ・トリガー」「ゼノブレイド」「イナズマイレブン」など。

なお、記事に記載された内容はすべて2019年7月6日現在のものです。

まずは一曲。

www.youtube.comCHRONO CROSS ~時の傷痕~』(クロノ・クロス/PS/1999年)

言わずと知れた光田氏の代表曲にして最高傑作と名高いこの曲は、クロノ・クロスのオープニングデモで流れるものである。ドリームプロジェクトとしてその名を馳せたクロノトリガーの後継作として、多大な期待を背負って登場した同作だが、美麗なムービーとともに流れ出すこのメインテーマは、それだけですでに、さながら夢の続きを、あるいはもう一つの夢を見させてくれるような甘美さにあふれている。前作と比較して、どことなくオリエンタルな風味が加わった世界観にあわせて、この曲も民族音楽的な雰囲気を漂わせていて、ブラジル、アイルランド、そしてもちろん日本の伝統楽器をも取り入れて奏でられる、そのメリハリたっぷりのダイナミックな音使いは、今なお色褪せることなく聴く者の心を魅了し続けている。光田氏にとって、スクウェアにとって、そしてゲーム史にとって、大きな傷痕ならぬ足跡を残した一曲である。

光田康典氏、1972年生まれ、山口県出身の作曲家。小学校の頃に6年間ピアノを習ったのち、高校時代に観た映画の劇伴に強い感銘を受け、音楽家を志すようになる。短大在学中にウルフ・チームで音楽関係のアルバイトに携わり、卒業後、1992年にスクウェアに入社。コンポーザー志望だったがサウンドエンジニアとして配属され、なかなか曲を書かせてもらえなかったことに不満を抱き、当時同社の副社長であった坂口博信氏に複数回にわたり直談判した結果、作曲家としての初仕事がクロノ・トリガー(1995年)となる。同作はFFの坂口氏とドラクエ堀井雄二氏および鳥山明氏がチームを組んでつくり上げたドリームプロジェクトであり、ゲーム界の巨匠たちに囲まれながら、無名の新人だった光田氏がメインコンポーザーとして大抜擢されたのである。そうしたプレッシャーのなか生み出された楽曲群は、現在に至るまで、ことあるごとにコンサートで演奏されたりアレンジ盤が登場したりするような、まさにゲーム音楽のスタンダードナンバーとしての地位を築くことになる。

www.youtube.com『風の憧憬』(クロノ・トリガーSFC/1995年)

同作の曲はすべて名曲と言っても差し支えないクオリティに仕上がっているが、そのなかでもこの曲は、比較的早い段階で聴くことになる名曲である。訳が分からぬまま成り行きでタイムスリップした先の中世の時代におけるフィールド曲であり、全編を通して高音主体で奏でられるその音使いは、抑え難いほどの寂寥感にあふれている。途方もなく不安なのに、それでも前へ進まずにはいられない冒険者の心情を見事に表現していて、全編を通して物憂げでありながら、不思議とわくわくするような魅力に満ちた仕上がりとなっている。これまたいつの時代も色褪せることのない新鮮さを放ち続ける一曲である。

同作で氏は鮮烈すぎるデビューを果たすと、それ以降はコンスタントに作曲家として活躍するようになる。1996年には植松伸夫氏らとの共作でFRONT MISSION SERIES GUN HAZZARD」、光田氏単独で音楽監督も務めたサテラビューサウンドノベルラジカル・ドリーマーズ -盗めない宝石-、さらにはスクウェア初のPS参入作品トバルNo.1で作曲を務め、他の精鋭の作曲家たちとともに90年代後半のスクウェア黄金期のサウンドを支える。とりわけFF7と対を成すような形で登場した大作RPGゼノギアス(1998年)では氏が全曲単独で作曲を手がける。同作はスクウェアのゲームとして初めてボーカル曲を採用した先進的な作品であり、結果としてその試みは大成功に終わった。今では歌入りの曲はそう珍しいものでもなくなったが、その流れをいち早く取り入れた点において革新的だったと言えよう。

1998年6月にスクウェアを退社しフリーになると、翌月に個人事務所としてプロキオン・スタジオを立ち上げる。独立後初めての担当作は任天堂マリオパーティ(1998年)であり、シリーズに携わるのは現在のところ同作が最初で最後だが、お祭りらしさを的確に表現した作曲スタイルは次作以降も引き継がれることになる。翌年にはクロノトリガーラジカルドリーマーズの流れを汲むクロノ・クロス(1999年)で再び数多くの名曲を書き下ろし、あらためて氏の実力を内外に示す。この頃からゲーム音楽だけでなく、ライブの出演やオムニバスアルバムの制作、原史奈氏などのサウンドプロデュースを手がけるようになり、活躍のフィールドを広げる。2001年11月、個人事務所を法人化し、サウンドのプロ集団としての活動を本格化させる。それと前後して旧友の弘田佳孝氏らとともにシャドウハーツ(2001年)で作曲をおこない、続編のシャドウハーツII」(2004年)にも関わる。

発売された時期はシャドウハーツのほうが先だが、作曲の順序としてはゼノサーガ エピソードI 力への意志(2002年)のほうが先だったらしく、同作で氏はすくなくとも当時は「やり尽くした」と感じ、その後しばらくスランプに陥るほど力を込めて作曲した。ロンドンフィルハーモニー管弦楽団の生演奏を取り入れた豪華絢爛なオーケストラサウンドによって構成される同作の作曲群はまさに圧巻の出来栄えで、エンディングテーマが海外のオリコンチャートで1位を獲得するなど、輝かしい成果を残すに至った。

www.youtube.com 『Last Battle』(ゼノサーガ エピソードI 力への意志PS2/2002年)

ゼノギアス譲りの壮大で重厚な物語が特徴である同作において、最後の戦いで流れるのがこの曲である。同作の戦闘曲の扱いはすこし特殊で、通常戦闘もボス戦もどちらも光田氏の意向で意図的に同じ曲を使い回しているが、ラストバトルのみこうした専用曲をあつらえることで、イントロの第一音から一気に最終決戦の雰囲気を盛り上げてくれる。ゼノギアスのラスボス戦『神に牙むくもの』に似たミニマルミュージック的なエッセンスをふんだんに取り入れた一曲として、それと同時に、たった2曲しかない同作の戦闘曲のうちの片割れとして、聴く者の心に深く刻み込まれるような、忘れ得ぬ存在感を放ち続けている。

シャドウハーツ2作での弘田氏との共作により良い刺激を受け、スランプ状態を克服した光田氏は、その後も多方面で精力的に活動を続ける。オリジナルアルバム「キリテ」(2005年)を発表したり、特撮映画「SPECTER」(2005年)の劇伴を務めたり、シンガポールやオーストラリアなどで海外公演をおこなったりしながら、プロキオン・スタジオのリーダーとして全社を挙げて音楽制作に尽力する。イメージエポックシミュレーションRPGルミナスアーク(2007年)では、後に登場する三部作ともサウンドプロデュースを手がけ、プロキオンのメンバーである景山将太氏(現在はフリー)や土屋俊輔氏らのデビューを後押しする。2008年にはレベルファイブがおくる超次元サッカーイナズマイレブンにて、ゲームの作曲のみならずアニメの劇伴も担当することになり、シリーズの展開を手堅く支えることとなる。

www.youtube.com『星の使徒』(イナズマイレブン2 脅威の侵略者 ファイア/ブリザードNDS/2009年)

同作では宇宙からの侵略者として自らを星の使徒と名乗るエイリア学園と対峙することになるが、彼らが率いるマスターランクの強豪チームとのサッカーバトルで流れるのがこの曲である。爽やかで楽しいサッカーのイメージを根本から覆すような威圧的な悲愴感に満ちた音使いが印象的で、得体の知れぬ力を持った難敵との熾烈な激闘を力強く盛り上げてくれる。サッカーの固定観念をことごとく打ち破る同作らしい雰囲気を目一杯漂わせていて、作品の世界観を楽曲に落とし込む能力に長けた光田氏の作風が光る一曲である。

イナイレシリーズには映画化や舞台化された際にも携わっていて、当初は光田氏単独で作曲をおこなっていたが、作品を経るにつれプロキオン亀岡夏海(現在はフリー)なども参加するようになる。2010年にはゼノブレイドで8年ぶりにゼノシリーズのサウンドに携わり、エンディングテーマ1曲のみを担当して高い評価を得る。2012年には以前大乱闘スマッシュブラザーズX(2008年)でアレンジャーとして参戦したこともあってか、同じく桜井政博氏がディレクターを務める新・光神話 パルテナの鏡にて、岩垂徳行氏、古代祐三氏、桜庭統氏、高田雅史氏とともに豪華すぎる作曲陣の一員として名を連ねる。ちなみに光田氏は短大在学中にウルフ・チームでアルバイトをしていたとき、桜庭氏のアシスタントをしていたようで、下積み時代からの躍進に桜庭氏も驚いたらしい。同作の楽曲はいずれも抜群のクオリティで、特にオーケストレーションに関しては光田氏率いるプロキオン・スタジオに一任されていることもあり、光田氏の功績は大きい。

www.youtube.com『ボス戦1』(新・光神話 パルテナの鏡3DS/2012年)

読んで字の如く、同作のボス戦で流れるこの曲は、エレキギターとオーケストラが融合した最高純度のシンフォニックロックが堪能できる一曲である。桜井氏も「いままで〈手がけてきたゲーム〉の中でも群を抜いて素晴らしい、ベストな出来映え」とほめちぎっていて、重苦しげになりがちなボス戦の曲とは一線を画する、「自らが前向きに攻め倒す感じ」が表現されている点を絶賛するほどの仕上がりとなっている。少々無骨な(同作の楽曲はこれに限らずすべて事務的なネーミングである)曲名とは裏腹に、凄まじく華やかな疾走感と爽快感に満ちあふれていて、25年ぶりのパルテナシリーズの大復活を華麗に印象付けてくれる。

2013年にはスマホゲームの台頭により蒼穹のスカイガレオン」(サービス終了済み)のメインテーマを手がけたり、今までとは趣向を変えてNHKスペシャルの「宇宙生中継 彗星爆発 太陽系の謎」の音楽をつくったりして、新たな活躍の場を見出していく。人気漫画のアニメ化「黒執事 Book of Circus」や劇場版の「黒執事 Book of Murder(ともに2014年)で劇伴を務めると、19世紀末のイギリスにおける表と裏の社会の両方を音によって見事に表現する。デビュー20周年を迎えた2015年には記念ライブをおこなって大盛況を博し、闘会議2015のブースにゲスト出演したほか、4starやPressStartといったゲーム音楽専門のコンサートでたびたび姿を現す。

2017年には戦場のヴァルキュリアの流れを汲むアクションRPG蒼き革命のヴァルキュリアにて、久々に単独で作曲を務めることになる。また、ファイナルファンタジーXV(発売は2016年、DLC配信は2017年)の追加エピソード・イグニスにてゲストコンポーザーとして参加し、ここにきてようやく光田氏が紡ぐFFサウンドが実現した。さらに、前作では1曲のみの参加であったのに対し、ゼノブレイド2」(2017年)では複数の作曲家とともに数多くの楽曲を書き下ろし、ゼノシリーズサウンドへの本格的な復帰を果たす。

www.youtube.comユグドラシル』(ゼノブレイド2/NS/2017年)

雲海に覆われた世界の中心に聳え立つ世界樹の上には、誰もが夢見る豊穣の大地・楽園がある――その伝承に従って旅を続け、ようやく世界樹に辿り着いた主人公たちを待ち受けていたのは、樹木と呼ぶにはあまりにも人工的な、機械仕掛けの巨塔だった。そうした驚くべき事実を噛み締めながら、それでも楽園を求めて頂上を目指すことになる世界樹の地で流れるのがこの曲である。コーラスにストリングスにエレキギターが重なり合って奏でる、人知を越えた神々しさにあふれるその旋律は、伴奏のミニマルなリフとあわせて、何もかもがすでに終わってしまったような退廃的な雰囲気を漂わせる。ファンタジーからポストアポカリプスものへと劇的な変容を遂げる同作を象徴するものとして、ここの通常戦闘曲として流れる平松建治氏の『それでも、前へ進め!』とともに強いインパクトを誇る一曲である。

2018年にはゼノギアスの20周年を記念してコンサートを開き、自らキーボードの演奏をこなしながら、制作総指揮を務める。また、かねてから海外のゲーム会社と仕事をしてみたいと考えていた光田氏であったが、Steamのアーリーアクセスとして2018年末にフランスのMidgar Studioが手がけるオープンワールドRPG「Edge of Eternity」にて一部の作曲に携わる。また、プロキオン・スタジオが音楽に全面協力する形で、2017年から関わっている「アナザーエデン 時空を超える猫」に続き、セガの戦略カードバトルリボルバーズエイト」(2018年)にも参加し、土屋氏やMariam Abounnasr氏と一緒に作曲をおこなっている。

こうして様々な仕事をこなしてきた光田氏であるが、今後もプロキオン・スタジオの取締役として、光田氏とプロキオンのメンバーたちのさらなる活躍が見込まれる。世界規模のライブの開催や映画会社との連携を視野に入れて、ゲーム音楽でもゲーム音楽以外でも光田氏の音楽がますます世界中に轟き渡ることが期待される。

 

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デビュー時の逸話からしてすごいですよね。クロノトリガークロノクロスゼノギアスあたりの初期の担当作は、一曲一曲個別の記事を書いても魅力を伝えきれないくらい素晴らしくて、曲がゲームを物語っている感じがします。参考までに、今まで格納してきた光田さんの楽曲をどうぞ。