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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を一日一曲を目安に紹介します。

隔週末の作曲家談議 vol.017:近藤嶺

作曲家について語るコラムです。

vol.017で扱うのはT's MUSICの近藤嶺(こんどう・れい)氏。

代表作は「大神」「戦国BASARA」「ダンボール戦機」など。

なお、記事に記載されている内容はすべて2019年8月17日現在のものです。

まずは一曲。

www.youtube.com『貴様らが…姉さんの言葉を語るな!』(ファイアーエムブレム 覚醒3DS/2012年)

同作の主人公であるクロムの台詞をそのまま引用した、この印象深い題名を冠するこの曲は、10章のマップ兼戦闘曲として流れる一曲である。FEシリーズ、特に同作では、兵を率いるマップ画面と実際に戦う戦闘画面では、それぞれ異なるアレンジの曲がシームレスに切り替わるようになっているが、この曲は例外で、マップでも戦闘でも、敵軍のフェイズに突入しても、一切変わらないという演出を取っている。大雨が降りしきるなか、直前に姉の死を目の当たりにしたクロムと、敵味方問わず動揺するその心情を、ピアノの悲愴感あふれる音色で儚くも力強く表現した、同作屈指の名曲である。

近藤嶺氏、1982年生まれ、愛知県出身の作曲家。得意楽器はピアノ。幼少期からピアノやエレクトーンに親しみ、音楽漬けの日々を過ごす。2003年に富士フイルムアクシア主宰のAxia Artist Auditionのインストゥルメンタル部門で最優秀賞を受賞すると、自身初となるアルバム「Eternal Mirage」をリリースし、プロの音楽家としてのデビューを果たす。その後、音楽制作会社T's MUSICに所属すると、2005年にはバンプレストの3Dアクション義経紀」で初めてゲーム音楽を担当する。同作は源義経に焦点を当てた歴史もので、鈴木克崇氏がリードコンポーザーを務める傍ら、近藤氏はT's MUSIC名義でムービーシーンの作曲を手がける。

翌年には今なお愛され続けるクローバースタジオのネイチャーアドベンチャー「大神」(2006年)の作曲を、上田雅美氏や山口裕史氏、グローベス明里氏とともにおこない、デビュー二作目の作品にして近藤氏はその類稀な実力を内外に知らしめることになる。同作は日本神話に語り継がれる太陽神アマテラスオオミカミを主人公に、安寧を脅かされたナカツクニの平和を取り戻すべく、さすらいの旅絵師イッスンとともに冒険の旅に出ることになる。シナリオ、グラフィックともに徹底された和の世界観のもとで成り立つ同作を、作品それ自体の面白さに加え、さらに紛うことなき傑作たらしめたのが、何と言ってもその音楽である。

www.youtube.com『太陽は昇る』(大神/PS2/2006年)

近藤氏を語るうえで、あるいはゲーム音楽というジャンルそのものを語るうえで避けては通れないのが、同作のラスボス戦で流れるこの曲である。『サクヤ姫のテーマ』(上田氏の作曲)のメロディーラインを借用し、クライマックスにふさわしい豪奢な味付けを加えた一曲であり、ここに至るまでの経緯も含めて、まさに出色の出来栄えである。日本神話に特別な馴染みがなくてもおそらく誰でもが知っている、天岩戸隠れの伝説を再現し、窮地に陥ったアマテラスは、日本中の人々の祈りを通じて大復活を遂げ、光明の力をもって闇を打ち払うことになるが、そうしたシチュエーションとともにこの曲が流れ出すことで、どんな強敵が相手だろうと決して負けることはないという確信をいっそう強めさせてくれる。光と音の饗宴とも言うべき、和楽器による豊穣のアンサンブルは、ラストバトルの曲として、はたまたアマテラスのテーマ曲として、これ以上ないくらい天晴れな完成度を誇る。

ゲーム音楽史に残るほどの名作を手がけた後、カプコン繋がりクローバースタジオカプコンの完全子会社である)でスタイリッシュ英雄アクション戦国BASARA2(2006年)の作曲も務める。初代では鈴木まり香氏など、カプコン所属の作曲家も携わっていたが、同作では前作からの続投である伊師正好氏をはじめ、近藤氏含めT's MUSICのメンバーが全面的に作曲を手がけることになる。この傾向は後のシリーズでも引き継がれ、近藤氏も2以降のシリーズ作にたびたび参加している。2008年には(今度はカプコンおよびスタイリッシュ繋がりで、だろうか)カプコンのスタイリッシュアクションデビルメイクライ4にて、柴田徹也氏や伊師氏らとともに一部の作曲をおこない、スタイリッシュな作風に磨きをかけていく。

ここまでカプコン関連の仕事を着々とこなしてきた氏であったが、その傍らでオリジナルのミニアルバム制作を進めていたり、テレビアニメ「レオナルド博士とキリン村のなかまでしょ」(2008年)の劇伴(余談だが、近藤氏は「劇伴」という言い方が好みではないらしく、「随伴音楽」という表現のほうがまだましだと考えているようである)を担当したりもする。ゲーム方面でも、今までは和風寄りのアクションやアドベンチャーが多かったが、2008年にはテクモスチームパンクRPGノスタルジオの風を手がけ、西洋風の王道ファンタジーサウンドを生み出す。そしてその作風をさらに極めるきっかけとなったのが、プラチナゲームズのクライマックスアクションベヨネッタ(2009年)である。ちなみにプラチナゲームズクローバースタジオの元社員が紆余曲折を経て立ち上げたメーカーであり、近藤氏にとって馴染みのある上田氏や山口氏、さらには「義経紀」以来となる鈴木氏らとともに、天使や悪魔が蔓延るダークファンタジーの世界観を華やかに彩ることとなる。

www.youtube.com『You May Call Me Father』(ベヨネッタ/X360・PS3/2009年)

同作の主人公ベヨネッタは記憶喪失であり、彼女の正体や過去を巡る物語が一つの大きなテーマであるが、その彼女の前にファーザーとして立ちはだかるバルドルとの戦闘で流れるのがこの曲である。己が野望のために500年にも及ぶ極悪非道な計画を展開するファーザーバルドルだが、この曲は、そんな彼との戦いを終始荘厳に響くコーラスで表現している。もともと同作はジャンル名に違わず、どのシーンをとってもクライマックス並みの盛り上がりを見せるが、そのなかでもこの曲が流れるシーンは、音楽との相乗効果も踏まえたうえで、思わず気圧されるほどの凄まじい威圧感に満ちた一曲である。

なお、近藤氏は続編のベヨネッタ2(2014年)でも引き続き複数の作曲家たちとともに作曲している。2010年には戦国BASARA3大神伝 ~小さき太陽~」といったシリーズ作の作曲を務めたほか、レベルファイブのファンタジーRPG二ノ国 漆黒の魔導士(および翌年の移植版「白き聖灰の女王」の追加曲)でも久石譲氏とともに共作する。そしてレベルファイブ繋がりで、今度はプラモクラフトRPGダンボール戦機(2011年)シリーズの作曲を任され、大規模なクロスメディア展開にあわせて、アニメの音楽も氏が単独で手がけることとなる。同作は使い方次第で強い殺傷能力を持つホビーロボット・LBXが大流行している近未来を舞台としているが、その裏で国家を揺るがすような様々な陰謀が渦巻いていて、情熱的かつシリアスな楽曲が多く揃っている。

www.youtube.com『希望と絶望の狭間で』(ダンボール戦機PSP/2011年)

同作のラスボス戦、イフリートとの三度目の戦いで流れるのがこの曲である。陰謀の中心人物であるレックスは、不幸な因果に翻弄され、守るべきもののないこの世界を破壊せんと決意するが、その彼の意志を継ぎ、激しい憎悪を汲み取ってCPUに過ぎないはずのイフリートが自立稼働で暴走を始める。そんな絶望的な状況を食い止めるべく、希望に満ちた眼差しで主人公が最後の決戦に立ち向かうことになる。そうしたシチュエーションをすべてひとまとめに表現したのが、『友情』や『Little Battle eXperience』などのメロディーを引用したうえで、ストリングスもトランペットもコーラスもピアノも一緒くたに混ざり合ったこの曲である。曲名通り、希望と絶望、その狭間で揺れ動く人々の思いを完璧に表現した一曲である。

以降も近藤氏はダンボール戦機W(2012年)「ウォーズ」(2013年)にて作曲し、とりわけラスボス戦の曲のクオリティの高さは連綿と受け継がれる。また、アニメの作曲も引き続き務めることになる。

さて、大神、バサラ、ベヨネッタダンボール戦機ときて、もう一つ氏にとって重要な代表作に数えられるのが、インテリジェントシステムズシミュレーションRPGファイアーエムブレムシリーズである。ファイアーエムブレム 覚醒(2012年)は、歴史あるシリーズのなかでもかなり大きな方向転換を図ることになった意欲作であるが、そこで近藤氏は、外注のコンポーザーに抜擢されることになる。今までFEシリーズはIS内部のサウンドチームか、あるいは辻横由佳氏のようにフリーランスであるにしてもかつてISに所属していた経験のある作曲家を登用することが多かったが、近藤氏が加わることでシリーズサウンドの新たな可能性が開拓される。続編の「if」(2015年)にも参加し、そちらでは白夜王国暗夜王国、そして透魔王国の三つの陣営が織り成す三者三様のサウンドが揃っている。大まかに区分すると、白夜は和、暗夜はケルト、透魔は水をイメージした無国籍な楽曲に仕上がっている。

www.youtube.com『汝、光の同胞よ』(ファイアーエムブレムif3DS/2015年)

同作の暗夜王国ルートにおけるリョウマ、ヒノカ、サクラといった白夜の兄弟たちとの戦いで流れるのがこの曲である。同作の主人公は、白夜王国に生まれ、暗夜王国で育ったという特異な経歴の持ち主であり、白夜にも暗夜にも親しい間柄の兄弟がいるため、いずれにせよ厳しい戦いを強いられる。暗夜兄弟戦の『汝、闇の同胞よ』(甲田雅人氏の作曲)と対を成す曲として、和楽器とオーケストラの協演が美しい一曲である。和風の白夜、洋風の暗夜、その両方が組み合わさった和洋折衷の音使いは、和ものの作曲も洋ものの作曲も得意とする近藤氏らしい仕上がりとなっている。

すこし遡って、2012年に再びカプコンの作品としてオープンワールドアクション「Dragon's Dogma」や拡張版の「DARK ARISEN」(2013年)にて作曲したほか、プラチナゲームズのユナイトアクションThe Wonderful 101(2013年)でも一部の作曲に携わる。この頃からゲーム以外のオリジナルアルバムをデジタル配信するようになり、2014年からはピアノ即興曲シリーズ「Impromptu」を開始、季節のうつろいを表現した珠玉のピアノインストゥルメンタルを数多く作曲する。また、ブラウザゲームスマホゲームの作曲にも携わるようになり、POWERCHORD STUDIOの横スクロールアクション型世代交代RPG「ユバの徽」コロプラのマルチハンティングRPG「ドラゴンプロジェクト」(ともに2016年、サービス終了済み)などを手がける。2017年にはレベルファイブ初の女性向けコンテンツとなるRPG「オトメ勇者」(2019年に「天惺のイリュミナシア~オトメ勇者~」としてリニューアル配信された)の作曲を務め、さらには同じくレベルファイブのハイパーカジュアルファンタジースナックワールド トレジャラーズにて、アニメの音楽も含めサウンドを一手に担う。

2018年には、2001年に発売されたカプコンの戦国サバイバルアクション鬼武者のリマスター版の作曲を手がける。リマスター版では楽曲が一新されているが、そもそも原作は音楽面で多大な注目を集めた作品である(作曲者は当時まだゴーストライター問題が発覚していなかった佐村河内守氏であり、特にメインテーマは総勢200名にのぼる演奏者が奏でているということもあって脚光を浴びた)。そうしたある種伝説的な経緯を持つ原作をリマスターするにあたって、近藤氏がリードコンポーザーとして新たな鬼武者サウンドを創造することとなる。

www.youtube.com『かえで』(鬼武者PS4・XOne・NS/2018年)

同作のヒロインであるくノ一の少女・かえでのテーマ曲として、彼女を操作する場面で流れるのがこの曲である。かえでは元々、主人公である明智左馬介秀満の命を狙う忍であったが、いつしか彼の生き様に惹かれ、相棒としてともに戦国の乱世を駆け抜けることになる。そんな彼女の潔さと凛々しさを、原作における彼女のテーマ『楓調』同様、爽やかなストリングス主体のオーケストラで表現していて、繊細でありながら屈強さをも感じさせる出来栄えとなっている。近藤氏にとってもこの曲は特に思い入れが強いらしく、かえでという人物への深いこだわりが感じられる。

氏が携わった直近のビッグタイトルといえば、30曲ほどを提供したファイアーエムブレム 風花雪月」(2019年)である。同作はIS所属の金﨑猛氏および森下弘生氏との共作であり、楽曲に関してはすでに限定盤の特典として選りすぐりの良曲を収録したサウンドセレクションが付属されているが、フルサウンドトラックが登場する日が待ち遠しい。

来年2020年にはゲーム音楽に携わり始めてから15周年を迎える氏であるが、今後の音楽活動を通じてどんな新境地を切り拓いていくのか、非常に楽しみである。すでに関わりのあるシリーズ作品はもちろん、まだ見ぬ新規タイトルの作曲にも期待がかかる。

 

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『天神族のテーマ』を紹介しようと思ったのに書きそびれました。また今度、機会があれば個別記事で取り上げましょう。近藤さんは得意のピアノを活かしてクライマックスの盛り上がりをつくるのがほんとうにうまいですね。参考までに、今まで格納してきた近藤さんの楽曲をどうぞ。