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隔週末の作曲家談議 vol.020:David Wise

作曲家について語るコラムです。

vol.020で扱うのはDavid Wise(デビッド・ワイズ)氏。

代表作は「ドンキーコング」「バトルトード」「Yooka-Laylee」など。

なお、記事に記載された内容はすべて2019年9月28日現在のものです。

まずは一曲。

www.youtube.com『Stickerbush Symphony』(スーパードンキーコング2 ディクシー&ディディー/SFC/1995年)

Wise氏の代表曲は数あれど、この曲はそのなかでも頭一つ抜けるほど世界中で愛されている一曲である。『とげとげタルめいろ』や『BRAMBLES』といった別名が示す通り、とげとげタルめいろをはじめとする茨のステージで流れるが、茨から連想され得る刺々しさとはおよそ無縁な、非常に落ち着いたアンビエント調の音色が印象的である。その音はスーファミから発せられているとは思えないくらい現代にも十分通用し得る聴き心地の良さを誇り、いつまで経っても一向に色褪せようもない魅力に満ちている。なお、非常に間違えられやすいうえにもはや広まり過ぎていて定着してしまった感を否めないが、曲名は正しくは『Stickerbush~』(スティッカーブッシュ)であり、決して『Stickerbrush~』(スティッカーブ“ラ”ッシュ)ではない。

David Wise氏、1967年生まれ、イギリス・レスターシャー出身の作曲家。得意楽器はサクソフォン。幼少期にピアノを習い、その後はトランペットやドラムを学んだ。楽器屋で働いていたとき、たまたまミュージックコンピュータの実演をしていたところにイギリスのゲーム会社レアの創業者兄弟が通りがかり、Wise氏の腕を見込んで仕事を与えたことがきっかけで、レア所属の作曲家となる。レアの処女作であり、かつ日本国外で初めてつくられたファミコンNESといったほうが適切か)のソフトとして登場したスキーゲーム「Slalom」(1987年、日本未発売)が、氏にとってのデビュー作である。この作品は前年に任天堂VS.システム向けにも登場している。日本でも発売された作品では、同年に横スクロールアクション「伝説の騎士エルロンド」(原題は「Wizards & Warriors」、日本での発売は一年後の1988年)があり、独特な暗さと美しさを兼ね備えたファンタジーサウンドを生み出す。

www.youtube.com『Title Theme(仮称)』(Wizards & Warriors/NES/1987年)

駆け出しの頃の氏が作曲した曲のなかで、とりわけ凄まじい哀愁と悲壮を漂わせているのが、タイトル画面およびエンディングで流れるこの曲である。さらわれた姫を救うべく、人々が怖れる暗闇と恐怖の森へと一人旅立つ勇敢な戦士が背負う力強い使命感と、ともすれば無謀とも言える前途多難な挑戦への不安感を、たった30秒ちょっとの短い曲尺のなかに凝縮している。素朴ながらも不思議と耳に残るその叙情的なメロディーラインは、すでにこの頃から氏の非凡な才能を予感させるような吸引力にあふれている。なお、サウンドトラックの類は現在に至るまで発売されていないため、曲名は便宜上の仮称とする。

1994年にRobin Beanland氏、Eveline Fischer氏、Graeme Norgate氏がレアに入社するまで、Wise氏は唯一の社内コンポーザーとして、数々のゲームの作曲を単独で手がけることになる。レースゲーム「R.C. Pro-Am」クイズゲーム「Jeopardy!」(ともに1988年、日本未発売)をはじめ、さらに翌年の1989年から91年にかけてレアが開発した作品にはほぼすべてサウンド面で携わっている。その多くは日本未発売だが、なかには1991年に登場したプロレスゲームWWFスーパースターズ」(原題は「WWF Superstars」、日本での発売は一年後の1992年)や、日本では一作のみの発売で途絶えてしまった先のエルロンドのシリーズ作にあたる「Ironsword: Wizards & Warriors II」(1989年)および「Wizards & Warriors Chapter X: The Fortress of Fear」(1990年)なども含まれる。

1991年には前の二年ほどレアの開発本数が減った影響で担当する作品もすくなくなるが、この年に初期のレアを代表する横スクロールアクション「バトルトード」(1991年、原題は「Battletoads」)が登場し、氏はそこでその圧倒的な高難度と妙にユーモラスな世界観に見合ったグルーヴィなサウンドをつくり出す。

www.youtube.com『Surf City(仮称)』(バトルトード/FC/1991年)

5面のSurf Cityおよび9面のTerra Tubesで流れるこの曲は、ファミコン末期の底力を見せつけるかのような豊かな表現力を持つ。小刻みに奏でられる伴奏の上を主旋律が自由自在に走り回ることで、音数のすくなさを意識させぬ躍動感を演出し、18秒あたりの早い段階で間奏を入れることで飽きの来ない構成にしている。有無を言わせぬ猛攻を仕掛けるボスや即死トラップの多さなどから、5面と9面もまた例に漏れず鬼畜じみた難度を誇るが、なんとかモチベーションを奮い立たせてくれるような格好良さのある一曲である。なお、曲名は便宜上の仮称とする。

すでに新機種のスーファミが世に送り出されているなかで、なおもレアはファミコンのソフトを中心に手がけていて、氏も1993年になるまでスーファミ音源に触れることはなかった。が、満を持して同年に「バトルトード イン バトルマニアック」(原題は「Battletoads in Battlemaniacs」、日本での発売は一年後の1994年)スーファミ向けに登場すると、いきなりハードの限界を突破せんばかりのクールなハードコア系のロックサウンドを生み出し、その手腕を内外に示す。Beanland氏らがオーディオチームの一員となる1994年には伝説の名作スーパードンキーコング(原題は「Donkey Kong Country」)が発売され、その良質なサウンドの数々は日本国内でも広く認知されることとなる。時期を前後して、レアは任天堂傘下のセカンドパーティとして参入する。

この頃からWise氏は、氏以外の社内コンポーザーが充実したことを受けて、担当する作品が逓減し、ドンキーコングシリーズのみの作曲に専念することになる。Beanland氏とFischer氏とともに手がけた初代に続き、二作目のスーパードンキーコング2 ディクシー&ディディー」(1995年、原題は「Donkey Kong Country 2: Diddy's Kong Quest」)では単独で作曲、三作目のスーパードンキーコング3 謎のクレミス島(1996年、原題は「Donkey Kong Country 3: Dixie Kong's Double Trouble!」)では再びFischer氏とともに作曲する。ゲームボーイ版の移植では新曲を書き下ろすこともあり、Wise氏といえばドンキーコングという構図が出来上がる一方で、氏は1997年のディディーコングレーシング(原題は「Diddy Kong Racing」)を境に、リメイク除きドンキーコングシリーズから離れることになる。

2000年に入ってからの大きな仕事として挙げられるのは、シリーズで初めてレアが開発を手がけたスターフォックス アドベンチャー(原題は「Star Fox Adventures」)である。これはレアにとって任天堂のセカンドパーティの立場からリリースした最後の作品でもある。

www.youtube.com『クラゾア宮殿(仮称)』(スターフォックス アドベンチャーGC/2002年)

本作では惑星の守護神クラゾアの力の根源たるクラゾアスピリットを、各地の試練を突破して入手することが大きな目標となるが、それらを収めるための聖地というのがクラゾア宮殿である。そのクラゾア宮殿の内部で流れるこの曲は、神秘的で幻想的で、いかにも古代のロマンが伝わってくるような美しさにあふれている。アンビエント調の退廃的な音色に、透き通るような笛の音が加わることで、静かに緊張感を煽るようなアトモスフィアを漂わせていて、元はニンテンドウ64向けに、スターフォックスとは無関係のオリジナルタイトルとしてつくられていた本作だが、そうした経緯を感じさせないほど違和感なく作風に溶け込んでいる一曲である。曲名は例によって便宜上の仮称とする。

レアと任天堂の提携関係が撤廃され、マイクロソフトに買収されると、レアは徐々に任天堂ハードから離れ、Xboxで開発することが多くなる。氏は年に1本ほどの緩やかなペースで作曲するも、だいたいは任天堂ハード向けの作品で、GBA向けのパズルゲーム「It's Mr. Pants」(2005年、日本未発売)や以前発売されたもののリメイク作である「Diddy Kong Racing DS」(2007年、日本未発売)の追加曲などを手がける。2008年には前々年にXbox360向けに登場し、同じくレア所属のGrant Kirkhope氏とSteve Burke氏が作曲を担当した育成シミュレーション「あつまれ!ピニャータ(原題は「Viva Piñata」)のシリーズ作として、DS向けの「Viva Piñata: Pocket Paradise」(日本未発売)で久々に新作の作曲をする。また、同じ年にXBLA向けのTPS「War World: Tactical Combat」(2008年)も手がけるが、これを最後にWise氏はレアを退社し、フリーランスとなる。

それからしばらく、5年ほどはゲーム音楽の作曲から離れるが、その間に氏は個人スタジオとしてDavid Wise Sound Studiosを立ち上げる。空白期間を終え、ようやくゲームに復帰したのはゲームブック原作のテキストアドベンチャー「Sorcery!」(2013年)で、翌年のアドベンチャー「Tengami」とあわせて、スマートフォンという新たなフィールドを開拓する。2014年は氏にとってエポックメイキングな年であり、長らく関わっていなかったドンキーコングシリーズに、ドンキーコング トロピカルフリーズ(2014年)にて正式にカムバックを果たし、大きな驚きと興奮をもって迎えられた。

www.youtube.com『しんぴの深海(仮称)』(ドンキーコング トロピカルフリーズWiiU/2014年)

同名のステージをはじめ、いくつかの水中面で流れるこの曲は、Wise氏が帰ってきたことを一際鮮明に印象付ける一曲である。初代の『Aquatic Ambience』や、元は水中をイメージしてつくられたという『Stickerbush Symphony』などの系譜を正統に受け継いだメロウな音使いが特徴で、流麗なピアノの旋律に、心地良く響き渡るパーカッション、興を添えるフルート、哀愁を漂わせるハーモニカとが重なり合うことで、深海の重厚感と水中の清涼感が見事に共存している。その完成度の高さから、史上最高と評されてきたスーパードンキーコングシリーズのサウンドがここに再来したと言っても過言ではなかろう。なお、またもや曲名は便宜上の仮称とする。

トロピカルフリーズでレトロスタジオドンキーコングシリーズの開発元はリターンズ以降、レアからレトロスタジオに変更された)との縁ができると、翌年にはレトロスタジオから独立したメンバーが開発したシューティング「Star Drift」やその続編「Star Ghost」(2016年)を手がける。2017年にはパズルプラットフォーマー「Snake Pass」の作曲を単独でおこない、曲数は多くないが相変わらずのクオリティで聴く者を魅了するサウンドを提供する。

www.youtube.com『Sog-Gee's Realm (Water)』(Snake Pass/PC・NS・PS4・XOne/2017年)

氏と水中面の親和性はもはや言うまでもないが、最後にもう一つだけ、同作の水中ステージで流れる曲を紹介する。同作の主人公はヘビであり、クネクネと蛇行しながら移動するが、水中であればヌルヌルないしはスルスルと巧みに泳ぐ。そうした絶妙に心地良い操作感と相まって、ヒーリングミュージック風の柔らかな音使いと、先へ先へとどんどん進みたくなる好奇心を掻き立てる旋律とが見事に融和する。魔術的な神秘を感じずにはいられない深みを持つ一曲である。なお、サウンドトラックはちゃんと存在するため、この曲に限っては便宜上の仮称ではない。

この他、2017年には元レア社員の同窓会とも言うべき作品である3Dアクション「Yooka-Laylee」にも、Kirkhope氏とBurke氏といった馴染みの顔ぶれとともに作曲している。来月に発売を控えている続編「Yooka-Laylee and the Impossible Lair」にも参加していて、今度は開発元のPlaytonic Gamesの社内コンポーザーであるDan Murdoch氏とMatt Griffin氏も作曲陣に加わるとのことである。さらに、2019年内の発売を予定しているアクションアドベンチャーTamarinでも作曲しているらしく、Wise氏の生み出す音楽に期待がかかる。

初期の頃は年間10本以上の作品をゆうに手がけてきた氏だが、最近は数を大幅に減らし、年間1~2本程度で集中して作曲をおこなっている。生ける伝説とすら評される氏の日本国外での人気はもちろん、国内でも愛好家の多い作曲家として、今後のさらなる活躍とまだ見ぬ高みへの挑戦が楽しみである。

 

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なぜか正式曲名不明のものばかりになりました。取り上げたものは落ち着いたアンビエント系のサウンドが多いですが、ロックからジャズからオーケストラからワールドミュージックまで、なんでもこなせる印象です。参考までに、今まで格納してきたWiseさんの楽曲をどうぞ。