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隔週末の作曲家談議 vol.022:伊藤賢治

作曲家について語るコラムです。

vol.022で扱うのは伊藤賢治(いとう・けんじ)氏。

代表作は「サガ」聖剣伝説」「カルドセプト」など。

なお、記事に記載された内容はすべて2019年10月26日現在のものです。

まずは一曲。

www.youtube.com『熱情の律動』(ロマンシング サガ ミンストレルソングPS2/2005年)

伊藤氏を代表する名曲して、初登場以来凄まじい人気を誇り続けるのが、ミニオン戦で流れるこの曲である。アコースティックギターによるフラメンコ調の独特なリズムと、ボーカル担当の岸川恭子氏による生気に満ちた即興のスキャットとが相まって、瞬く間に聴く者を異郷の境地へと誘い、魂を鷲掴みするほどの圧倒的なエネルギーにあふれている。「ミンストレルソング」自体、かなり癖のあるゲーム性で知られるが、そのなかでも一際群を抜いた存在感を放ち、伊藤氏のほとばしるセンスを強く感じさせる一曲である。

伊藤賢治氏、1968年生まれ、東京都出身の作曲家。イトケンという愛称で広く知られる。得意楽器はキーボード。4歳からピアノを習い始め、10歳にはすでに当時のニューミュージックやイージーリスニングの影響を受けて作曲を始める。エニックスRPGドラゴンクエストIII そして伝説へ…(1988年)の音楽に強い感銘を受けたのをきっかけにゲーム音楽家を志すようになり、音響系の専門学校卒業後、1990年にスクウェアに入社(面接の担当者は植松伸夫氏だったそう)、同年に発売されたRPGSa・Ga2 秘宝伝説で作曲家デビューを果たす。人気作のナンバリング2作目ということで、前作を単独で担当した植松氏とともに、今度は二人で手分けして半分ずつ作曲することになり、伊藤氏は新人ながらも、うまくシリーズの作風や植松氏との兼ね合いを意識した会心の良曲を生み出す。また、翌年には一大シリーズの外伝を単独で手がけることになる。後に外伝ではなく独立したシリーズへと格上げされることになる聖剣伝説 〜ファイナルファンタジー外伝〜(1991年)である。

www.youtube.com『戦闘2』(聖剣伝説 〜ファイナルファンタジー外伝〜/GB/1991年)

マインドフレア戦、シャドウナイト戦、そしてラスボス戦の第二形態、作中であわせて三回流れるのがこの曲である。ゲームボーイの三和音を見事に使いこなした、非常にしなやかで伸び伸びとした音使いが印象的で、情熱的でありながらも悲壮的なメロディーラインは、勇気と誇りとすこしの切なさを胸に敢然と戦う姿をありありと彷彿させる。本人曰く戦闘曲は苦手、というのは有名な話だが、その苦手なものすら圧巻のクオリティで仕上げる氏の力量を示した出来映えとなっている。

デビューから2作続けて音源上かなり強い制約が課せられた携帯機の作曲を経験した後、今度は家庭用機での作曲ということで、スーパーファミコン向けのRPGロマンシング サ・ガ(1992年)を一任される。それまでのメインコンポーザーだった植松氏に代わり、まだまだ経験の浅い駆け出しの伊藤氏がほぼ全曲担当したが、当時の社内では音楽の評価が芳しくなく、厳しい環境下で研鑽を積むこととなる。とはいえ、世間的にはサウンド面が好評を博し、以降もサガシリーズの作曲家として活躍を続ける。

1993年にはロマンシング サ・ガ2を、1995年にはロマンシング サ・ガ3を、そして1997年にはシリーズ新路線のサガ フロンティアを担当し、順調にキャリアを積み重ねていく。サガシリーズ以外では3D格闘ゲームトバルNo.1(1996年)やダンジョンRPGチョコボの不思議なダンジョン2(1998年)でも作曲し、複数の作曲家との共作でもその手腕を発揮する。

スクウェアでの11年ほどに及ぶキャリアを終えると、2001年にフリーランスへ転向する。独立後初めて手がけたのは大宮ソフトトレーディングカードボードゲームカルドセプト セカンド」(2001年)で、前作の作曲者である古代祐三氏や柳川剛氏に代わり、伊藤氏が単独でカルドセプトの独特な世界観を表現することになる。

www.youtube.com『Open The World(前半)』(カルドセプト セカンド/DC/2001年)

カルドセプトシリーズのステージ曲は、前半・後半・戦闘それぞれで異なる楽曲を用いているのが大きな特徴だが、なかでもこの曲は出会いの地デュナンの前半で流れる一曲である。デュナンは一番最初のマップということから非常にこぢんまりとしたシンプルな構造となっていて、基礎を学びつつカルドセプトの世界へと羽ばたくにあたり、肩肘張らずにリラックスできるこの曲はまさに最適な一曲と言えよう。笛やアコーディオン、ギターやトライアングルの柔らかな音色は、穏やかな癒しとともに、好奇心をくすぐるような昂揚感をもたらしてくれる。(なお、上記動画では前半までということで一旦2分31秒で再生終了しているが、それ以降の『Open The World(後半)』と『(戦闘)』も一聴の価値あり)

以降もカルドセプトシリーズには、カルドセプト サーガ」(2006年)カルドセプト リボルト」(2016年)でも担当することになる。その他、元同僚で一足早く独立した光田康典氏や弘田佳孝氏らとともにノーチラスのRPGシャドウハーツII」(2004年)を担当し、今まで担当してきたサガや聖剣伝説とは一味違う、すこしダークな色合いを持つファンタジーサウンドを生み出す。

フリーになってからも引き続きスクウェア(2003年からは合併してスクウェア・エニックスの作品に携わる機会があり、特に新約 聖剣伝説(2003年)ロマンシング サガ ミンストレルソング(2005年)といったリメイクを中心にアレンジや追加曲などを手がける。もちろん新作にも参加していて、半熟英雄4 〜7人の半熟英雄〜(2005年)聖剣伝説DS CHILDREN of MANA(2006年)、さらには久しぶりのナンバリングであり伊藤氏のシリーズ復帰作となる聖剣伝説4(2006年)でも作曲する。

www.youtube.com『愚者の舞』(聖剣伝説4PS2/2006年)

氷の国ロリマーの軍師である仮面の導師との戦いで流れるのがこの曲である。 先に紹介した『熱情の律動』と近しい雰囲気のスパニッシュ系の独特なリズムが特徴で、ボーカルの代わりにこの曲はストリングスをフィーチャーしている。その美しくも儚い叙情的な旋律は、運命に踊らされる人々の生き様を鮮やかに描き出していて、アコースティック楽器による生演奏の魅力を隅々まで引き出した仕上がりとなっている。ちなみにアレンジアルバムでは実際に岸本氏のスキャットが挿入されたものが収録されている。

時期を前後して音楽ゲームpop’n music 13 カーニバル」(2005年)に楽曲を提供し、音ゲー入りを果たすと、この頃から活躍のフィールドがぐっと広がり、ゲームのみならずアニメの劇伴作曲にも携わるようになる。戯画の恋愛アドベンチャーのアニメ化作品にあたる「この青空に約束を― ~ようこそつぐみ寮へ~」(2007年)では劇伴を、残念系青春ラブコメ僕は友達が少ない(2011年)では作中に登場するパロディゲーム「ロマンシング佐賀14」の作曲を、ロボットアニメ「銀河機攻隊 マジェスティックプリンス(2013年)では一部のエンディング曲を担当し、直近ではSFアニメ「あかねさす少女」(2018年、ゲーム版もあわせて)のメインテーマも担当した。また、ラジオ番組ではTBSの情報バラエティ「ニュース探究ラジオ Dig」(2010年)のオープニング・エンディング両曲を作曲したり、伊藤氏の大ファンであるという声優の杉田智和氏によるトーク番組「杉田智和のアニゲラ!」(放送開始は2009年、音楽が使用されるのは2011年)のオープニング・エンディング作編曲を手がけたりしている。なお、アニゲラには伊藤氏も何度かゲスト出演している。

ゲーム音楽に話を戻す。ガイアのRPG「モンスターキングダム・ジュエルサモナー(2006年)ゲームポットMMORPGコンチェルトゲート(2007年、サービス終了済み)など、引き続きRPGでの作曲に携わることが多いなかで、キラウェアの伝奇ジュブナイルADVルクス・ペイン(2008年)やガイズウェアのミステリーアドベンチャーノベルおおかみかくし(2009年)、アイビー・アーツの学園伝奇アドベンチャー月英学園 -kou-」(2013年)といったアドベンチャーにも楽曲を提供する。さらにスマートフォンが広く一般に普及し始めると、アプリゲームの火付け役となったガンホーのパズルRPGパズル&ドラゴンズ(2012年)にて作曲、以降もコンシューマー向けのパズドラZ(2013年)パズドラクロス 神の章/龍の章」(2016年)、アーケード向けのパズドラ バトルトーナメント -ラズール王国とマドロミドラゴン-」(2014年)など、シリーズ作に携わり続ける。

www.youtube.com『Departure』(パズル&ドラゴンズiOS/2012年)

ノーマルダンジョンの道中で流れるのがこの曲である。出発や旅立ちを意味するストレートな曲名にぴったりな、とても明るく爽やかな曲調が印象的で、伊藤氏の得意楽器であるピアノを活かした朗らかな音使いは、ここから冒険が始まるんだという初々しい気持ちを躍動感たっぷりに彩ってくれる。隙間時間に気軽に遊べるスマホRPGらしい前向きな疾走感にあふれた一曲である。

このほか、アプリゲームの作曲は「クロノスリング」「乖離性ミリオンアーサー」(ともに2014年)「新約アルカナスレイヤー」(2015年)ブレイブフロンティア(2016年、上記四つともすべてサービス終了済み)など、数多く手がけている。それと並行してブラウザゲームでも頻繁に楽曲を提供するようになり、「かくりよの門」「かんぱに☆ガールズ」(ともに2014年)、さらにはサガシリーズ初のPCゲームとなるインペリアル サガ(2015年)でも作曲する。その翌年には満を持して登場したサガシリーズ待望の完全新作サガ スカーレット グレイス(2016年)にて久しぶりに全曲作曲し、一部の楽曲は成田勤氏をはじめとする多数の編曲者たちがアレンジしている。

www.youtube.com『翔遼乱承!~レオナルドバトル』(サガ スカーレット グレイスPSV/2016年)

主人公の一人であるレオナルドの物語における通常戦闘曲として流れるのがこの曲である。レオナルド編はシナリオの設計からして他の主人公と比べて随一の自由度を誇るが、何にも縛られることなく、単一の目的に向かって猪突猛進するその姿を投影したかのごとく、この曲はバイオリンとエレキギターのアンサンブルが凄まじい勢いを誇る。実にサガらしい、実に伊藤氏らしい圧倒的な気迫に満ちた一曲である。なお、前述の通り、本作の楽曲は伊藤氏以外の手により編曲されているものがすくなくないが、この曲に関しては作編曲ともに伊藤氏がおこなっている。

後に追加要素を加えた移植版のサガ スカーレット グレイス 緋色の野望」(2018年)でも追加曲を担当している。また、サガシリーズのアプリゲームロマンシング サガ リ・ユニバース」(2018年)にももちろん参加していて、デビュー以来ずっとサガとともに作曲家としてのキャリアを歩んできていると言っても過言ではない。また、2019年内には「インペリアル サガ」がサービス終了するのを受けて、新たにブラウザとスマホの両方に対応するインペリアル サガ エクリプス」が配信を開始する予定で、そちらの新曲も楽しみである。

ライブや対バン、コンサートなど、各種イベントにも積極的に参加し、活動のフィールドを広げ続ける氏だが、これからも心に響く音楽づくりを目指して、ゲーム音楽の最前線で活躍していくことが期待される。

 

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一番最初に代表作を書くところで、パズドラと書いたほうがいいのかとも思いましたが、そこはやっぱりカルドセプトで。カルドセプトはいいですよね。参考までに今まで格納してきたイトケンさんの楽曲をどうぞ。