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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#836 『The Attic』(蓑部雄崇/RULE of ROSE/PS2)

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パンチラインがおくるサイコミステリーアドベンチャールールオブローズより、

蓑部雄崇作曲、『The Attic』(『屋根裏の旋律』とも)。

「お菓子の家の章」で流れます。

ラブデリックの元スタッフが設立したパンチラインによるPS2用のホラーゲームとして登場した本作。1930年代のイギリスを舞台に、19歳の少女・ジェニファーは、迷い込んでしまったローズガーデン孤児院で、貴族社会を演じる孤児たちの禁じられた遊びに加わり、最下層の使い走りとして薔薇の姫に捧げる貢物を探すことになる。探索型の3Dアドベンチャーで、少女たちによる閉鎖的なコミュニティならではの、いじめ、虐待、格差社会をモチーフにした残酷で陰惨な描写が徹底されている。戦闘では、武器のリーチが軒並み短く、当たり判定が曖昧であるなど、ジェニファーの非力さを体現するかのような仕様であるほか、狂気的な作風にあわせて敵のデザインは猟奇的な代物である。考察し甲斐のある難解で闇が深いシナリオと相まって、蠱惑的な魅力に満ちた仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは蓑部雄崇氏。当時、音楽制作会社ウェーブマスターに所属していた作曲家である。本作では鬱々とした世界観に見合ったクラシック調のオーケストラサウンドが揃っていて、電子的な要素を一切排し、アコースティックな生演奏にこだわっている。作中では蒐集品としてレコードを入手することが可能で、応接室の蓄音機で再生することができる(レコード名は曲名と異なる)。サウンドトラックは北米版の予約特典として一部楽曲を収録したものと、発売から10年越しに登場した待望のフルサントラが存在し、後者は日本語の曲名が付されている。

レコード「ピスケス」の収録曲であり、7章「お菓子の家の章」で流れるのがこの曲である。バイオリンの咽び泣くような流麗なイントロから始まり、次いで奏でられるピアノの旋律が、深く、心の奥底に染み込むような悲痛さを滲ませる。1分9秒や1分14秒など、弦の装飾音として小刻みに音を揺らすトリルを活用することで、メランコリックな曲調に実り豊かなメリハリをつけ、魔術的な耳心地の良さを生み出す。1分45秒過ぎで一区切りして、しばらくピアノが息を潜めて弦が主導的な役割を担うが、小さめな音量ながらも時折ピアノが顔を覗かせ、曲の最後の2分33秒で力強くアウトロを飾る。いつまでも聴き浸れるような、甘美な余韻をもたらす一曲である。

イントロのバイオリン部分のみ、オープニングデモの冒頭でも用いられています。生演奏を取り入れたのは、人情味というか人間の生々しさを表現するためだそうで、まさに琴線に触れるような良曲揃いですね。