VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#886 『天神族のテーマ』(近藤嶺/大神/PS2)

www.youtube.com

クローバースタジオがおくるネイチャーアドベンチャー・大神より、

近藤嶺作曲、『天神族のテーマ』。天神族との会話シーンで流れます。

カプコンから分社化されて設立された子会社・クローバースタジオの代表作にあたる本作。日本神話の時代を舞台に、百年前に封印されたはずのヤマタノオロチが復活し、世界が闇に覆われたことを受け、白狼の太陽神・アマテラスは、絵師のイッスンとともに生命を照らす旅に出ることになる。水墨画のようなタッチの瑞々しいグラフィックと、とことん和を突き詰めた彩り豊かな世界観が特徴で、アクション面で特筆すべきは、画面に模様を描く筆しらべにより、夜を昼に変えたり、枯れ木に花を咲かせたりできる点である。映像表現や演出の鮮やかさも相まって、没入感たっぷりな美しさを堪能できる仕上がりとなっている。後にWiiに移植されたほか、HDリマスター版がPS3PS4、スイッチ、XboxOne、PC向けに発売された。

本作の音楽を担当するのは上田雅美氏、グローベス(海田)明里氏、近藤嶺氏、山口裕史氏。上田氏と山口氏は当時クローバースタジオに所属していた作曲家で、グローベス氏はかつてカプコンに在籍していた経験のあるフリーランスの作曲家、近藤氏は音楽制作会社T's Music所属の作曲家である。本作の色鮮やかな作風をいっそう印象付けるのがその珠玉の楽曲群で、尺八や三味線といった和楽器をふんだんに用いた上質なサウンドが揃っている。また、同じ曲でも昼と夜とで鳴っている楽器が異なり、時間帯に応じてシームレスに切り替わる工夫が凝らされている。サウンドトラックは短いジングルやプロモーション用の音源なども含めて収録されているほか、ピアノアレンジや五重奏アレンジ、レトロ、ジャズ、ラウンジ、ヒーリングなど、種々様々なアレンジアルバムが存在する。

天神族とは、アマテラスの出身地であるタカマガハラに根差していた、すでに滅亡して久しい一族である。物語終盤、最終決戦の地となる箱舟ヤマトの内部で、魂だけの姿と成り果てた彼らとの会話シーンで流れるのがこの曲である。船内では不気味な静寂が漂い、彼らと話すときだけ音楽が鳴る仕様だが、それまでの禍々しい雰囲気から一転、流れ始めた途端に神々しさに取って代わられる。ハープと笛の甘美な主旋律と、音量は控えめながらも包み込むように奏でられる笙と弦楽器の伴奏が、胸を締め付けられるほど物悲しく、それでいてなお前向きな希望を宿した音色を紡いでいく。魂となった彼らが口々に語る凄惨な過去、それを乗り越えて最後の戦いに挑むシチュエーションを、儚くも美しい曲調で見事に表現した一曲である。

新年一発目は以前から紹介したくてたまらなかったこの曲です。アレンジはピアノ、ジャズ、ラウンジ、ヒーリングと多岐にわたりますが、何よりも原曲が筆舌に尽くし難いほど大好きです。