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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#922 『Primal Eyes』(下村陽子/パラサイト・イヴ/PS)

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瀬名秀明著のホラー小説を原作とする、

スクウェアがおくるシネマティックRPGパラサイトイヴより、

下村陽子作曲、『Primal Eyes』。オープニングデモで流れます。

瀬名秀明氏のデビュー作で第2回日本ホラー小説大賞の受賞作である「パラサイト・イヴ」のゲーム化作品として登場した本作。ニューヨーク市警の新人女刑事のアヤ・ブレアは、クリスマスイヴの夜、オペラ座にて人間がミトコンドリアに乗っ取られて燃え上がる人体発火事件に遭遇したことをきっかけに、変異するミトコンドリアの女王・Eveに立ち向かうことになる。原作のテーマを継承しつつ、舞台を日本からアメリカに一新、登場人物・シナリオともに完全新規、根幹となるミトコンドリアの設定も大胆にアレンジされている。戦闘はFF譲りのアクティブタイムバトルだが、攻撃の回避等は直接操作でおこなうアクション要素が取り入れられていて、クリーチャーデザインの奇怪さも相まってサバイバルホラー的な雰囲気を醸している。隠しダンジョンなどの周回要素も充実していて、原作とは似て非なる別種の魅力を持つ仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは下村陽子氏。当時スクウェアに所属していた作曲家で、パラサイト・イヴシリーズには2は不参加だが、退社後の3作目(The 3rd Birthday)で復帰している。本作では生理的恐怖を喚起するSFホラーの世界観にあわせて、氏自身もあえて感情を封印して作曲に挑んだらしく、緻密なリズムパターンが印象的な、不穏で不吉、鬱屈した作風の楽曲が揃っている。また、シナリオ上でオペラがフィーチャーされていることから、ヴォカリーズのようなクラシック音楽調のものも存在する。サウンドトラックは2枚組、ボーナストラックも含めて収録されている。

オープニングムービーで流れるのがこの曲である。映像はニューヨークはマンハッタン島、自由の女神のクロースアップから始まり、現地の景観とともに、爆走するパトカーやグロテスクなクリーチャーが次々と映し出されていく。その様子を、胸騒ぎを覚えさせる環境音を背景に、流麗なピアノと粗野なエレキギターが激しく彩る。20秒からピアノが急に荒ぶり出すと、映像もシンクロし、自由の女神からブルックリン橋へ、パトカーの荒々しい追走のシーンへと切り替わる。その後しばらく高密度なリズムを反復してテンションを保つが、ちょうど1分頃にピアノとコーラスが響き合う神秘的なフレーズが挿入されると、人間の体内を思わせる映像に不可思議な文字列が浮かび上がる。ひとたびそれが過ぎると今度はドラムとギターの独壇場となり、ラストはピアノの重低音を響かせながら、消えゆく余韻を漂わせる。主人公のテーマ『Theme of Aya』を映像にあわせて変幻自在にアレンジした、看板に偽りなしのシネマティックな一曲である。

最後のロゴ(PE)が示すのはゲーム名であり、この曲の略でもある、というのが粋ですよね。アヤの瞳のアップで締め括るあたりも、Eyesを意識しているのでしょう。『Theme of Aya』、あわせてどうぞ。

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