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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#316 『夏影』(麻枝准/AIR/PC)

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Keyがおくる恋愛アドベンチャーAIRより、

麻枝准作曲、『夏影』。メインヒロインの神尾観鈴のテーマ曲。

ビジュアルアーツのアダルトゲームブランド・Keyによる、Kanonに続く美少女ゲームの2作目にあたる本作。人形遣いの旅人の青年・国崎往人は、旅先の田舎町で出会った少女との出会いをきっかけに交流を深めることになる。現代編のDREAM編、千年前の過去に遡るSUMMER編、再び現代に戻るも視点を変えたAIR編の三部構成から成る、千年にも及ぶ受難と救済の物語が特徴である。その壮大で感動的なシナリオゆえに、泣きゲーというジャンルを確立したエポックメインキングな作品として語り継がれている。後に年齢制限を緩和してドリームキャストPS2PSPなどに移植された。

本作の音楽を担当するのは折戸伸治氏、戸越まごめ氏、麻枝准氏の三名。いずれもKey所属の作曲家で、戸越氏のみ現在は退社している。このうち麻枝氏は本作では音楽のみならず企画や脚本にも携わっていて、両方手がけているからこそシナリオとサウンドの親和性が非常に高い。ピアノを中心とする叙情的で瑞々しい楽曲が揃っていて、楽曲のなかには和風な雰囲気を持つものもある。サウンドトラックはフル尺のボーカル曲や未使用曲も含めて2枚組で収録されているほか、ゲーム内ではサウンドテスト(曲名には英語の副題付き)が存在する。

summer lightsという副題がつくこともあるこの曲は、本作のメインヒロインである神尾観鈴を、あるいは作品全体を代表する一曲である。ぼんやりと遠鳴りするシンセパッドと電気ピアノのイントロで始まり、電気ではない通常のピアノの音色が入ると、素朴で純情で牧歌的な優しさに満ちた郷愁を漂わせる。観鈴のあどけなさと、その裏に秘めた壮絶な過去を、ただピアノの繊細な旋律と控えめな伴奏のみで簡潔に表現している。52秒あたりからはチリンと鈴を響かせ、1分18秒からの間奏でチェレスタと思しき柔和な音色を奏でることで、さらにいっそうノスタルジックな雰囲気に磨きがかかる。淡く切ない一夏の思い出を深く印象付ける一曲である。

夏が訪れるたびに聴きたくなる曲ですよね。秋が深まり冬が近付くこの時期に聴くと、過ぎ去った夏が恋しくなります。