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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#325 『シェンムー ~莎木~』(光吉猛修/シェンムー 一章 横須賀/DC)

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セガがおくるFREEアクションアドベンチャーシェンムーより、

光吉猛修作曲、『シェンムー ~莎木~』。本作のメインテーマでエンディング曲。

当時としては極めて斬新なリアル志向のオープンワールドアドベンチャーとして登場した本作。横須賀を舞台に、武術の達人である父を目の前で殺され、敵討ちを目論む青年・芭月涼が、異国へと旅立つまでの過程を描いている。Full Reactive Eyes Entertainment、通称FREEと呼ばれる新ジャンルを提唱し、全編フルボイスであるだけに留まらず、街の隅々まで、住民一人一人の生活ルーチンまで丁寧に練り込まれた圧倒的なつくり込みが何よりの魅力である。壮大な内容だが、全11章構成のうち本作では第一章のみを収録していて、本作単体では全体の物語のほんの導入に過ぎぬ仕上がりとなっている。後に1&2リマスター版がPS4用に登場した。

本作の音楽を担当するのは井内竜次氏、古代祐三氏、新田忠弘氏、光吉猛修氏、村田理氏、柳川剛氏、渡辺俊幸氏などの複数の作曲家たち。光吉氏と村田氏はセガ所属の、古代氏、井内氏、柳川氏は音楽制作会社エインシャント所属の、新田氏はマイクロキャビン(本作の開発に一部携わっていたらしい)所属の作曲家である。シェンムーでは一章こそ横須賀で物語が進むが、次作以降は香港へと舞台を移すため、和風に限らず中華風のエキゾチックな楽曲もすくなくない。サウンドトラックはイベント曲を中心に収録されているが、未収録のものも多く、実際にゲーム内で使われた曲数は200を超えるとのことである。

本作のメインテーマであり、エンディングで流れるのがこの曲である。ゆったりと奏でられるピアノの落ち着いた音色に、雅やかな二胡の旋律が重なり合うことで、洋々と流れる大河を、麗しく咲き誇る花盛りの大樹を彷彿させる。旋律の美しさもさることながら、二胡の音色そのものが持つ独特な哀愁の響きが、切なくも力強い印象を与える。1分20秒過ぎからはしばらく二胡が息を潜め、代わりに笛や弦やコーラスなどが艶やかなアンサンブルを紡ぐ。曲終盤の2分45秒以降は同じメロディーを繰り返すのに、はじめは淑やかな笛で、3分13秒からは満を持して再び二胡が主旋律を務めることで、最後にもう一度豊かな盛り上がりを見せる。未だ謎に包まれつつも一旦は幕を閉じる物語にふさわしい、奥ゆかしい余韻を持つ一曲である。

ダイナミックな曲の展開が特徴の、神奈川フィルによるオーケストラ版もあわせてどうぞ。

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