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#583 『Glory of the past』(橋本彦士/ダンジョンマスター/SFC)

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FTL Gamesがおくる3DダンジョンRPGダンジョンマスターより、

橋本彦士作曲、スーファミ版の『Glory of the past』。勇者の館で流れます。

アメリカのSoftware Heaven社のゲーム開発部門であるFTL Gamesが1987年にAtari ST向けに発売したダンジョンマスターの移植版として、ビクター音楽産業を介してスーファミに登場した本作。力の玉と炎の杖の暴走により未曾有の危機に陥った世界で、災厄をもたらすロード・カオスを打ち倒すべく、勇者たちは彼の住まうダンジョンに挑むことになる。性能の異なる総勢24人の勇者のなかから最大4人パーティを組んで罠だらけのダンジョンを攻略することになるが、ダンジョン内では常にリアルタイムで時間が進行するため、勇者たちはときにこれを手がかりに罠を解いたり、ときに空腹に陥ったり、ときに休息の最中に敵に襲われたりすることもある。移植の際にグラフィックが一新され、もともと無音だったが各所に音楽が流れるようになり、原作よりもいっそう冒険感が増した仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは多和田吏氏と橋本彦士氏。いずれも80年代後半あたりから活動を開始した作曲家である。このうち多和田氏はオープニングとエンディングの2曲を担当していて、それ以外は橋本氏が作曲をおこなっている。前述の通り、原作では一部の効果音を除きほぼ無音だったが、本作では要所要所で音楽が入るようになった。ただし絶えずBGMが用いられるわけではなく、特定地点に到達したときのみ、ループの短い曲が流れる仕組みとなっているため、原作同様、基本的には環境音だけである。静謐がもたらす底知れぬ恐怖や緊張感を味わいつつも、時折ふと鳴り響くイージーリスニング調の叙情的な楽曲に酔い痴れることもでき、スーファミ初期の作品ながらもかなり良質なサウンドが揃っている。サウンドトラックに関しては、主要な10曲をピックアップして編曲を施したアレンジ盤が存在する。

初めに勇者を選ぶときに訪れる鏡の間、勇者の館にて流れるのがこの曲である。勇者たちは皆一様にかつてロード・カオスに挑み、返り討ちに遭って鏡のなかへと閉じ込められてしまったが、そこから最大4人を選んで蘇らせるところから本作の物語は始まる。そうした経緯から、この曲は冒険の始まりを感じさせる勇ましさよりも、すでに死に絶えて久しい過去の栄光を顧みる切なさが強調された仕上がりとなっている。震えるように響くストリングスの旋律は、死してなお戦い続ける勇者たちの儚き雄姿を悲愴感たっぷりに表現していて、どこか鬱屈とした本作の世界観をものの見事に反映している。

一応補足すると、本作よりも前に移植されたFM TOWNS版にはすでに音がついています。アレンジ盤では多和田さん編曲で弦楽による幻想的な重奏に仕上がっているほか、橋本さんのsoundcloudにて、原作の雰囲気を忠実に再現したセルフカバーも公開されています。ちなみに本作に関する橋本さんのブログ記事があって、当時の制作環境とか多和田さんとの作業分担とか、いろいろ書かれていてそちらも面白いです。あわせてどうぞ。

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