VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#823 『Klaymen's Theme』(Terry Scott Taylor/The Neverhood/PS)

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The Neverhood, Inc.がおくるクレイアドベンチャー

The Neverhood(クレイマンレイマン)より、

Terry Scott Taylor作曲、『Klaymen's Theme』。スタート地点で流れます。

カートゥーン作家のDouglas TenNapel氏がつくった粘土細工をもとに、全編クレイアニメによるゲーム化作品として登場した本作。すべてが粘土でできた王国・Neverhoodを舞台に、王を裏切って平和を脅かした悪者のKloggをやっつけるべく、主人公・Klaymenは旅立つことになる。仕掛けを解いてステージを攻略する、いわゆるポイント・アンド・クリック形式のアドベンチャーで、キャラの造形からギミック、背景に至るまで、どれをとっても粘土のみで表現された独特なグラフィックが特徴である。コミック調のユーモラスな作風ながらも、謎解きは頭を使うシビアなものが多く、徹底された粘土の世界観と相まって、練りに練られた仕上がりとなっている。日本国内では「クレイマン・クレイマン ネバーフッドの謎」という題でリバーヒルソフトより発売された。

本作の音楽を担当するのはTerry Scott Taylor氏。アメリカ出身の作曲家で、クリスチャンロックバンド・Daniel Amosとその派生バンド・The Swirling Eddiesのギタリストである。本作では粘土っぽい音楽性を追求した、奇妙で奇天烈なエクスペリメンタル・フォークサウンドが揃っていて、理解不能な気の抜けた造語歌詞を取り入れた意欲的な楽曲が一堂に会している。サウンドトラックは本作単体のもののほか、シリーズ三部作の楽曲を網羅して収録したものが存在する。

主人公のテーマ曲として、ゲーム開始直後のスタート地点である個室で流れるのがこの曲である。何ともやるせない、不可思議な哀愁を漂わせたアコースティックギターのイントロから始まり、9秒から何を歌っているのかよく分からない気だるげなボーカルが加わることで、絶妙に耳心地の良い空気感を醸し出す。陽気なようでいて陰気臭くもある主旋律に、時折ホルンの重低音が響くことで、リラックスできるどころか全身の力が奪われるようなおかしな中毒性を誇る。これからゲームを始めようというのに、やる気よりも倦怠感を誘うような魅力的な一曲である。

ユーモアとペーソスの配分が見事で、メランコリックだけど何か可笑しい、変な誘引力があるような印象です。粘土っぽさという曖昧で感覚的すぎる概念をよくぞここまで形にできるものだと感心します。