VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#940 『Menu』(Christoph Binder/And Yet It Moves/PC)

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Broken Rulesがおくるアクションパズル・And Yet It Movesより、

Christoph Binder作曲、『Menu』。メニュー画面で流れます。

ウィーン工科大学の学生たちが課題で制作したゲームを原型とし、その開発者が立ち上げたオーストリアのインディーゲームスタジオ・Broken Rulesのデビュー作にあたる本作。ちぎり絵でできた世界で、紙製の主人公が過酷な道のりを進むことになる。ペーパーコラージュの素朴な質感で描かれる独特な世界観と、画面を90度ずつ回転させて世界を傾けるユニークなアクションが特徴で、一見通れない道も回転で突破することができる。主人公が紙製であるため、地面と衝突したり障害物にぶつかったりして千切れることもままあり、回転中、主人公の動きが一時停止されている状態でも落下の勢いが保たれることから、着地の可否や周囲の安全を考慮しながら世界を回す必要がある。シンプルだが奥深いコンセプトが光る仕上がりとなっている。後にWiiスマホに移植され、90度間隔ではなく全方位角に回転できるようになった。

本作の音楽を担当するのはChristoph Binder氏。他の開発者同様、当時、ウィーン工科大学の情報科学(Medieninformatik)専攻の学生だった。本作ではちぎり絵のアートワークと同様に、アナログ的な手法を音楽面でも取り入れていて、BGMも効果音も氏の肉声でつくり上げたヒューマンビートボックス仕立てとなっている。曲数はメニューとスタッフロールの実質2曲のみと非常に限られているが、ステージギミックに応じた個性豊かな効果音や環境音が用意されている。サウンドトラックは公式のSoundCloudで公開されている。

タイトル画面も兼ねるメニュー画面で流れるのがこの曲である。全編にわたって人声が紡ぐリズミカルなビートが印象的な不思議な曲調で、水泡のようにポコポコと鳴る音が、奇妙な落ち着きと昂ぶりを同時に刺激する。シンセパッドにも鼻歌にも似た低音もまた、安寧と不穏の両方を喚起する奇怪な響きを帯びていて、大きな変化もないままずっと連綿と似たり寄ったりのフレーズが繰り返される。世界を回転させようと天地を逆転させようと、それでも地球は回っている、そんな淡々とした本作らしい雰囲気を象徴的に表した一曲である。

せっかくなのでスタッフロールの『Credits』も聴いていってください。ちょっと豪華になったような、でも淡泊であることには変わりなく、とはいえちゃんと終わった感じのする、絶妙な塩梅のアレンジです。

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