VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1019 『Red tint』(Shade/アトラク=ナクア/PC)

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アリスソフトがおくるビジュアルノベルアトラク=ナクアより、

Shade作曲、『Red tint』。タカヒロの章などで流れます。

アダルトゲームメーカーで知られるアリスソフトのファンディスク「アリスの館4・5・6」のおまけとして収録された本作。女郎蜘蛛の主人公・比良坂初音は、宿敵である銀との戦いで負った傷を癒すべく、人の精気を吸う目的で女学生に扮して八重坂高校に巣を張ることになる。選択肢による分岐はあるが、概ね一本道で展開するシンプルなノベルゲームである。全編にわたって暗く激しく嗜虐的な描写が続く濃密な愛憎劇が特徴である。分量としては短編ながらも、妖艶で退廃的な世界観と、登場人物の繊細な心の機微が徹底的に描き込まれた仕上がりとなっている。後に本作単独で廉価版が発売された。

本作の音楽を担当するのはShade氏。当時アリスソフトに所属していた作曲家である。本作は氏にとっての初期の代表作である。人心を弄ぶ悪辣さと悲痛さが滲む作風にあわせて、本作では情緒豊かでオリエンタルな楽曲群が揃っている。使用される楽器はギターやバイオリンなどが中心だが、曲調によって和風な雰囲気づくりを実現している。また、終盤にかけて畳みかけるように新曲を配置することでクライマックスらしさを演出するなどの工夫がみられる。サウンドトラックは本作単体では未発売だが、アリスソフトサウンドコレクションやアレンジアルバムなどで本作が扱われている例があるほか、作中にミュージックモード(作曲者本人のコメント付き)が完備されている。

本作全体のメインテーマであり、とりわけ物語後半のタカヒロの章で流れ続けるのがこの曲である。タカヒロ(渡辺鷹弘)は剣道部の主将と生徒会長を務める好青年で、彼の恋人もしくは妹を惑わして誘き寄せる、というのがこの章の大まかな筋書きとなる。じわじわと執念深く搦め取る主人公のやり口を如実に表現した不協和な曲調が印象的で、伴奏の不吉さとはおよそ釣り合わないほど鮮やかな高音を奏でる主旋律が、かえって非常に親和性のある響きを生む。不穏な歪みに満ちたギターと、美しくも悲劇的な色味を帯びたバイオリンを軸に、時折素朴な笛の音が加わることで、その組み合わせが蠱惑的な神秘を醸す。聴けば聴くほどどっぷりと底なしの没入感に浸れるような一曲である。

長く聴き続けるシチュエーションにぴったりですね。曲名は「赤の色合い」とか「赤み」のような意味ですが、真っ先に思い浮かぶのは主人公の瞳の色でしょうか。