VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1152 『Industarn』(佐々木宏人/プロップサイクル/AC)

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ナムコがおくる人力飛行機ゲーム・プロップサイクルより、

佐々木宏人作曲、『Industarn』。インダスターンで流れます。

人力飛行機を題材にしたナムコ製の体感ゲームとして登場した本作。一度文明が滅びた遠い未来を舞台に、古代の遺構によって浮遊してしまった大地・ソリターを地上に降ろすべく、人力飛行機・ラペロプターを駆って飛行することになる。バイク型の筐体でハンドルを操り、ペダルを漕ぐことでラペロプターを操作し、制限時間内にステージ各地に散らばる風船または赤い玉(ソリターの浮遊のエネルギー源)を割るのが目的である。3つのステージから1つを選んで点数を競う初級のポイントアタックモードと、3ステージすべてをクリアした後に最終ステージのソリターに挑戦できる上級のストーリーモードの二種類の遊びが用意されている。飛行する性質上、ペダルを漕ぎ続けないと速度が落ちるだけでなくそのまま落下するなど、ゲーム性と体の運動が密接に結びついた体感ゲームらしいシステムを持つ。風を体で受ける感覚を再現すべく送風ファンが筐体に取り付けられている点も特徴で、没入感のある飛行体験を味わえる仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは荒川美恵氏、石井悦夫氏、佐々木宏人氏、佐野信義氏、高柳佳恵氏、中村和宏氏。現在も統合後のバンダイナムコに所属している石井氏を除き、いずれも当時ナムコに所属していた作曲家である。このうち石井氏がメインで作曲していて、荒川氏・佐々木氏・佐野氏・中村氏はそれぞれ1曲のみの担当に留まっている。本作では世界観こそSF色が強いが、作中の雰囲気は割と平和で牧歌的なため、サウンドも後者に合わせた爽やかなニューエイジ系の楽曲が揃っている。また、同じステージでもエリアによって曲展開がインタラクティブに変化する仕掛けがあるなど、ゲームプレイの臨場感を高める工夫が凝らされている。サウンドトラックはCDエキストラの形式で、ボーナストラックやイメージソングのみならずゲーム映像も含めて収録されている。

インダスターンで流れるのがこの曲である。切り立った崖に囲まれたステージで、採掘場やトンネルという特徴的な景観に加えて、朽ちた高層ビルや地下鉄といった過去の文明の跡が色濃く残る。いわゆる文明崩壊後の遺跡だが、ステージ全体が明るく色鮮やかであることを踏まえて、曲のほうも暗さを感じさせない陽気な曲調に仕上がっている。ギターを軸にシンプルかつ親しみやすい反復で構成された伴奏に、清涼感のある笛の主旋律を組み合わせることで、空を飛ぶ楽しさを活き活きと印象付ける。ちょうど1分頃で間奏が入ると、リズムに馴染むようにペダルを漕ぐ効果音を取り入れ、いっそう空中散歩の没入感を強めてくれる。その後一旦は元通りのフレーズに回帰するが、1分25秒過ぎで再び間奏に入り、今度は細かい間隔でメロディアスに音を鳴らすことで、効果音を交えた間奏とは一味異なる聴き心地の良さを生む。間奏部分を除くと曲の大半は似通ったフレーズの繰り返しだが、反復によっていつまでも瑞々しい雰囲気が保たれる。足を動かして空を飛び回るフレッシュな快感をよく表現した一曲である。

聴けば聴くほど前向きになれるような曲ですね。