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#1165 『メイヘンス』(岡本隆司/ドラゴンシャドウスペル/PS2)

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フライトプランがおくるシミュレーションRPGドラゴンシャドウスペルより、

岡本隆司作曲、『メイヘンス』。メイヘンスの街中で流れます。

サモンナイトシリーズの開発元として知られるフライト・プランの初の自社ブランド作品として登場した本作。古の魔法言語・法定式(マトリクス)が浸透する現代世界を舞台に、新米魔法使いの少年・天音カイトは、至高の叡智をめぐる戦いに巻き込まれることになる。現代を舞台にしつつもかなりハイファンタジー寄りな作風が特徴で、主に探索や会話イベントを進めるアドベンチャーパートと、勝敗条件に沿ってユニットを戦わせるバトルパートに分かれている。仲間と交流を深めるプライベートトークや、キャラごとの個別エンドなど、全体的にキャラ描写に注力している。戦闘はマス目上で展開する一般的なつくりにウェイトタイム制(ターン制ではなく個別に行動順が回ってくる形式)を組み合わせていて、ゲージ消費で順番を無視して一斉攻撃できるパーティリンクという独自要素が含まれる。シナリオまわりはやや粗削りだが、キャラや戦闘システムは手堅くまとまった仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは岡本隆司氏。当時フライト・プランに所属していた作曲家である。本作は氏にとってCS向けのデビュー作である。ファンタジーらしいオーソドックスなオーケストラ調はもちろん、落ち着きのあるアコースティックサウンド、打って変わって前衛的なロックやテクノなど、世界観に寄り添いつつも様々なジャンルを網羅した楽曲群が揃っている。サウンドトラックは未使用曲も含めて3枚組で収録されていて、付属のブックレットには氏による楽曲解説やインタビューなどが掲載されている。

メイヘンスで流れるのがこの曲である。法定式の研究が盛んな都市で、橙色と緑色を主調とした独特な景観が印象的である。先進的とも幻想的とも言える街並みを、アコースティックギターを主役に据えたスパニッシュ風の曲調で鮮やかに彩る。初めはギターのみだが、5秒でパーカッションが入り、10秒でストリングスの伴奏を随えて本格始動すると、寂寥感を帯びつつ絶妙なノリの良さを感じさせる。主旋律が心地良い響きに満ちていることに加えて、随所で打楽器が小気味良く鳴ることで、質素であると同時に華麗でもある印象を与える。特にループ直前の50~55秒の間奏部分では、ギターが一歩退く代わりに打楽器の存在感を強めることで、うまく仕切り直して次のループへと違和感なく橋渡しする。起伏のすくない淡泊な曲調だが、民族音楽特有の燻るような情熱を滲ませる一曲である。

サントラに収録されている未使用版の『メイヘンス ver.B』『メイヘンス ver.C』もなかなか好みな方向性です。あわせてどうぞ。

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