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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1231 『Smiles and Tears』(鈴木慶一・田中宏和/MOTHER2 ギーグの逆襲/SFC)

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任天堂がおくるRPG・MOTHERより、

鈴木慶一田中宏和作曲、2の『Smiles and Tears』。エンディングで流れます。

MOTHERシリーズの2作目として、糸井重里氏率いるエイプと、カービィで知られるHAL研究所が共同で開発した本作。199X年のある日、田舎町に住む主人公の少年は、家の裏山に落ちた隕石から現れた未来生物により未来の地球が侵略者ギーグに蹂躙されていると聞き、その事態を未然に防ぐべく旅立つことになる。前作同様、ユーモアとノスタルジーが共存する作風と、癖が強く印象に残る台詞回しが特徴で、本作ではサイケデリックな色合いやシュルレアリスティックな趣が強まった。戦闘はシンボルエンカウント制のよくあるコマンド入力式だが、被弾時などにHPは即座に変動せず、ドラムカウンターの要領で時間をかけて増減するという斬新なシステムを取り入れている。そのため、致命的なダメージを受けても、HPが減り切る前に回復してダメージを相殺したり、素早く敵をやっつけて戦闘を終わらせたりすれば戦闘不能に陥らずに済む。そのほか、電話を介した両親とのコミュニケーションや道具の配達、珍妙な効果を有する状態異常の数々、充実した小ネタなど、大小様々な要素が詰め込まれている。遊び心の極致とも言える高い独創性を持つ仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは上野利幸氏、金津ヒロシ氏、鈴木慶一氏、田中宏和氏。このうち前作から引き続き参加している、ロックバンドのムーンライダーズに属する鈴木氏と、当時任天堂に所属していた田中氏(本作のサウンドディレクター兼サウンドプログラマーでもある)が中心となって作曲している。本作では音楽が世界観を演出するうえでも、物語を進めるうえでも核となっていて、ROM容量の三分の一が音声に充てられているほど重視されている。ポップスやカントリー、賛美歌、洋楽のパロディなど、バラエティ豊かなサウンドが揃っているほか、ゲップの音や糸井氏の何気ないつぶやきなど、サンプリングを用いた独特な音声を聴くことができる。サウンドトラックについては、概ね場面ごとにまとめられたメドレー形式のものが存在するが、未収録曲がかなり多い。

エンディングで流れるのがこの曲である。『SMILES&TEARS』『スマイルズ・アンド・ティアーズ』など複数の表記がある。物語の根幹をなす重要な楽曲『エイトメロディーズ(記憶の底に)』と旋律を共有する曲で、イントロから非常に綺麗で幻想的な高音を奏でるストリングスが印象的である。徐々に華やかなトランペットを交えながら雰囲気を整え、30秒ほど過ぎたあたりでエレクトリックピアノの主旋律が入ると、その温もりあふれる音色が聴く者の心に優しく寄り添う。スタッフロールではこれまでの旅の写真とともに冒険の軌跡を振り返ることになるが、苦労も喜びも笑顔も涙もたっぷり詰まった旅の記憶を、この曲の素朴なメロディーを通して、かけがえのない思い出へと昇華させてくれる。とりわけ2分過ぎにはフルートによる切ない間奏が挟まれ、胸をきゅっと締め付けられるような、それでいてとても癒されるような印象を与える。3分19秒から再びメインメロディーが奏でられると、今まで以上に表現力豊かで、しっくり耳に馴染むようなキャッチーさを感じさせる。曲の結びとなる5分前後からは、一段と感傷的なフレーズを披露した後、ぐっとテンポを下げて "I miss you" とつぶやいて、やがて静かに収束していく。心の琴線に触れる一曲である。

この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。スマブラforでの峰岸透さんによる、晴れやかなようでやっぱり切ないアレンジ『スマイルズ アンド ティアーズ』、やくしまるえつこさんが歌唱する甘美なボーカルバージョン『SMILES and TEARS』、それから『エイトメロディーズ(記憶の底に)』、ぜんぶあわせてどうぞ。

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