スクエニがおくるホラーミステリーADV・パラノマサイト FILE23 本所七不思議より、
岩﨑英則作曲、亀岡夏海編曲、『The Storyteller』。
案内人のテーマとして流れます。
スクエニと開発会社ジーンによるダウンロード専用のオリジナル作品として配信された本作。昭和後期の墨田区を舞台に、当地に伝わる七不思議に紐づく呪詛の力を得た九人の男女が、蘇りの秘術を巡って数奇な運命を辿ることになる。フローチャート式で展開する群像劇型のノベルゲームで、360度のパノラマ背景や、呪詛を行使する能動的な駆け引き、キャラを操作して誘導する巧妙な展開などが特徴である。昭和レトロの世界観のもと、腹に一物ある個性的なキャラ、架空の都市伝説を軸とした謎解きや化かし合い、加速していく惨劇、思惑と狂気が絡み合う物語、そのいずれもが非常に濃密な存在感を放っている。作中の用語解説や地域紹介を兼ねた読み物として資料が充実しているほか、本筋とは関わらないちょっとした収集要素もあり、隅々まで味わい尽くせる魅力がある。総じてどっぷりと引きずり込まれる仕上がりとなっている。
本作の音楽を担当するのは岩﨑英則氏。スクエニに所属する作曲家である。開発協力という名目でフリーランスの亀岡夏海氏も一部楽曲の編曲を担当している。岩﨑氏はこれまでにジャンルこそ本作と違えど、フロントミッションシリーズの作曲や、近年のサガシリーズの一部編曲など、様々な思惑が絡み合う群像劇系のタイトルを複数手がけている。本作では昭和の活気と淀みをうまく捉えた、アコースティック中心のレトロでクラシカルなサウンドが揃っている。ギターやバイオリン、ピアノ、アコーディオンなどをふんだんに用いて、穏やかなものから一転して恐ろしく不穏なものまで用意されている。サウンドトラックは各種デジタルストアで配信されている。
案内人のテーマとして流れるのがこの曲である。案内人とは文字通りゲームの案内人で、物語には直接介入しない語り手の翁だが、本作を紐解くうえでの最重要人物でもある。ゲーム開始直後にこの曲がかかるほか、要所要所で姿を現すときに聴くことになる。時を刻む音で始まり、アコーディオンとクラリネットの珠玉の演奏が加わると一気にレトロ感あふれる風情を感じさせる。メロディーやリズム自体はシンプルだが、33秒あたりから徐々に楽器が増え、気付けばバイオリンなども聴こえてミステリアスな気品を生み出す。その曲調や音使いは決して和風ではない、むしろ洋風のミュゼット然としているが、不思議なほどに日本の昭和らしいノスタルジックな響きに満ちている。1分6~7秒で手早く綺麗に収束すると、次のループへと違和感なく繋がり、いつまでも聴いていられる居心地の良さを漂わせ続ける。なんとも惹かれる一曲である。
今年のトリは案内人が務めます。あなた様も良いお年を。