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隔週末の作曲家談議 vol.008:椎名豪

作曲家について語るコラムです。

vol.008で扱うのは椎名豪(しいな・ごう)氏。

代表作は「鉄拳」「テイルズ」「GOD EATER」など。

なお、記事に記載された内容はすべて2019年4月13日現在のものです。

まずは一曲。

www.youtube.com『Arisa (Anger of the Earth)』(鉄拳6 BLOODLINE REBELLION/AC/2008年)

鉄拳シリーズは複数の作曲家が互いに腕を競い合うかのごとく様々な楽曲を提供することで知られているが、並み居る良曲のなかでとりわけ強い存在感を放つのがこの曲である。鉄拳6(2007年)のバージョンアップ版として稼働開始した鉄拳6 BLOODLINE REBELLION」(2008年)の追加ステージ・Anger of the Earthにて流れる一曲で、架空言語とバイオリンのエキゾチックな融合を得意とする氏の作風が余すことなく発揮されている。中川奈美氏による幻想的な歌声に、重厚なエレキギターの音色と、限界を突き破って自由に暴れ回るバイオリンの音色が重なり合い、赤く染まった火山のステージにふさわしい情熱的な響きに満ちている。

椎名豪氏、1974年生まれ、埼玉県出身の作曲家。本名は同じ字だが豪の読みが「まさる」である。得意楽器はエレクトーン。1997年にナムコ(現バンダイナムコに入社し、作曲方法を一から学ぶ。翌年にはアーケードのハンマー叩きゲーム「ハンマーチャンプ」(1998年)で作曲家デビュー。続いて1999年にはナムコのフライトシューティングエースコンバット3 エレクトロスフィア」にて、同じくナムコに所属する先輩作曲家の大久保博氏や中西哲一氏、他数名とともに作曲を手がける。同作は従来のエスコンシリーズとはだいぶ路線が違う、サイエンス・フィクションの色合いを強く押し出した異色作となっていて、サウンドの方向性もロック系からアンビエントエレクトロニカ系に変更された。そうしたなかで、椎名氏は担当分は三曲のみだが、新人の底力を見せつけるような前衛的なサウンドを生み出すことに成功している。

www.youtube.com『Revelation』(エースコンバット3 エレクトロスフィア/PS/1999年)

MISSION37「MEMORY ERROR」におけるミッション曲として流れるこの曲は、イントロから不穏な空気感を漂わせ、不協和音を思わせる怪しげなピアノの音階が大胆に奏でられる。今なおファンの間で語り草となっている相棒キースの名言「挟まっちまった!」を聴くことができるのがこのミッションであり、非常に緊迫したシチュエーションを丸ごと体現したかのようなアヴァンギャルドな音使いが、衝撃的な台詞に負けず劣らず印象的である。時代を先取りした名作と称されることもある同作のフューチャリスティックでサイバーパンクな作風を見事に反映した、革新的な一曲である。

その後、アーケード用の早撃ちシューティング「クイック&クラッシュ」(1999年)やコンシューマー用の3Dドラマティックアクション風のクロノア2 ~世界が望んだ忘れもの~」(2001年)など、プラットフォームを問わずナムコ製のいくつかの作品を手がける。なかでも氏の初期の代表作として挙げられるのはノンストップ穴掘りアクションミスタードリラー(1999年)であり、アクションに落ち物パズルの要素を組み合わせた斬新なゲーム性が好評を博し、同作は縮小傾向にあったアーケードパズルゲームに追い風をもたらす人気作となった。その結果、PSやドリームキャストなどに次々と移植され、続編も登場してシリーズ化された。それに伴い、サウンド担当の氏も数々の新曲を書き下ろすことになり、同シリーズのファンシーな作風にあわせて、パズルゲームというジャンルにとらわれないバラエティ豊かな楽曲が揃っている。

www.youtube.com『Die Weißen Heizen』(ミスタードリラー ドリルランド/GC/2002年)

ゲーム画面を与えられなければよもやパズルゲームとは想像できないような、壮大かつ威圧感あふれるこの曲は、同作において、マンホール博士の逆襲というラストステージで流れるものである。コーラスとオーケストラを混ぜ合わせることでクラシックのような雰囲気を出しつつ、テクノを思わせる攻撃的なパーカッションや、ジャズやフュージョン系の即興風のトランペットをも取り入れ、ごった煮でありながらなぜか非常に統一感のあるサウンドを生み出している。題名はドイツ語でずばり「白い熱」「白熱」(実際には「die Weißglut」という言い方のほうがドイツ語では一般的であるそう)という意味だが、こうした曲名のセンスは、椎名氏が作曲家になる以前は医者を目指して一時期ドイツ語を勉強していたという逸話を思い起こさせる。

同時期に稼働開始した知的好奇心くすぐり系パズルゲームことばのパズル もじぴったん(2001年)にて、同じく当時ナムコに所属していた神前暁氏がメインで作曲するなか、椎名氏はドリラーのコラボステージ用の楽曲を提供する。また、ナムコ音楽ゲームである太鼓の達人シリーズにも参加することになり、家庭用の初代作太鼓の達人 タタコンでドドンがドン」(2002年)では同作の顔とも言えるボーカル入りのオープニング曲を手がける。太鼓の達人シリーズには以降も定期的にナムコオリジナル枠で楽曲を提供し続けることになる。2004年には鉄拳5にて初めて格闘ゲームサウンドを担当することになり、アップデート版のPSP移植にあたる「鉄拳 DARK RESURRECTION」(2006年)もあわせて手がける。鉄拳シリーズは4までは作曲家の数が五名以下だったが、5から大幅に増え、初参戦した氏を含め十七名体制になった。そうしたなかでも、氏が作曲した、バイオリンを主軸に据えたエスニックサウンドはいずれも強烈なインパクトを誇り、氏の鉄拳デビューを華やかに飾った。

2005年は氏にとって一つの節目とも捉えることのできる重要な一年である。後に大ヒットを飛ばしナムコを象徴する看板作品となるアイドルプロデュース体験ゲームTHE IDOLM@STER(2005年)が稼働を始めたのもこの年で、氏は同作のためにアイドルたちが歌うボーカル曲を書き下ろす。特にアイドル候補生のなかでも抜群の歌唱力を持つ如月千早の持ち歌である『蒼い鳥』は、千早のみならず他の子が歌った場合もキャラクターごとの個性が非常によく反映され、数あるアイマスの楽曲のなかでも現在に至るまで根強い人気を誇っている。また、この年のもう一つの大きな仕事は、それまで桜庭統氏と田村信二氏が専属で作曲していたテイルズシリーズの新作テイルズ オブ レジェンディア(2005年)にて、二人に代わって椎名氏が全曲単独で作曲を務めることになったことである。同作は氏にとって初めてのRPGでの作曲であり、コンポーザー以外にも開発スタッフが大きく入れ替わったことに伴い、シリーズのなかでもかなり毛色の違う仕上がりとなっている。それまで連綿と受け継がれてきたテイルズサウンドの雰囲気とはかなり異なる印象を与える同作のオーケストラサウンドは、一部新日本フィルハーモニー交響楽団による生演奏を取り入れた豪華なつくりとなっていて、日本語や英語の他に架空言語を用いた神秘的なボーカル曲も数多く収録されている。テイルズサウンドの新たな可能性を切り拓いた珠玉の名曲揃いである。

www.youtube.com『待ち合わせは噴水広場で』(テイルズ オブ レジェンディアPS2/2005年)

灯台の街ウェルテスは、シナリオ上幾度も訪れることになり、またメインシナリオと並行して展開するキャラクタークエストでも避けては通れない同作の一大拠点である。もともとは考古学者やトレジャーハンターたちが築いたキャンプ地のようなものが発展して誕生した街で、街の真ん中には大きな噴水広場がある。そうした活気あふれる街並みを表現するにあたって、主旋律には、バイオリンはバイオリンでもエレクトリックバイオリンと呼ばれる、バイオリン本来のアコースティックなサウンドをアンプで増幅させることでパフォーマンスに特化させた電気楽器を用いている。通常のバイオリンでは奏で切れない部分を力強く演奏することで、明るく楽しいピクニック気分を彩ってくれる一方で、もちろんアコースティックのバイオリンもしっかり伴奏として参加していて、そちらは縁の下の力持ちと言わんばかりに高速のパッセージを刻み続けている。アコースティック・エレクトリック双方の特徴を活かした音使いが印象的で、弦楽器の扱いに長ける氏の表現スタイルがぎゅっと凝縮された一曲である。

同作以降、氏の所属するナムコバンダイ経営統合し、新たにバンダイナムコゲームスの作曲家として再始動することになる。テイルズシリーズのマザーシップタイトルに再びメインコンポーザーとして参加するのは10年後のテイルズ オブ ゼスティリア(2015年)となるが、その間にもテイルズ オブ ザ ワールド レディアント マイソロジー2「バーサス」(いずれも2009年)といったエスコートタイトルでいくつかの作曲や編曲を手がける。その他にも、すでに作曲経験のある鉄拳シリーズや太鼓の達人シリーズ、アイマスシリーズなどで引き続き楽曲を提供し続ける。2010年には大きな期待を背負って世に送り出されたバンナムの新規IPのGOD EATERにて全曲を単独で作曲し、同作は音楽面で高く評価されることになる。その人気を裏付けるように、同作の挿入歌『神と人と Vocal Ver.』は、日本のメディアとして唯一Hollywood Music in Media Awards 2010にノミネートされる快挙を果たした。

2011年からゲームのみならずアニメの方面にも活動の幅を広げることになる。アニメ版「THE IDOLM@STER(2011年)では、新しいボーカル曲の作曲や既存曲のアレンジを手がける。ゴッドイーターのアニメーションを担当したufotableとも縁があり、同社のおくる短編アニメ映画「桜の温度」や「ギョ」(いずれも2011年)の劇伴を務める。また、ゼスティリアの発売に先駆けて放送されたスペシャルアニメ「テイルズ オブ ゼスティリア ~導師の夜明け~」(2014年)や待望のアニメ版「GOD EATER(2015年)など、ゲームの作曲を担ったタイトルのアニメ化には積極的に参加している。アニメがきっかけで舞台での劇伴に進出した経験もあり、十二支をテーマにしたバトルロイヤル「十二大戦」では、2017年にアニメの、2018年に舞台の劇伴作曲を務めた。ゲーム自体の作曲には携わっていなくても、Fate/stay nightから派生した「衛宮さんちの今日のごはん」や、スマホ向けMMORPGのアニメ化にあたる「叛逆性ミリオンアーサー」(いずれも2018年)などにも携わり、幅広いフィールドで作曲をおこなっている。

ゲームの話題に戻る。すこし遡って2011年には太鼓の達人の新筐体が登場し、翌年の2012年、椎名氏は同作用に新曲を書き下ろす。太鼓の達人11」(2008年)以来4年ぶりの参加で、比較的ボーカル曲を書くことが多い氏にしては珍しく、太鼓の達人3」(2002年)の『風雲!バチお先生』と同じインストゥルメンタル路線である。

www.youtube.com『迅風丸』(太鼓の達人/AC/2012年)

曲名から察せられる通り、この曲は和の風情が漂う一曲であるが、開始早々のイントロからしてハードなデジロックとしての側面を強調した音使いが特徴的である。重量感たっぷりなエレキギターの低音に、バイオリンの勢いあふれる速弾きが重なり合い、清涼感のある笛の音と交代交代でメロディーを奏でることで、激しく雅やかな雰囲気に満ちている。曲そのものが全編サビと言っても過言ではないほど終始盛り上がり続けているため、譜面を見ても最初から最後まで三連符が息継ぎをする間もなく押し寄せてくる仕上がりとなっていて、細かく変化するBPMに合わせてテンポをきっちり把握する必要がある。

2013年にはGOD EATER 2で安定したクオリティの良曲を生み出すと、翌年にはライトノベルを原作としたキャンパスライフアドベンチャー「ゴールデンタイム Vivid Memories」(2014年)にて三種類のエンディング曲を作曲する。同作のエンディング曲は、分岐によって作中のキャラの誰がボーカルを務めるか変化する仕組みとなっていて、どのキャラが歌っても違和感のない出来栄えになっているほか、一部のキャラには専用のアレンジが用意されているなど、とても丁寧につくられている。以降は基本的におなじみのシリーズ(テイルズ、アイマス、鉄拳、ゴッドイーター)での作曲をメインに手がけるが、2017年にはスマホ向けのオルタナティブRPG「レイヤードストーリーズ ゼロ」(サービス終了済み)で複数の作曲家とともにサウンドを担当する。また、同じ年に長らく勤めてきたバンナムを退社し、以降はフリーランスの作曲家として活動を続けることになる。直近の仕事として挙げられるGOD EATER 3」(2018年)をはじめ、フリーになってからも引き続きバンナムの作品に携わっていくようである。「GOD EATER 3」はシリーズ初の据置機限定の発売ということもあり、グラフィックが大幅に強化されているが、氏はそれに見合った大迫力のサウンドを生み出している。過去作のアレンジ曲もいくつか搭載されていて、音楽の完成度は相変わらず高い。

www.youtube.com『Nemesis』(GOD EATER 3/PS4/2018年)

灰域種ラーは、同名のエジプトの太陽神をモチーフにした厄災のアラガミである。両手に小型の太陽をつくり出し、灼熱のエネルギーを操って遠距離攻撃を仕掛けたり大爆発を起こしたりする強敵だが、その戦闘の際に流れるのがこの曲である。パワフルなエレキギターの伴奏の上を颯爽と走り抜ける、英語による伸び伸びとしたボーカルが印象的で、初代の『No Way Back』や2の『Wings of Tomorrow』の系譜を継ぐ血気盛んなロックナンバーである。火傷しそうなほどストレートに情熱的なメロディーラインは、火花散る乱戦を昂揚感たっぷりに盛り上げてくれる。

同じく2018年にはバンナムのドラマティック探索アクションRPG「CODE VEIN」が発売されるはずで、椎名氏が作曲を担当しているとのことだが、同作はさらなるクオリティの追求のために発売が延期され、2019年内に登場する予定である(※追記:記事執筆時点では発売前だったが、無事2019年内に発売された)。同作は文明が崩壊した後の、吸血鬼たちが蔓延る世界を舞台としたダークファンタジーであり、ゴッドイーターシリーズをはじめ、退廃的な作風に定評のある氏の腕の見せどころである。

バンナムを退社し、フリーの作曲家として椎名氏が今後どのような活躍をしていくのか、どのような世界観や音楽観の広がりを見せてくれるのか、大きく期待される。

 

 

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椎名さんのホームページは担当された作品が事細かに記載されていてとても助かります。今回はぱっと聴いて「椎名さんだ、間違いない!」と分かるような曲を中心に紹介しましたが、いろんなジャンルの曲を万遍なくつくっている印象を受けます。参考までに、今まで格納した椎名さんの楽曲をどうぞ。