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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を一日一曲を目安に紹介します。

隔週末の作曲家談議 vol.015:Austin Wintory

作曲家について語るコラムです。

vol.015で扱うのはAustin Wintory(オースティン・ウィントリー)氏。

代表作は「風ノ旅ビト」「The Banner Saga」「アサシンクリード」など。

なお、記事に記載されている内容はすべて2019年7月20日現在のものです。

まずは一曲。

www.youtube.com『Apotheosis』(風ノ旅ビトPS3/2012年)

氏の代表作にして、数々の賞を総なめした同作における最終ステージ・雪山で流れるのがこの曲である。進むことがままならぬくらい猛吹雪が吹き付けるこの豪雪地帯を、ときに不思議なほどに静かに、ときに荒れ狂うように激しく、メリハリ豊かな曲調で表現することにより、どこか奥ゆかしくもあり勇ましくもある希有な雰囲気を醸している。バイオリン、チェロ、フルート、セルパンなどの楽器が紡ぐ実り豊かなアンサンブルに、時折鐘のような音色が響き渡ると、その幻想的な音使いはさらに美しさに磨きをかけ、クライマックスに向けて最高純度の神秘を漂わせる。曲名の意味は「神格化」、まさにそのことば通りの超越的な神々しさを内包した一曲である。

Austin Wintory氏、1984年生まれ、アメリカ・デンバー出身の作曲家。10歳のときにピアノを習い始めるや否や、音楽の世界に魅了され、作曲家を志すようになる。10代後半には早くもユタ交響楽団を指揮し、一躍注目を浴びる。ニューヨーク大学と南カルフォルニア大学で作曲を専攻し、同じ時期に南カルフォルニア大学に在籍していたJenova Chen氏と知己になる。当時Chen氏はFlash用のインディーゲーム「flOw」(2006年)を開発中で、Chen氏の依頼でWintory氏は同作の作曲を担当することになり、本格的にゲーム音楽の作曲家としてデビューを果たす。同作は深海を舞台に、水中をたゆたうクリーチャーを操作して、餌となるプランクトンのような生き物を捕食するという内容で、ゲームジャンルはずばり「Zen(禅)」である。その徹底的にゲームらしからぬゲームデザインが特徴であるが、そうした雰囲気をいっそう助長しているのが、Wintory氏によるアンビエント調のミニマルミュージックの数々である。なお、同作以前にもElysian ProductionsのMMORPG「Ages of Athiria」(2002年)にてメインテーマを書き下ろしていたらしい。

www.youtube.com『Birth』(flOw/PC/2006年)

この曲はタイトル画面で流れるものだが、同作ではタイトル画面という概念すらあやふやで、ゲーム開始直後もシームレスに次の場面に移行するため、そこでも引き続きこの曲が流れ続ける。ゲームであることを意識させないようなこうしたつくりにあわせて、この曲も明確なメロディーラインを持たず、ただただ流れに身を任せたくなるような独特な浮遊感を漂わせている。一瞬にして深海に誘われるような、魔術的な没入感に満ちた一曲である。

それまで古典的なオーケストラミュージックに親しんできたWintory氏にとって、いろいろと型破りな同作での作曲経験は大きな転機となった。もともと関心のあった映画音楽の分野では、アメリカ映画「Johnny Montana」(2006年)やヨルダン映画「Captain Abu Raed」(2007年)などで劇伴を務めて順調にキャリアを積んでいったが、それと並行してゲーム音楽にも積極的に携わることとなる。PCゲームを中心にいくつかのタイトルを手がけるが、なかには1st Playable ProductionsによるDS用の教育ゲーム「My Virtual Tutor」(2009年)など、コンシューマー向けの作品でも作曲をおこなう。

この頃からChen氏率いるthatgamecompanyの新作として、後に氏(およびthatgamecompany、ひいてはPlaystation Network全体におけるインディーゲーム)の代表作となる風ノ旅ビト(2012年)のスコアに着手するようになる。3年がかりで完成させた同作のサウンドトラックは、ゲーム自体の評価の高さと相まって、瞬く間に多くのプレイヤーを虜にし、英国アカデミー賞ゲーム部門(BAFTA)の作曲賞と音響賞を受賞したほか、D.I.C.E.アワードとSpike Video Game Awards(現在のThe Game Awards)でもそれぞれ作曲賞を勝ち取った。また、ゲーム音楽史上初の快挙として、同作の音楽はグラミー賞にノミネートされ、これらの輝かしい功績から、Wintory氏は名実ともに世界的なゲーム音楽の作曲家として知られるようになる。

同時期に氏は初めてスマホ向けの音楽をつくることになり、PS3iOSにおける音源上の制約の違いを目の当たりにし、技術的な面でカルチャーショックを受ける。そうしたなかでも、Phosphor Gamesの3Dアクションアドベンチャー「Horn」(2012年)の音楽は、いずれも高いクオリティでまとまっていて、いかなる制約をも感じさせない豪華なフルオーケストラサウンドが堪能できる。同作はオーソドックスな中~近世ファンタジーの世界観であるため、使用される楽器もティン・ホイッスルやヴィオラ・ダ・ガンバなど、伝統的な民族楽器が中心となっている。

www.youtube.com『The Final Trial』(Horn/iOS・And/2012年)

終盤の戦闘曲として用いられるこの曲は、敵と対峙した瞬間に勢いたっぷりのストリングスのイントロが入ることで、たちまちプレイヤーの緊張を最高潮にまで引き上げてくれる一曲である。40秒を過ぎたあたりで奏でられる旋律は、同作のメインテーマや他の場面でもよく耳にするフレーズで、その後何度も力強く反復することで、じりじりと燃え上がるような盛り上がりを見せる。ときに戦闘曲とは思えぬほど閑寂な間を挿入することで、同作の淡くて美しいファンタジーの世界を見事に表現していて、曲の最後は静けさに包まれながら有終の美を飾る。

2013年にはPocketwatch Gamesの泥棒ステルスアクション「Monaco: What's Yours is Mine」にて、氏は全編ピアノソロによるラグタイムという他に類を見ないような特殊なゲーム音楽を書き下ろし、音楽的な引き出しの多さを内外に見せつける。また、同じ年にゲストコンポーザーとして音楽ゲーム「BeatBuddy: Tale of Guardians」「SoundDodger」「DropChord」(いずれも2013年)の三作品に参加し、基本的にそれまで単独でゲームを担当することが多かったが、複数の作曲家と共作することになる。このうち「BeatBuddy」はリズムにあわせてキャラの動きや仕掛けが連動するアクションアドベンチャーで、敵の配置からステージ設計まで、すべてがBGMに結び付いていると言っても過言ではない。

www.youtube.com『Stingin' Swing』(BeatBuddy: Tale of Guardians/PC/2013年)

Wintory氏の唯一の担当分であるこの曲は、気だるげな女性の歌声が印象的な一曲である。歌声だけ聴けばオペラ風であるが、刻まれるビートはダンスミュージックのようであり、サックスの扱い方はジャズっぽくもある、その捉えどころのない音楽性は、まさにリズムを主軸とした同作ならではの遊び心にあふれている。奇妙に入り組んだステージの、奇妙にカラフルでちょっぴりダークなグラフィックとあわせて、奇妙に癖になるような中毒性を誇る一曲である。

引き続き映画の方面でも活躍しつつ、2014年にはStoic StudioによるタクティクスRPG「The Banner Saga」の作曲を務める。同作はヴァイキング時代の北欧神話をモチーフに、キャラバンを率いてドレッジと呼ばれる敵と戦う戦記もので、一つ一つの選択、戦の勝敗、仲間の生き死にが、ストーリーに影響を与えていくことになる。厳寒の地を彩るにあたって、同作の音楽はスカンジナビア民族音楽にインスピレーションを受けてつくられていて、挿入されるボーカル曲にはアイスランド語が用いられるなど、徹底した雰囲気づくりを図っている。なお、同作はシリーズ化されているが、三部作ともすべてWintory氏が作曲している。

この時期、氏にとってとりわけ大きな仕事として挙げられるのは、Ubisoftのステルスアクションアサシン クリード シンジケート」(2015年)である。同作はシリーズのなかでも時系列順で一番新しい時代を舞台としていて、産業革命期のヴィクトリア朝におけるロンドンを、暗殺者であり裏社会のギャングの頭である双子の姉弟の立場から駆け回ることになる。シリーズ初となるダブル主人公制や、近代化に伴う剣戟アクションの廃止(ケインソード=仕込み杖などは存在する)、移動手段の刷新など、同作では様々な野心的な試みが詰め込まれていて、Wintory氏の音楽もまた、その時代のロンドンの表も裏も丸ごとすべて表現したような意欲的な作風となっている。

www.youtube.com『Underground』(アサシン クリード シンジケート/PS4・XOne/2015年)

同作のエンディングで流れるこの曲は、光と影に大きく二分された当時のロンドンの空気感をそのまま再現したような一曲である。スリーピースバンドのTripodにより、イギリス訛り(バンドの出身地がオーストラリアなので厳密にはオージー訛りか)の英語で歌い上げられる叙情的なボーカルは、ピアノの素朴な伴奏と相まって、やるせなくなるほど切なくて悲しい雰囲気を漂わせている。そうでありながら、たくましく繰り返されるサビのリフレインは、それでもなおふてぶてしく生き続けるロンドンの人々の姿をありありと思い起こさせるような、芯の強さに満ちている。

その後、Wintory氏は「風ノ旅ビト」のアートデザイナーであるMatt Nava氏の誘いで、2016年には同じくNava氏がディレクターを務めるダイビングアドベンチャー「ABZÛ」の作曲を務める。同作の開発元であるNava氏率いるGiant Squidが設立される前から、Wintory氏は同作の構想を聞かされていて、深海を探索するというコンセプトにあわせて、以前担当した「flOw」と似て非なる雄大なヒーリングサウンドを生み出すことに成功した。翌年には「Monaco」でおなじみのPocketwatch Gamesの新作としてロシア革命を題材としたリアルタイムストラテジー「Tooth and Tail」(2017年)サウンドを担当し、同作ではロシアの民族楽器を用いて、演奏者たちにはさながら酔っぱらかったかのような調子で弾いてもらう、という実験的な挑戦をやってのける。

シカゴのFifth House EnsembleやWest Michigan Symphony、さらには氏の地元に根差すコロラド交響楽団などでの公演活動をおこなう傍ら、氏は再びゲーム音楽で賞を受賞することになる。先に触れた「The Banner Saga」の完結作である「The Banner Saga 3」(2018年)にて、その主題歌が9th Hollywood Music in Media AwardsのVideo GameにおけるOriginal Song部門で見事優勝する。ちなみに別部門でも氏が音楽を担当した探索パズルアドベンチャー「Pode」(2018年)がノミネートされていて、欧米のゲーム音楽界での氏の影響力の強さが窺える。

www.youtube.com『Only we few remember it now』(The Banner Saga 3/PC・PS4・NS・XOne/2018年)

くだんの主題歌であるこの曲は、三部作の最後、すなわちエンディングを飾る一曲である。デンマークフェロー諸島出身のボーカリストEivør氏による、悠久の時を感じさせる甘美な歌声は、ひたすらエスニックでエキゾチックな情緒を漂わせ、歌声に負けず劣らずの迫力を有するオーケストラの伴奏が、纏わりつくような霊妙さと妖艶さを生み出す。ここに至るまでのストーリー展開と相まって、壮大なサーガを締め括るにふさわしい一曲である。

氏は欧米を中心に活躍していて、日本産のゲームには関わっていないため、こと日本では耳にする機会が限られているかもしれないが、活動を始めて以来、凄まじい勢いで才能を開花させていった氏と氏の音楽は、国境を越えた普遍的な魅力にあふれている。今年中のリリースを予定しているGiant Squidの新作アクションアドベンチャー「The Pathless」でも、引き続き氏が創造する世界観に期待が寄せられる。これからも氏の快進撃に目が離せない。

 

 

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良い言い回しかは分かりませんが、雰囲気づくりの天才、というイメージです。以下、参考までに今まで格納してきたWintoryさんの楽曲をどうぞ。