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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1490 『ネームエントリー「笛ふきじいさんの思い出」』(多和田吏/妖精物語ロッド・ランド/AC)

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ジャレコがおくるアクション・ロッドランドより、

多和田吏作曲、『ネームエントリー「笛ふきじいさんの思い出」』。

ネームエントリーの際に流れます。

ジャレコ製のアーケード作品のうち、ファンシーでメルヘンチックな世界観を特徴とする本作。妖精の住む世界を舞台に、魔物にさらわれてしまった母親を救うべく、妖精の兄妹・タムとリットが魔法の杖と虹の靴を携えてマブーツの塔に挑むことになる。通常プレイで遊べる表30面+特定の操作で突入できる裏30面の計60面構成、2人同時プレイに対応した固定画面アクションで、画面内の敵をすべて倒すと次のステージに進める。操作体系は4方向レバー、攻撃ボタン、梯子ボタンから成り、攻撃魔法で敵の動きを封じれば杖で叩きつけて追い打ちを加えることができる。叩きつけで倒した敵からはミサイルやボンバーなどのアイテムが入手でき、これらのアイテムで敵を倒すと高得点のフルーツパネルを落とす。梯子ボタンは任意の場所に梯子をかけるためのもので、同じ画面上に一つしか生成できないものの、上段や下段に素早く移動して敵を翻弄したり、有利な位置取りを得たりするのに重宝する。グラフィックは徹底してカラフルでカジュアルだが、難易度設計やアクションのつくり込み、スコア稼ぎ要素が充実していて、特に所定のアイテムをすべて回収すると発生する時限のボーナスタイムではスコアに加えて残機アップも狙うことができる。総じて可愛らしさとやり込み甲斐を兼ね備えた仕上がりとなっている。後にファミコンゲームボーイに移植されたほか、アーケードアーカイブスの一環でスイッチやPS4向けに配信された。

本作の音楽を担当するのは多和田吏氏。当時ジャレコに所属していた作曲家である。80年代後半から長く活動している氏にとって本作は比較的初期の担当作品であると言える。本作の音楽は明るく弾力があって幻想的な作風が目立ち、曰く「色彩感を大切にしたメロディ&ハーモニーによって、ファンタジックな交響詩風に」仕上げたとのことである。吹奏楽器の瑞々しい音色や管弦楽器の分厚い音色をうまく組み合わせて、行進曲やワルツ風の愉快なものから意外と緊迫感のある戦闘曲まで各種取り揃えられている。サウンドトラックについては、稼働後まもなく発売されたアレンジ入りのサイトロンレーベル版が存在するほか、ジャレコのアーケード作品群を集めたArcade Disc In JALECOシリーズのなかに収録されていたり、本作単体でダウンロード配信されたりしている。

ネームエントリーの際に流れるのがこの曲である。名前とともにスコアを登録するにあたって、60秒間でたっぷり8文字分、アルファベットだけでなくカタカナも入力することができる。そうしたなか、手始めにFM音源ならではの非常に象徴的な、良い意味で過剰に金属質なハープシコード風のイントロが朗々と響き渡る。5秒から笛の主旋律が加わると、その音色はとても柔らかく牧歌的な雰囲気を帯びている。耳の奥にキンと響いてくる伴奏とは対照的に、主旋律はそよ風のようにそっと通り過ぎていくような感触があり、双方を組み合わせることで派手だけど安らかな聴き心地を生み出している。そのおかげで、1ループ20秒強ほどの短さで早くも同じフレーズを繰り返すことになっても、不思議と聴き飽きない神秘的な印象を与え続ける。魔法にかけられるような特別な気分に浸れる一曲である。

曲名は初出のサイトロン版にあわせてますが、クラリスディスク版だと『ネームエントリー「笛吹きじいさんの思い出」』で微妙に漢字の表記が違います。