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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1488 『スタッフロール』(日比野則彦・村岡一樹/メタルギア ゴーストバベル/GBC)

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コナミがおくるタクティカルエスピオナージアクション・メタルギアより、

日比野則彦・村岡一樹作曲、ゴーストバベルの『スタッフロール』(仮称)。

スタッフロールで流れます。

ステルスを軸に据えたメタルギアシリーズのうち、ゲームボーイカラー専用の作品として登場した本作。21世紀初頭、独裁軍事集団・ジレフにより合衆国の新型核搭載二足歩行戦車メタルギアが強奪されたことを受け、潜入工作のエキスパートであるソリッド・スネークが敵本拠の武装要塞に乗り込むことになる。全13面から成るステージクリア型アクションで、2Dドット絵のもとで鮮明で緻密に描かれるグラフィックと、携帯機になってもステルスの醍醐味とアクション性をしっかり押さえたシステムが特徴である。移動に関する操作は8方向で、立ちとホフク状態を切り替えられるほか、壁に張り付けば画面をスクロールしてすこし先を覗いたり、壁をノックして敵の注意を引いたり、張り付いたまま壁沿いの狭い通路を通り抜けられたりすることができる。これに加えてパンチや武器での攻撃、装備の切替、そして無線機の操作も可能で、一通り潜入工作に必要な動作が取れるようコンパクトかつ入念に設計されている。メインのストーリーモード以外にも、クリア済みのステージを再攻略するステージセレクト、180種に及ぶ様々な課題をこなしていくVRレーニング、通信ケーブルを介した対人戦をおこなえるVSバトルが収録されている。総じて携帯機らしい手軽さを備えつつ、システム面もボリュームも高い完成度で充実した仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは日比野則彦氏と村岡一樹氏。いずれも当時コナミに所属していた作曲家である。両名ともメタルギアシリーズ、とりわけメタルギアソリッドシリーズとは関わりが深く、ナンバリング作品に多く携わっている。なかでも村岡氏は初代からサウンドディレクターを担当している。日比野氏は本作がシリーズ初参戦となるが、以降連綿と携わるようになる。本作ではゲーム全体のつくり込みに見合うように音楽にも相応に力が入っていて、曲数の多さや音色の奥深さが目を引く。GB音源を活かした渋さと緊張感を兼ね備えた楽曲が揃っていて、コクがあると言える響きを纏っている。サンドトラックは未発売のため、曲名は便宜上の仮称とする。

スタッフロールで流れるのがこの曲である。モールス信号を想起させるサイン波の音で始まり、5秒からおもむろに味わいのある旋律が紡ぎ出されると、高音と低音が見事に絡み合って深甚な響きを生み出す。まるで映画のテーマ曲を彷彿させる勇ましさがあるが、華々しい英雄譚とは違ってあくまで翳のある雰囲気を帯びている。曲が進むにつれて主旋律の音域が上がっていき、36秒以降は特にそうした傾向がみられる。52秒でリバースシンバル風のノイズが鳴ると、それを合図にサイン波の伴奏は途絶え、低音域に移って矩形波が目立つようになる。作中ではちょうどこのあたりで、淡々と車を走らせる映像から黒バックのスタッフリストへ切り替わる。これに伴ってすこし急かされるような印象を纏うようになり、1分2秒からいよいよ本格的に盛り上がっていく。それでもまだすべてを出し切っているわけではなく、1分41秒から高音を交えて粘り強く反復するくだりは心底聴き惚れるような妙味がある。さらに2分過ぎには新たな展開に突入し、短く区切った音色をリズミカルに鳴らしてスリリングなメリハリをみせる。最終的には余韻を残しつつ静かにフェードアウトする。これまでの軌跡を追体験するように最初から最後までじっくり聴かせてくれる一曲である。

この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。面白い小説を読み終えたときの読後感に似た、とても満ち足りた聴き応えがありますね。