永田権太作曲・岩田恭明編曲、BotWの『リトの村(昼)』。昼のリトの村で流れます。
ゼルダ史上初のオープンエアー作品として、任天堂によるWiiU最後かつスイッチ最初のタイトルである本作。ハイラル王国が滅亡した大厄災から百年、地下遺跡で目覚めた記憶喪失の青年・リンクは、目覚めを促す謎の声に導かれて旅立つことになる。従来のゼルダのアタリマエを徹底的に再構築した本作では、現実の京都市に匹敵するほどの面積を誇る見渡す限りのフィールドによる、既存の枠にとらわれない自由で広大な冒険が待ち受ける。戦闘や騎馬はもちろん、料理やグライダー(パラセール)での飛行など、様々な楽しみが用意されていて、シリーズおなじみの謎解きのギミックを随所に織り込みながら、ゼルダ姫を中心とするガノン討伐の物語もしっかりと描き、どれをとっても新時代の幕開けを飾るのに申し分のない完成度となっている。
本作の音楽を担当するのは岩田恭明氏、片岡真央氏、若井淑氏の三名。一部ジングルの作曲やサウンドデザイン等で阿部壮志氏、田村理遊氏、安田拓郎氏も参加している。岩田氏は当時、他は現在も任天堂に所属する作曲家である。ほとんどのメンバーがゼルダシリーズ初参戦であるなかで、シリーズでの作曲経験が長い若井氏はサウンドディレクターを務めている(片岡氏は大地の汽笛で旧姓の富永名義で作曲していたことがある)。オープンエアーの空気感を構成する重要な要素として、本作におけるサウンドは、環境音を主軸に、プレイヤーの行動や時間帯に応じて、それに寄り添う形でインタラクティブに音楽が流れる仕組みになっている。また、基本的にはオーケストラを用いつつも、篠笛や二胡などの東洋の楽器も取り入れることで、従来にない新たな息吹を感じさせる楽曲が揃っている。サウンドトラックはDLCの追加曲や効果音、予告で用いられた未使用曲なども含めて5枚組に収録されている。
風のタクト以来、シリーズに久々に登場したリト族が暮らすリトの村で流れるこの曲は、まさしく風のタクトにおける彼らの住処・竜の島で流れる同名の楽曲『竜の島』を原曲とする淑やかなアレンジである。天高くそびえる巨岩に築かれたこの村で暮らす、鳥の姿をしたリト族の、高所への本能的な憧憬を体現するかのように響く、透明感あふれる音使いが特徴である。静かなピアノの音色によって彩られるイントロが、次いでやってくるクラリネットの旋律ともども、思わず溜め息を漏らしそうになるような安堵をもたらす。38秒あたりから響く、バラライカ(ロシアの伝統的な撥弦楽器)と思しき細やかな音色が、さらに奥深い郷愁を漂わせ、メリハリ豊かなストリングスと相まって穏やかな癒しを生み出す。落ち着いた曲調のなかに息をのむほどの美しさをふんだんに詰め込んだ一曲である。
夜のほうは音程を下げてテンポを遅くして、アコギとピアノ成分を強調した、儚くも美しい仕上がりになっています。『リトの村(夜)』(上)ならびに原曲の『竜の島』(下)、あわせてどうぞ。