いつもとはすこし趣向を変えて、作曲家について語ります。
vol.001で扱うのは景山将太(かげやま・しょうた)氏。
代表作は「ルミナスアーク」「ポケモン」「黒騎士と白の魔王」など。
なお、記事に記載された内容はすべて2019年1月5日現在のものです。
まずは一曲。
www.youtube.com『天翔ける夢』(ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア/3DS/2014年)
ORASの「天翔ける夢」は僕にとっても特にお気に入りの一曲です。僕が手がけてきたポケモン音楽の中でもきっと代表曲のひとつだろうなぁ。初めておおぞらを飛んだときの胸の高鳴り、冒険の苦難を超えて、これからの旅は希望に満ち溢れてる、というストーリーを音楽にこめました。
— 景山 将太/Shota Kageyama (@shotakageyama) November 15, 2015
冒険の苦難と希望、なので、「天翔ける夢」には、少し切ないコード進行が隠されているんですね。でも最後は希望に満ち溢れた展開になっています。
— 景山 将太/Shota Kageyama (@shotakageyama) November 15, 2015
僕がポケモン音楽を作る中で得た、楽典とか理論ではない、ストーリーや感情を音に落とし込む技術が詰まった、集大成的な曲です。
景山氏本人が特に思い入れの深い曲として挙げているこの曲は、ポケモンORASにて初めて実装された「おおぞらをとぶ」の際に流れるフィールド曲。それまでのポケモンシリーズでは、「そらをとぶ」といえば一度行ったことのある街に移動できる、便利な瞬間移動コマンドに過ぎなかったが、「おおぞらをとぶ」により、伝説のポケモン・ラティオスあるいはラティアスの背に乗って、プレイヤーの意のままに大空を自由に飛び回ることが可能となった。冒険の舞台が大空にまで広がったことで、ますます旅の楽しみが増えたことを象徴するかのごとく、非常に開放感あふれるオーケストラ調の一曲となっている。苦難を越えて、とある通り、底抜けに明るいわけではなく、途中、すこしの哀愁が漂っている点は、いっそうストーリー性豊かに冒険心をくすぐってくれる。
景山将太氏、1982年生まれ、兵庫県出身の作曲家。得意楽器はピアノで、現在バイオリンも習得中。光田康典氏率いるプロキオン・スタジオに所属し、2007年にてイメージエポック発の「ルミナスアーク」で作曲家デビュー。
www.youtube.com『Theme of Luminous Arc』(ルミナスアーク/NDS/2007年)
「ルミナスアーク」は景山氏のデビュー作であると同時に、開発元のイメージエポックのデビュー作でもある。オーソドックスなファンタジーSRPGであり、ポップでキャッチーなメロディーラインを得意とする景山氏のスタイルが存分に発揮されている。
その後、ゲームフリークに移籍。「ハートゴールド・ソウルシルバー」(2009年)から「オメガルビー・アルファサファイア」(2014年)までのポケモンシリーズ本編で作曲と編曲を手がける。「ブラック・ホワイト」(2010年)ではサウンドリーダーを務め、同作では特に終盤にかけてかつてないほどシリアスなシナリオ展開となるが、そうした作風にも柔軟に対応したシャープでドラマチックなサウンドが好評を博す。
www.youtube.com『ENDING ~それぞれの未来へ~』(ポケットモンスター ブラック・ホワイト/NDS/2010年)
この曲はエンディングのスタッフロールで流れるものだが、従来のシリーズではスタッフロールは冒険の旅を労うようなゆったりとした曲調が多く、一際異彩を放っている。それまでのお約束であった、ラスボス=チャンピオンという図式を崩し、殿堂入り=クリアという流れに逆らった挑戦的なシナリオ展開を締め括るにふさわしい、勇ましさ全開の一曲である。
「X・Y」(2013年)ではサウンドディレクターを務め、サウンドを総括する立場にいながら、自身の担当曲は量・質ともに高い水準で保つ。同年にゲームフリークを退社するが、翌年の「オメガルビー・アルファサファイア」までシリーズ本編に携わる。独立後は個人の音楽レーベル・SPICA MUSICAを立ち上げ、既存のフィールドにとらわれることなく、様々な分野で活躍することに。
ゲーム以外での主な活動は、アニメの「ポケットモンスター ジ・オリジン」(2013年)にて劇伴を担当した他、Hiro師匠およびとものかつみ氏とともに即興作曲演奏ユニット・H.K.S(ハイパー・カッコイイ・システム)を組んでライブ活動をおこなっている。また、元宝塚歌劇団の男役で現役アイドルの彩羽真矢氏への楽曲提供もしている。
独立後、「Doki!Doki!デブリーズパズル」(2014年)や「仮面の勇者 ~心の迷宮RPG~」(2015年)といったスマホ向けタイトルで作曲する機会が増える。「ポッ拳 POKKÉN TOURNAMENT」(2015年)や「ポケモンコマスター」(2016年)など、ポケモンシリーズのスピンオフで作曲することも。また、オトメイト発の「ノルン+ノネット ラストイーラ」(2015年)や「鏡界の白雪」(2016年)などの女性向け恋愛アドベンチャーの作曲にも携わり、得意楽器のピアノを活かしたメロディアスなサウンドを提供した。
soundcloud.com『涙雨 - ウレイ -』(鏡界の白雪/PSV/2016年)
「鏡界の白雪」は公式ジャンル名に「狂気の世界に誘う恋愛ADV」とある通り、ダークファンタジー的要素を取り入れた作品である。景山氏は今までRPGのなかでも王道な冒険譚を担当することがほとんどだったが、同作では雰囲気をがらりと変えてピアノ主体のインストゥルメンタルを数多く収録している。いずれの楽曲もときに切なく、ときに温もりを感じられるような情緒豊かな仕上がりとなっている。
ダークファンタジーといえば、グラニのスマホ向けRPG「黒騎士と白の魔王」(2017年)においても、景山氏は実に100曲近い曲を作曲している。同作の中世風の世界観にあわせて、楽曲の大半はドヴォルザークホールで収録したチェコフィルの生演奏を用いているなど、音楽に対する強いこだわりが窺える。また、同作では神話などをモチーフにした降臨クエストなるものが定期的に開催され、なかには和ロックのエッセンスを取り入れた楽曲もある。
www.youtube.com『Advent~Oriental~』(黒騎士と白の魔王/iOS・And/2017年)
「黄泉へ誘う大和の神々」との戦闘において流れるこの曲は、三味線や尺八といった和楽器に、エレキギターやストリングスを組み合わせることで、和洋折衷の昂揚感を見事に生み出している。降臨クエストは全体的に難易度が高めに設定されているため、この曲は強敵に立ち向かうスリリングなシチュエーションによくマッチしている。
景山氏の直近の担当作として挙げられるのは、「ポケットモンスター Let's Go! ピカチュウ・イーブイ」(2018年)。リメイク元となる「ポケットモンスター ピカチュウ」(1998年)では増田順一氏が作曲し、景山氏はこれらを現代風にアレンジしたうえで、同作用にいくつか新曲を書き下ろした。また、「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」(2018年)でも編曲に参加していて、セルフアレンジ含め5曲提供した。
www.youtube.com『ヨッシー New アイランド:メインテーマ』(大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL/NS/2018年)
この曲は、ヨッシーシリーズ特有のほんわかした雰囲気に、アップテンポなアレンジを施して賑やかさを加え、大乱闘らしいお祭り気分に仕上げた一曲である。景山氏はスマブラ初参戦となる「大乱闘スマッシュブラザーズX」(2008年)においても、ヨッシーアイランドの『アスレチック』をアレンジしているなど、ヨッシーシリーズのサウンドに関心を寄せているようである。
景山氏は2017年にはデビューから10周年を迎え、ゲーム音楽界を中心に今後のさらなる活躍が期待される。
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思ったより長くなりましたが以上です。書式に関してはこれから検討します。参考までに、今まで格納した景山さんの楽曲をどうぞ。