作曲家について語るコラムです。
vol.021で扱うのは河本圭代(かわもと・たまよ)氏。
TAMAYO(たまよ)名義などでも知られ、
なお、記事に記載された内容はすべて2019年10月12日現在のものです。
まずは一曲。
www.youtube.com『.BLUE -地球に棲む日-』(レイクライシス/PS/2000年)
レイ三部作のなかでもとりわけ曲名や曲調、曲尺などからその特殊な音楽性が印象的な「レイクライシス」より、コンシューマー機に移植された際に追加されたスペシャルモードの道中で流れるのがこの曲である。アーケード版ですでに15分にも及ぶ大曲が用意されていたなか、この曲はそれをゆうに上回る23分という驚異的な長さであり、基本的に無機質でありながら、ときどきふとした瞬間に凄まじく爽やかな開放感を漂わせる。全8面から成るスペシャルモードのうち、ラスボス戦を除きこの曲が途切れることなく流れ続けることで、聴けば聴くほど没入感と臨場感が高まっていき、ただ長いだけに留まらず、一切飽きが来ないような隙のない緻密さが何よりの魅力である。
河本圭代氏、生年不明(活動開始時期から逆算すると1960年代生まれか)、兵庫県出身の作曲家。得意楽器はキーボード。大学卒業後、創業したばかりのカプコンに入社、最古参の森安也子氏に続き二番目のサウンドスタッフとして初期のアーケード作品を支える。デビュー作は森氏と共同で手がけた横スクロールアクション「ソンソン」(1984年)で、同じ年に早くも単独で固定画面アクション「ひげ丸」を担当する。翌年にはカプコン初期を代表するヒット作であるアクションシューティング「戦場の狼」(1985年)の音楽を手がけ、硬派な作風に似合った硬派なサウンドを生み出す。
www.youtube.com『BGM1』(戦場の狼/AC/1985年)
同作は全8面の無限ループとなっているが、そのうち奇数ステージで流れるのがこの曲である。孤高の軍人・スーパージョーがマシンガンと手榴弾を手に単独で敵地へと乗り込む、そのひたすらにストイックな射撃戦を、FM音源(ちなみにカプコン製のアーケード作品でFM音源が採用されたのは本作が初めてである)による心地良いリズムとビートが彩ってくれる。その独特なノリの良さは、さながら軍の行進曲のような印象を与え、前へ前へと突き進みながら数多の敵を一掃するスーパージョーの雄姿を勇ましさたっぷりに表現している。
同じく1985年には、河本氏の担当ではないものの森氏が音楽を手がけた横スクロールアクション「魔界村」が、その圧倒的な高難度で一世を風靡する。効果音の制作はSNKから移籍したての藤田晴美氏がおこなっていて、森氏、藤田氏、河本氏が要となって黎明期のカプコンサウンドを支える。なかでも縦スクロールシューティング「エグゼドエグゼス」、横スクロールシューティング「セクションZ」(ともに1985年)、縦横両スクロールシューティング「アレスの翼」(1986年)など、特にシューティングを手がけることが多かった。アクションの分野で特筆すべきは、森氏に代わり作曲を担当した「大魔界村」(1988年)で、森氏の原曲を活かしつつ、新たな魔界村サウンドを開拓した。
www.youtube.com『2nd BGM』(大魔界村/AC/1988年)
2面の腐食した村で流れるのがこの曲である。おどろおどろしげで惨憺たる村の様子とは裏腹に、奇妙なほどに飄々とした旋律が印象的で、それでいてやはりどこか翳のある独特な不気味さが潜んでいる。明るいのに暗い、そのアンビバレントな曲調は、聴けば聴くほど虜になるような狂気的な中毒性があり、非常に小気味よく愉快な一曲に仕上がっている。
河村氏が担当するのはアーケード作品の作曲が中心だったが、なかには映画原作のコマンド選択式アドベンチャー「マルサの女」(1989年)のようなファミコン向けの作品も担当した。民谷淳子氏や松前真奈美氏らも加わりカプコンサウンドチームが徐々に充実してくると、1990年頃にはカプコンを離れ、タイトーのサウンドチーム・ZUNTATAに移って新たなキャリアを歩むこととなる。
カプコン時代の最後のほうでクイズゲームを担当したためか、タイトー移籍後すぐに任されたのは「クイズH.Q.」(1990年)や「ゆうゆのクイズでGO!GO!」(1991年)などといったクイズゲームだった。その後、レースゲーム「ヴァーテクサー」やアクションRPG「幻蒼大陸オーレリア」(ともに1993年、後者はアーケードではなくPCエンジン向けの作品)など、順調にジャンルの幅を増やしていき、1994年には氏の代表作となるレイシリーズの第1作にあたる「レイフォース」が登場する。同作はシンプルながらも奥深いゲームシステムに加え、ハードSFの世界観を隅々まで表現し切った氏の音楽が極めて高い評価を得ることになり、続編の「レイストーム」(1996年)および「レイクライシス」(1998年)でも引き続き作曲を手がける。
www.nicovideo.jp『SLAUGHTER HOUR』(レイストーム/AC/1996年)
※他に動画が見つからなかったので映像はアイマスMADです
全8面中の7面「JUDA CENTRAL SYSTEM SECILIA」道中で流れるのがこの曲である。セシリア星の中枢に踏み込むことになるラス前のステージということで、刻一刻とクライマックスの機運が高まるのにあわせ、この曲も静かに内なる情熱を蓄えていく。その旋律は爽やかだが儚げでもあり、幾度となくフレーズを繰り返すことでじりじりと焦らし、緊張感と切迫感を煽る。曲名は直訳すると「虐殺時間」とだいぶ物騒だが、破壊と殺戮がもたらす紙一重の清しさと虚しさをひとまとめに表現した一曲となっている。
レイ三部作のCS移植や時代の流れでアーケードだけでなく家庭用ハードで作曲する機会が増えると、PS向け3Dシューティング「ガメラ2000」(1997年)やPS2向けラクガキRPG「ガラクタ名作劇場 ラクガキ王国」(2002年)のほか、同じくPS2向けの作品でアクション「武刃街」(2003年)なども手がける。タイトー製の作品以外にも、エニックスのアドベンチャー「the FEAR」やカプコンのアクションRPG「マキシモ」(ともに2001年)の作曲を一部担当することもあり、さらには怪奇ホラー映画「押切 OSHIKIRI」(2000年)の劇伴作曲にも携わる。これらの時期と前後して河本氏はタイトーを退社、独立してフリーランスとなる。
フリーになってからは活動のフィールドをゲーム音楽に限定することなく活躍する。2004年にレイ三部作のサウンドを結集したCD-BOX「Ray’z PREMIUM BOX -BEYOND-」が登場すると、レコーディングに際して河本氏はゲストとして元FILTRIKE(インディーズバンド)のボーカリスト・Cyua氏を起用、これをきっかけに、後にCyua氏とともにトライバルテクノユニット・BETTA FLASH(ベタ・フラッシュ)を結成することになる。初パフォーマンスは2006年10月のことであり、翌年7月には早くもワンマンライブを成功させるなど、華々しいデビューを果たす。同年10月にはファーストシングル「Erinyes」を発表、ユニットとしての活動を本格的に始動させる。
2000年代中頃まではゲーム音楽で目立った担当作品は見受けられないが、2007年にテーブルトークRPG原作のテレビアニメ「ナイトウィザード The ANIMATION」にて、主題歌および劇伴を手がけると、さらにそのゲーム化作品にあたる「ナイトウィザード The VIDEO GAME 〜Denial of the World〜」(2008年)でも作曲する。また、同じ年に久々にシューティングゲームとして複数の作曲家と共同で「サンダーフォースVI」(2008年)も手がけ、開発経緯からして問題点が見え隠れする同作において、音楽面もミスマッチだったり統一性に欠けたりしてあまり表現が芳しくないながらも、単体で見れば河本氏の担当分は相変わらずのクオリティが保たれている。
www.youtube.com『EVER BLUE』(サンダーフォースVI/PS2/2008年)
ステージ3の前半で流れるのがこの曲である。3面までは任意の順番で攻略できるため、場合によっては最初に攻略する可能性もあるが、この大洋戦線は、惑星全土が水に覆われた清涼感あふれるステージである。そこで流れるこの曲は、どこまでも青く澄み渡る空と海を、軽やかで爽やかなテクノサウンドで表現していて、非常に伸び伸びとした開放感にあふれている。それまでのシリーズのハードロック路線とは異なるものの、こざっぱりとした雰囲気をよく捉えた一曲である。
同じ年にBETTA FLASHとして、ユニット名をそのまま冠した初のアルバム「BETTA FLASH」を発表、翌年には同人ゲーム原作のDS向けサスペンスアドベンチャー「ひぐらしのなく頃に絆」にて、四部作のなかの「第三巻・螺」(2009年)の主題歌を手がけるなど、ユニットとしての活躍の幅を順調に広げていく。特に2017年以降は毎年のように東京ゲーム音楽ショーに参加し、新譜を限定頒布するなど、精力的に活動している。
2012年にはZUNTATAの結成25周年を記念したアルバム「COZMO ~ZUNTATA 25th Anniversary~」が登場し、河本氏も元メンバーとして参加、BETTA FLASH名義でディスク1の1曲目を飾る。ゲーム音楽を作曲する機会は徐々に減っていくものの、アプリゲームとしてエイリムのドットRPG「ブレイブ フロンティア2」(2018年、アップデート等の新規更新が停止したため実質サービス終了済み)にて、豪華作曲陣の一員として名を連ねる。
www.youtube.com『煉氷姫ルネ』(ブレイブ フロンティア2/iOS・And/2018年)
主人公たちが暮らすセルタビアを襲撃した謎の軍勢、通称七魔将の一角を担うルネとの戦闘で流れるのがこの曲である。同じく七魔将である姉のヒルダ戦も河本氏が作曲していて、いずれもCyua氏によるクールなボーカルが映えるスタイリッシュな戦闘曲となっている。氷を操るというルネの能力を表現すべく、ピアノの冷たく尖った音色が、エッジの効いたギターや流麗なストリングスと相まって、過激なほどに冷徹な印象を与え、烈火のごとく情熱的でありながら徹底して冷淡な空気感を漂わせる。相反するはずの熱さと冷たさが共存する一曲である。
直近の担当作品として挙げられるのは、ゲームミュージックのレジェンドを集結させるというコンセプトで、あえて新作のリズムゲームを音源の制約が強いレトロハードで発売するという斬新な試みをとったコロンバスサークルのメガドライブ用ソフト「16ビットリズムランド」(2019年)であり、ハードにあわせて慣れ親しんだFM音源で楽曲を提供している。
カプコンのアルフ=ライラ時代からタイトーのZUNTATA時代、フリーになってからはCyua氏とともにBETTA FLASHへと、そのキャリアの長さと魅惑のメロディーラインで人心を掌握してきた河本氏だが、さらに今後も、移ろいゆく時代にあわせて最先端の音楽づくりに挑戦し続けることに大きな期待が寄せられる。
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最初の曲を聴いているうちに読み終わりそうな分量ですがご愛嬌。TAMAYOさんの曲は、なんだかずっと聴いていたいような心地良さがあって好きです。参考までに、今まで格納してきたTAMAYOさんの楽曲をどうぞ(意外にすくないです)。