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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1866 『The Longhouse』(Inon Zur/Rise of the Ronin/PS5)

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コーエーテクモがおくるオープンワールドアクションRPG・ライズオブローニンより、

Inon Zur作曲、『The Longhouse』。長屋で流れます。

仁王で知られるコーエーテクモのTeam NINJAブランドによる新作として登場した本作。幕末の激動期を舞台に、幕府に対抗すべく秘密裏に育てられた二人一組の刺客・隠し刀である主人公は、任務で片割れと離れ離れになり、さらに里を失ったことを契機に、名もなき浪人として旅立つことになる。史実をベースに構築されたオープンワールドもので、幕末期の横浜・江戸・京都を舞台として緻密に再現されたマップを探索しながら物語を進めていく。自由度の高いキャラクリエイト、坂本龍馬をはじめとする偉人たちとの交流やロマンス、流鏑馬などのミニゲームや宙を滑空できるカラクリ、所属する勢力によって分岐するシナリオなど、時代性とジャンルのツボを押さえた要素が多く詰め込まれている。戦闘面では刀や槍など9種の近接武器と弓や短銃などを加えた多彩なラインナップが揃っていて、石火というパリィアクションを軸として軽妙かつ骨太な攻防を楽しめる。また、主に交流を深めた偉人から学ぶ形で20以上の流派が存在し、流派によってアクションの手触りや繰り出せる技が異なる。適度に苦戦させられるが死にゲーではない難易度に調整されていて、偉人たちをNPC同行させて共闘したりオンラインで他プレイヤーと協力したりすることもできる。総じて新奇性は控えめだが堅実につくり込まれた仕上がりとなっている。後にSteamに移植された。

本作の音楽を担当するのはInon Zur氏。イスラエル出身の作曲家で、映画やテレビの劇伴作曲などで幅広く活動している。ゲーム方面ではFalloutシリーズやThe Elder Scrollシリーズなど数多くの大作に携わった経験がある。本作は日本の歴史を描いた作品だが、あえて国内の作曲家ではなくグローバルな才能を求めることで、西洋文化が入り込みつつある幕末の空気感を表現している。尺八や琴、鼓などの和楽器をふんだんに取り入れているが、メロディーセンスや曲調、オーケストレーションの方向性などは西洋的な雰囲気がある。特にチェロと尺八を軸として紡がれる楽曲が象徴的で、氏曰くチェロに和風なメロディーを、尺八に洋風なメロディーを奏でさせることで、和洋の融合と調和を生み出している。サウンドトラックは各種デジタルストアで配信されている。

長屋で流れるのがこの曲である。主人公の拠点であり、休憩や模様替え、キャラメイクのやり直し、過去のミッションの再挑戦などがおこなえる。また、ときには長屋を訪ねる者がいて、縁側でなごむ偉人たちの様子を眺めることができる。荒れ狂う世の中で過ごす束の間の平穏を彩るにあたって、尺八と琴の雅やかな組み合わせでそっと心に寄り添う響きを生む。奏でられる音色は静かで慈しみに満ちているが、伴奏の琴の鳴らし方によるものなのか、どことなく憂いと不安が纏わりついている印象がある。37秒からはストリングスが加わり、全体的には宥めるような優しげな曲調でありながら、今にもなにかが始まりそうな動乱の予感を抱かせる。55秒以降でシャラシャラと琴を細かく鳴らすさまは微風に揺れる葦のようで、この平穏が長くは続かないのだと直感させられる。ひと時の凪のような一曲である。

縁側で風鈴の音を聴きながらうちわを扇いで……みたいな日常って実際に過ごしたことありますか? うちの実家には縁側なんてなかったのでちょっと憧れます。