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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#323 『秘密』(大久保賢・森祐紀/ウィッシュルーム 天使の記憶/NDS)

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CINGがおくるアドベンチャーウィッシュルームより、

大久保賢・森祐紀作曲、『秘密』。ミラのテーマで、彼女との会話シーンで流れます。

「DSで、ミステリー。」というシンプルなキャッチフレーズのもとに登場した本作。泊まると願いが叶うというホテルの一室をめぐり、失踪した同僚を探すカイル、同僚と同じブレスレットをしている唖者の少女・ミラ、その他複雑な事情を抱えた宿泊客たちによる一晩限りの群像劇が紡がれる。どことなく古めかしさを感じさせるロトスコープ調のグラフィックに、魅力的な登場人物たちが織り成す渋さあふれるシナリオが特徴で、DSを縦に持って、ホテルを探索したり登場人物と会話したり、ミステリーならではの謎解きをしたりしていく。独特な質感を持つ仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは大久保賢(現名義は大久保サトシ)氏と森祐紀氏。いずれもT's MUSIC所属の作曲家で、両名ともにCINGの作品では後に本作と似た系譜のアナザーコードRとラストウィンドウの作曲も手がけることになる。本作では海外ドラマを思わせる丁寧で落ち着いた作風に寄り添った、素朴だけど洒落た楽曲が多い。サウンドトラックは未発売ながらも、作中ではバーに立ち寄ればジュークボックスから音楽を聴けるという、世界観に合った粋な計らいが用意されている。

本作の最重要人物である声を失った少女・ミラとのやりとりの際に流れるのがこの曲である。ゆったりと沈み込むように奏でられるピアノの音色は、着実に核心へと迫っていく雰囲気を醸し出し、何らかの深い事情を背負ったミラに対しての、触れてはならないけど触れぬわけにもいかないという心理的なもどかしさを巧みに描写している。はじめはピアノ独奏だが、22秒や44秒など節目節目で楽器が加わることで、メランコリックなムードを保ちつつも徐々に盛り上がっていく。特に44秒以降のフレーズでは、主旋律を担う高音とは別に、ずしんと重低音を響かせる伴奏のピアノが奏でられることで、途中参戦したギターやシンセなどの他の楽器と比べて、ピアノが主役の楽器として一際力強い存在感を放つ。本作全体を貫くミステリアスな空気感がひとまとめに表現された一曲である。

続編で流れたときの昂揚感は何物にも代え難いですね。素敵な曲です。