作曲家について語るコラムです。
vol.025で扱うのは古代祐三(こしろ・ゆうぞう)氏。
代表作は「イース」「湾岸ミッドナイト」「世界樹の迷宮」など。
なお、記事に記載された内容はすべて2019年12月7日現在のものです。
まずは一曲。
www.youtube.com『フィルモア』(アクトレイザー/SFC/1990年)
数ある古代氏の代表曲のなかでも屈指のインパクトを誇るこの曲は、「アクトレイザー」の最初のステージ・フィルモアで流れるものである。同作はオーケストラ調の曲が多いが、そのなかでもこの曲はすこし毛色の異なるエレクトロニックサウンドで、プレイヤー自らが神となって魔物を殲滅する圧倒的な力強さが、音の隅々から伝わってくる。この曲のみならず同作における楽曲全体の完成度の高さから、当時FF4の作曲をしていた植松伸夫氏が、この曲を聴いて強い衝撃を受け、マスターアップ直前にもかかわらず音色のサンプリングを見直したという有名な逸話が残っているほどである。
古代祐三氏、1967年生まれ、東京都出身の作曲家。ピアニストの母親の影響により幼少期からピアノやバイオリン、チェロなど複数の楽器を習い、特にピアノに関しては久石譲氏に師事した。学生時代はYK-2名義で電波新聞社のパソコン誌「マイコンBASICマガジン」に自作のプログラムを投稿したり音楽系のライターとして寄稿したりしていた。高校卒業後、1986年に日本ファルコムに入社、クリエイター志望だったが、音楽およびプログラミングの知識を見込まれて、サウンドプログラマーとしてキャリアをスタートする。
採用面接時に持参したデモテープの楽曲をそのまま収録される形で、アクションRPG「ザナドゥ・シナリオ2」(1986年)にて作曲家デビューし、続いて同じ年にオープニング曲のみではあるがアクションアドベンチャー「ロマンシア」にも携わる。ときに移植に際しての編曲を手がけつつ、ファルコムの新作として登場したアクションRPG「イース」(1987年)で全曲を単独で担当すると、ゲームそのものの完成度の高さに加え、その熱いサウンドが好評を博し、一躍脚光を浴びることとなる。その後、「ドラゴンスレイヤーIV ドラスレファミリー」、「ソーサリアン」(ともに1987年)と順調に経験を積み、1988年の「イースII」を最後に早くもファルコムを離れて独立した。
www.nicovideo.jp『TO MAKE THE END OF BATTLE』(イースII/PC88/1988年)
オープニングで流れるのがこの曲である。前作のエンディングから直接繋がる形でオープニングが描かれるが、当時としては画期的だったドット絵によるアニメーションと相まって、視覚的にも聴覚的にも鮮烈な印象を与えることになる。爆発的とも言える怒涛の勢いで奏でられるヒロイックなメロディーラインが特徴で、終始アップテンポかつハイテンションな疾走感を保ち続ける。制約の多い音源でも躍動感たっぷりの盛り上がりを見せてくれる一曲である。
独立後はボーステックの「ザ・スキーム」(1988年)やセガの「ザ・スーパー忍」、電波新聞社の「ボスコニアン」(ともに1989年)など、ゲーム以外ではすこし変化球で映画「ノーライフキング」(1989年)における劇中ゲームの音楽を次々と担当する。1990年4月に自らの会社・株式会社エインシャントを設立すると、同年にクインテットのアクションシミュレーション「アクトレイザー」の音楽を手がけ、音源への造詣の深さを活かして革新的なサウンドを生み出す。
その後、「ザ・スーパー忍」の縁からセガのゲームギア移植版「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の開発全般を担当、サウンドのみならずマルチクリエイターとしての実力を発揮する。セガとは以降も頻繁に仕事をするようになり、「ベアナックル」や「The・GG・忍」(ともに1991年)シリーズなど、移植版を含めて多機種で開発や音楽に携わる。エインシャント全体としては、古代氏が単独で作曲をおこなったRPG「ストーリー オブ トア 〜光を継ぐ者〜」(1994年)などだけでなく、作品によっては外部協力スタッフとして川島基宏氏や柳川剛氏らも作曲に携わるようになる。「ベアナックル2・死闘への鎮魂歌」や「アクトレイザー2」(ともに1993年)などでは川島氏とともに、大宮ソフトのトレーディングカードボードゲーム「カルドセプト」(1997年)やセガのRPG「シェンムー」(1999年、他にもセガ側の作曲家が多数参加している)では柳川氏とともに音楽を手がける。
www.youtube.com『過てる希望の果て』(カルドセプト/SS/1997年)
廃墟の都市ナバトの前半で流れるのがこの曲である。ナバトは二重の正方形に一部分かれ道のあるステージ構成で、護符(地価と連動する価値を持つ資産、同シリーズにおける重要かつ強力な一要素)を効果的に用いた戦略的なプレイングが求められる。そこで流れるこの曲は、まさに廃墟という舞台にびったりな退廃的なピアノとアコースティックギターの音色が印象的で、寂寞とした悲しみと美しさが見事に共存している。1分ほど過ぎたあたりで曲調がすこし変わり、やおら静かに盛り上がっていく様子は、激化しつつある盤上の頭脳戦を雅やかに彩る。現実的な視点から冷静に戦況を見極めつつ、同時に浮世を離れて同作の世界観に浸らせてくれる一曲である。
この頃、古代氏はある種のスランプ状態に陥る。1990年代中頃までは好きに曲を書いてほぼリテイクを食らうことはなかったらしいが、徐々に自分のつくりたいものと相手に求められているものの間にすれ違いを痛感するようになり、音楽よりもエインシャントでのゲーム制作に没頭する。そこから再び作曲家として持ち直すきっかけとなったのが、高校時代の同級生である小林景氏がディレクターを務めるナムコのアーケード用レースゲーム「湾岸ミッドナイト」(2001年)およびPS2移植版の「湾岸ミッドナイトR」(2002年)である。同作は橘みちはる氏による同名のカーバトル漫画を原作とするもので、相手先の意向を汲み取りつつ、自らの音楽性を模索して作曲をおこなうことで、すこしずつバランスを意識できるようになったという。その後の「湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE」(2004年)とそのシリーズにも、現在に至るまで欠かすことなく参加し、シリーズサウンドの生みの親として関わり続ける。
ナムコ作品には他にもクロスオーバー型シミュレーションRPG「NAMCO x CAPCOM」(2005年)を担当したほか、コナミの音楽ゲーム「Dance Dance Revolution STRIKE」やアクション「悪魔城ドラキュラ ギャラリー オブ ラビリンス」(ともに2006年)などにも楽曲を提供する。
2007年、古代氏の新たな代表作としてアトラスの3DダンジョンRPG「世界樹の迷宮」が登場すると、ウィザードリー風の古典的な世界観にあわせて、楽曲にはPC-8801のFM音源をサンプリングした音色を用いることになる。FM音源のスペシャリストたる氏の腕の見せ所として、その完成度の高さが大きな反響を呼んだ。
www.youtube.com『鉄華 討ち果て朽ち果て』(世界樹の迷宮/NDS/2007年)
同作における通常戦闘曲のうち、特に第四階層以降の物語後半で流れるのがこの曲である。前半の戦闘曲『鉄華 初太刀』のストレートな勇ましさから一転、勇ましいことにこそ変わりないが、イントロからしてすでに哀愁漂う重厚な音使いが、いよいよ迷宮探索も終盤に近付いていることを予感させる。悲愴感あふれる旋律、アルペジオの華やかな音階、興を添えるシンバルなど、数々の死線を越えて成長した冒険者たちの雄姿を印象付けるとともに、さらなる冒険へと突き進まんとする威勢を示してくれる一曲である。
以降も世界樹の迷宮シリーズには必ず携わるようになり、「世界樹の迷宮II 諸王の聖杯」(2008年)、「III 星海の来訪者」(2010年)では引き続きFM音源で、3DSにハードを移した「IV 伝承の巨神」(2012年)からは方向転換して生演奏の楽器を取り入れ、シリーズサウンドの新境地を切り拓く。時期を前後して、多数の作曲家が一堂に会したソラの「大乱闘スマッシュブラザーズX」(2008年)や「新・光神話 パルテナの鏡」(2012年)に参加し、作曲はもちろん編曲でも顕著な存在感を示す。さらにエインシャント開発のインディーズ作品として、レトロチックなタワーディフェンスゲーム「まもって騎士」(2010年)でも古代氏が作曲し、ファミコンの8bitサウンドを意識した楽曲を、同作のみならずこれまた新作が出るたびに手がけることになる。
また、世界樹の迷宮の一作目のディレクターである新納一哉氏がイメージエポックに移籍したのを受け、彼が新たに送り出したRPG「セブンスドラゴン」(2009年)でも古代氏がサウンドを手がけることになる。外伝の「セブンスドラゴン2020」(2011年)、「2020-II」(2013年)、「III code:VFD」(2015年)でも同様で、同シリーズは特に初音ミク等によるボーカル曲も充実している点が特徴的である。
www.youtube.com『戦場-ライバルアライバル』(セブンスドラゴン2020/PSP/2011年)
同作は人間と竜の戦いを描いていて、主人公パーティが属する戦闘班・ムラクモ機関のほかに、同じく竜を狩ることを目的とする組織が存在し、ときに剣を交えることになる。この曲はタケハヤ率いるSKYとの戦闘で流れるもので、そのシャープなシンセサウンドが、好敵手との交戦を昂揚感たっぷりに彩る。煌びやかな音色のなかに潜む悲哀と決意が、どこか壮大な疾走感を漂わせ、何度も同じフレーズが繰り返されることで、聴けば聴くほど力が湧いてくるような印象を与える。なお余談だが、同シリーズはパロディネタが豊富なことでも知られる。
その後も自らの知名度を活かしながら、シリーズ作品や単発問わず様々なゲームで作曲し続ける。この頃、テレビアニメ「銀河機攻隊 マジェスティクプリンス」(2013年)にオープニングテーマを提供するなど、ゲーム以外でも活躍の場を広げていく。2014年には日本初のゲーム音楽プロ交響楽団・JAGMOの代表理事に就任、ゲーム音楽を音楽史に残る文化にするビジョンを掲げることとなる。なお、現在は名誉会長を務めている。
「maimai」(2013年)や「CHUNITHM」(2015年)などの音ゲーに楽曲提供する傍ら、「レイトンブラザーズ・ミステリールーム」(2012年)といったスマホゲームにも積極的に携わり、アプリ原作の「パズドラクロス 神の章/龍の章」(2016年)なども手がける。もちろん世界樹の迷宮シリーズや湾岸ミッドナイトシリーズも引き続き担当していて、特に前者は、「世界樹の迷宮V 長き神話の果て」(2016年)のようなナンバリングのみならず、リメイクの「新・世界樹の迷宮 ミレニアムの少女」(2013年)やスピンオフの「世界樹と不思議のダンジョン」(2015年)などにおいても、新曲や過去曲のアレンジを多く生み出す。
2018年には「とある魔術の電脳戦機」、「湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE 6」、「世界樹の迷宮X」、「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」といったビッグタイトルを複数手がける。直近の担当作として挙げられるのは「すすめ!! まもって騎士 姫の突撃セレナーデ」(2019年)であり、同作には相変わらずファミコン実機を用いて収録されたこだわりのレトロサウンドが揃っている。
www.youtube.com『まもって騎士スイッチオン』(すすめ!! まもって騎士 姫の突撃セレナーデ/NS/2019年)
同作のオープニングデモで流れるのがこの曲である。三和音で奏でられるポップでキャッチーな音色が印象的で、さながらアニメの主題歌のような親しみやすさを誇る。曲自体はあくまでファミコン音源に準拠するため歌は入っていないが、映像で示される通り、情熱的なメロディーラインに沿った陽気な歌詞が用意されていて、その独特な味わい深さが愉快なノスタルジーを醸し出す。現代だからこそより鮮やかに映えるチップチューンの魅力が詰まった一曲である。
その他、2019年内のリリースを目標とするエインシャントの本格RPG「王立 穴ポコ学園」でも作曲しているようである。
最近では古代氏の楽曲のみを演奏する新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団主催のコンサート「古代祭り」(2018年)をはじめ、作曲やゲーム制作以外でも精力的に活動を続けている。これからもコンポーザーのみならずマルチクリエイターとして最前線に立ち、業界全体を牽引していくことが期待される。
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今回をもちまして隔週末の作曲家談義は暫定的な最終回となります。古代さんは担当作品も多いし逸話も多いですね。参考までに、今まで格納してきた古代さんの楽曲をどうぞ。