古代祐三作曲、『鉄華 初太刀』。前半の通常戦闘で流れます。
自分だけのパーティで白地図にマッピングしながらダンジョンに挑む世界樹の迷宮シリーズの1作目にあたる本作。偏狭の街・エトリアの外れに突如発見された大地の裂け目から続く地下樹海の迷宮を舞台に、冒険者たちは迷宮の踏破を目指すことになる。現代的な可愛らしい絵柄を用いつつ、ゲーム性そのものは非常に古典的(いわゆるWizライク)で、バランス調整、各種システム、語り口など、全編を通じて通好みの雰囲気が徹底されている。本作の最大の特徴は、DSの2画面とタッチペンを活かした手描きマッピングシステムである。昔やったであろう地図を方眼紙に描き起こす感覚を蘇らせるにあたって、壁の線を自ら描き入れる行為はそのままに、描きやすいようにデフォルトでアイコンやメモ書き等の便利機能が用意されていて、懐かしくも画期的な体験を味わうことができる。このほか、最大5人で冒険できる自由なキャラメイクとパーティ編成、多彩な職業、スキルツリーを介した幅広い育成要素なども特徴的である。戦闘はオーソドックスなターン制コマンド式で、凶悪な状態異常や奇襲、初見殺しのような攻撃パターンなど、シビアだが克服し甲斐のある要素が詰め込まれている。総じて冒険心と挑戦心をくすぐられる仕上がりとなっている。後に3DS向けにリメイクされたほか、スイッチとSteam向けに初期3作品のリマスター版が登場した。
本作の音楽を担当するのは古代祐三氏。株式会社エインシェントの代表を務める作曲家で、世界樹の迷宮シリーズのサウンドの要である。80年代のマイコン時代からゲーム音楽に携わっているベテランである。本作ではレトロな作風に見合うように、サウンドは振り切ってPC88のFM音源をサンプリングした音色を用いている。こうした音へのこだわりは本作の大きな魅力の一つであり、黙々と死線を乗り越えるゲーム体験に寄り添った味わい深くセンスのある楽曲群を楽しめる。サウンドトラックにはDS音源と開発時のFM音源が両方収録されているほか、別途早期購入特典として試作曲などが収録されたミニサントラも存在する。
前半(第三階層まで)の通常戦闘で流れるのがこの曲である。じりじりと熱を蓄えていくリズミカルなイントロで始まり、4~5秒で煌びやかな音階を奏でて一旦雰囲気を整え直してから、6秒で本格的に主旋律が加わる。鮮やかだがかすかに憂いを湛えたメロディーライン、うまくノリを支える小気味良いベースとパーカッション、それにたとえば27~29秒で主旋律が奏でたフレーズを30~32秒頃に後追いで反復する副旋律など、それぞれ表現力に富んだ音色を巧みに用いることで、全体として抜群の噛み合わせを誇るバランスの良さを感じさせる。34秒以降は再び冒頭と同じ流れを辿り、1分8秒以降も最初の数音が共通しているため、もうすでにループに入ったかのように錯覚させるが、1分12秒からにわかに変化が兆す。1分24秒から紡がれる一連の間奏は、これまでの緊張感あふれる雰囲気からすこし変わり、戦況が好転して優勢になったような勢いを帯びている。前半の戦闘曲ではあるが、慣れていない前半こそ手強さを実感しやすく、そうした作中の印象が曲にもよく反映されている。困難な道のりでも切り拓かんとする意地と底力が強く滲んだ一曲である。
リメイクでは古代さんご本人による編曲で、生楽器のバンドアレンジで追加のギターパートがあります。あわせて聴きたまえ、です。