日本テレネットがおくるアクション・サイコドリームより、
なるけみちこ作曲、『Track3 黄昏 - 東京タワー』。3面で流れます。
夢幻戦士ヴァリスシリーズなどで知られる日本テレネット製のスーファミ向けの作品にあたる本作。Dムービーと呼ばれる仮想空間を体感できるシステムの普及により、若年層を中心に現実逃避したきり還らない問題が深刻化するなか、特設公務員のデバッガー・リョウとマリアは、眠りに就いた少女・沙耶香を救うべく仮想空間へ潜行することになる。全6面・各3エリアから成るサイドビュー型のアクションゲームで、世界観や背景設定こそ強烈だが、実際の遊びの部分はオーソドックスでクラシカルな部類に入る。主人公は開始時にいずれかを選ぶ形式で、リョウは剣を用いた近接寄りの火力重視、マリアは鞭を用いた遠距離寄りのバランス重視、それぞれパワーアップを通じて性能も見た目も熾烈さを増す。作中で物語を掘り下げる要素はほぼ存在しないが、ステージ背景、戦闘演出、自機や敵のデザイン、アイテムや各種システムの名称(パワーアップアイテムはプロテイン、強化はフリークアウト、最終強化形態は完全変体〈トランスミューテーション〉である)など、様々な部分でサイケデリックな雰囲気が徹底されている。全体的に動作が硬めで近接攻撃の判定が狭く、強化形態は非常に強力である代わりに失った際のリカバリーが厳しいなど、調整が大味に感じられる箇所もあるが、それも含めてなかなか刺激的な色味を帯びた仕上がりとなっている。
本作の音楽を担当するのはなるけみちこ氏。当時、日本テレネットに所属していた作曲家である。本作の音楽は異様で、氏の普段の作風のみならずゲーム音楽全体と照らし合わせてもあまり類を見ない雰囲気を纏っている。本作における音楽の立ち位置は、本作を本作たらしめる病的な空気感を最も如実に表現した要素であると言っても過言ではなく、精神を侵されてしまいそうな、良い意味で気味悪い楽曲が揃っている。赤ん坊の泣き声、神々しいコーラス、ミニマルトランス的な曲構成、一貫性がないようでかえって世界観に一致した前衛的なテンション、仕上げにはクラシック音楽の引用など、全編を通して挑戦的な姿勢が窺える。サウンドトラックは長らく未発売だったが、ゲーム発売後30年に未使用曲込みで収録されたものが登場した。
3面で流れるのがこの曲である。東京タワーのエレベーター内部を舞台とするステージで、常に背景が上方向にスクロールしていく(何かそれに合わせてプレイヤーが昇る必要はない)。限られた空間のなかには紫色の繭のような怪物が巣食っていて、それを黙々と駆除することになる。そうしたなか、冒頭15秒ほど不安定なフレーズを反復し続け、あまりのくどさにノイローゼに陥ってしまいそうな変な気分にさせてくれる。15秒以降に入る音色は比較的美しい響きがあるが、かといって大きな変化をもたらすことなく、依然として不気味なほど明るく興奮したような曲調を維持する。30秒過ぎになって笛の音が加わると流れが変わり、奇妙さは薄れて親しみやすさが増す。が、そうした束の間の印象も次第に移ろい、45秒から音階を高速に行き来する伴奏の存在感が強まることで、再び当初の印象に近い激情ぶりをみせる。意に反して気分が上ずって酔ってしまうような一曲である。
躁鬱の躁状態を切り取ったようなノリの曲、みたいな感じでしょうか……? 似たようなテイストで『Track6 深夜 - 浦安テーマパーク』のワルツも好きです。あわせてどうぞ。