VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1337 『BUBBLES』(小川史生・佐藤天平/デスブリンガー/PC98)

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日本テレネットがおくるRPG・デスブリンガーより、

小川史生・佐藤天平作曲、『BUBBLES』。洞窟で流れます。

上記動画の21:47から23:18まで。

日本テレネットの創立5周年記念作品として登場した本作。かつて邪神との戦いで多くの神々が傷つき、神々が人間に魔法の力を分け与えて去ったという世界を舞台に、騎士を夢見る冒険者の青年は、邪神の復活により各地できな臭さが増すなか、救世の旅に出ることになる。3DダンジョンRPGを彷彿させる奥行きのある探索画面と、2D見下ろし型でシミュレーション風の要領で進めるシンボルエンカウント制の戦闘システムを組み合わせたファンタジーRPGである。時間の概念があり、背景が時間帯に応じて変化したり、特定の時間にのみ発生するイベントが存在したりする。特筆すべきは技能とINT(知力)の関係性で、武器の種類や魔法の属性ごとに対応する技能があるが、習得できる技能の数はINTの上限に紐づく形で管理される(しかもINTの値は通常のレベルアップでは増えず、一部のイベントで上昇するほぼ固定のパラメータである)。そのため、誰が何をいつ覚えるべきか、育成の自由度が高い代わりに配分を吟味しながら攻略する必要がある。文体は翻訳調で、壮大な世界観で様々な仲間とパーティを組める一方で会話シーンはすくなくキャラ描写は淡泊であるなど、古典的な海外産RPGを意識したようなつくりが目立つ。総じて味のある仕上がりとなっている。後にPC-88VAX68000、PCECD、メガCD、PCに移植された。

本作の音楽を担当するのは故・小川史生氏と佐藤天平氏。いずれも当時、日本テレネットに所属していた作曲家である。本作は移植先の機種によっては音源が異なり、PC98版原作はOPN系FM音源X68k版はOPM+ADPCM、PCECD版はPSGメインで一部CD-DA音源である。ハイファンタジー調の世界観にあわせて、独特な悲壮感のあるダークでメランコリックな楽曲が揃っている。サウンドトラックについては、日本テレネット製の作品群をまとめたアルバムに本作の楽曲が収録されていて、このアルバムは通常音源版とチューニングを施したサウンドボードII(OPNA音源)版の2種類に分けて発売されている。

洞窟で流れるのがこの曲である。マリンバを連想させる短く減衰する音色を用いて低音域から音階を上ったり下ったりを繰り返すさまは、瞬く間に虜にされてしまうようなような得も言われぬ心地良さに満ちている。8秒(上記動画の21:55)頃から断続的に高音域の主旋律が奏でられ、さらに23秒(22:10)あたりで毛色の異なる音色が加わると、暗澹としつつも美しく癒されるような雰囲気を形作る。特に28秒からしばらく(22:15~22:26)、音色を散りばめて後追いで木霊していくフレーズには魅力が凝縮されていて、仄暗く変わり映えのしない景色が続く洞窟を彷徨う状況に非常によく溶け込んでいる。洞窟に限らず本作はとかく迷いやすい構造(地図や座標の類はなく、景色の変化はすくなく、方角を示す表示すらない)で、マッピングなしでは迷子になるし、仮にマッピングしてても中途半端な描き方だと位置を見失いかねない。この曲はそうした暗中模索の臨場感のようなものが音の隅々に染みついているようにすら感じられる。卓抜した表現力を誇る一曲である。

至福の迷子BGMですね。X68k版も言葉が足りないくらいにとても素敵ですので、ぜひあわせてどうぞ。

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