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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1266 『Precious Hewie』(小渕世子/DEMENTO/PS2)

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カプコンがおくるゴシックサイコホラー・デメントより、

小渕世子作曲、『Precious Hewie』。ヒューイのテーマとして流れます。

カプコン製のPS2向けのホラーアドベンチャーとして登場した本作。両親が事故死してから訳も分からず古城に幽閉された少女・フィオナは、同じく捕らえられていた犬・ヒューイとともに、狂気に満ちた城からの脱出を試みることになる。見た目も中身も末恐ろしい追跡者から逃げ惑う恐怖を描いていて、主人公は非力で薄幸だが、相棒のヒューイが自主的にもしくは指示を出すことで敵を撃退したり仕掛けを解いたりしてくれる。ヒューイははじめこそ言うことを聞いてくれないが、褒めたり餌をあげたり、ときには叱ったりしながら、しっかり躾をして信頼関係を築くことで、精神面でも攻略上でも非常にかけがえのない存在になっていく。対して主人公自身に関わるシステムとしてはパニック状態の概念があり、追跡者に攻撃されたり威嚇されたりして蓄積すると、画面がモノクロ化して操作に制限がかかって死のリスクが高まってしまう。また、錬金術が存在するダークファンタジー的な世界観であることから、素材を用いてミニゲーム形式で攻略に役立つアイテムを精製する要素がある。ホラーならではの背徳感と、相棒のいる心強さを同時に味わえる仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは岡田信弥氏と小渕世子氏。小渕氏は当時、岡田氏は現在もカプコンに所属している作曲家である。このうち小渕氏はホラーゲームという括りでは本作以前にバイオハザード0での作曲経験がある。本作ではいかにも退廃的で狂気染みた、ぞわぞわするようなノイジーでインダストリアルなサウンドが揃っている。軋み、音飛び、呼吸音など、不気味さを強調する要素が多く詰め込まれている。一方で、楽曲によっては荘厳なクワイアや鐘などを用いることで、美しさや切なさを感じさせるものもある。サウンドトラックには一部の楽曲をアレンジしたボーナストラックも含めて収録されている。

ヒューイのテーマとして、彼と初めて会ったときや主人公の窮地を救ってくれたときなどのイベントで流れるのがこの曲である。前述の通り、ヒューイは本作の象徴とも言える相棒の犬で、賢く勇敢な雄のホワイトシェパードである。不気味な楽曲が多いなかで、この曲は胸を締め付けるほど優しく物悲しく愛おしい響きを帯びている。根幹をなすメロディーはとてもシンプルで、まるで子守歌のようにチェレスタがひたすら似通った音色を奏で続ける。聴けば聴くほど内なる感情がこみあげてくるようなメランコリックな印象を与える。55秒からはリバースシンバルに続いてコーラスが入り、ますます心洗われる神秘を漂わせるようになる。歪み切った古城のなかで唯一心の拠り所となり得る犬の存在を、音を通じて忠実に表現した一曲である。

本作の癒しでもあり清涼剤でもあり、最も哀しい曲でもある気がしてすごく素敵ですね。ちなみにスタッフロールのBGMにこの曲のフレーズが含まれていて、そちらもとても良いです。同じく小渕さんの作曲で『Endless Zero』、あわせてどうぞ。

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