フィールドとヒューマンがおくるリアルタイムアドベンチャー・セプテントリオンより、
那珂裕之・新倉浩司作曲、『ゲームオーバー』(仮称)。ゲームオーバーの際に流れます。
ヒューマンが発売を手がけた作品のうち、映画のような作風を特徴とするシネマティックライブシリーズの第1弾にあたる本作。時は1921年、嵐に遭遇した豪華客船クリサニア号にて沈没のタイムリミットが迫るなか、境遇の異なる4人の主人公が人命救助と脱出を目指して奔走することになる。リアルタイムで60分の制限時間内で、刻々と傾斜が変わる2Dサイドビューの探索エリアを行き来し、生存者を発見・説得・脱出地点まで誘導することが目的である。開始時に選べる主人公は4人(建築家の青年、説得上手な牧師、若き航海士、年配の医師)で、それぞれ開始地点や能力、グッドエンドを迎えるための条件が異なる。高所からの落下や火傷などのギミックにかかるとペナルティで制限時間から5分引かれる仕様で、特に後半にかけて更なるハプニングに見舞われて船体の傾きが厳しくなる頃には一つのミスが命取りとなる。救助対象の生存者は取り乱していたり持病を抱えていたりすることから、発見できたとしてもスムーズに脱出できるわけではない。問答を通じて自分の後ろについてくるよう生存者を説得した後も、道中で適度に休みを取らなければ衰弱死してしまったり、ギミックにかかって落命したりする。そのため、全編を通じて急ぎつつも慎重に慎重を期す必要がある。総じてパニック映画を追体験できるシビアかつ秀逸な仕上がりとなっている。
本作の音楽を担当するのは那珂裕之氏と新倉浩司氏。いずれも当時ヒューマンに所属していた作曲家である。スタッフロールではOPENING THEME欄に那珂氏が、MAIN THEME欄に新倉氏がクレジットされているため、おそらくOP以外の主要な楽曲は新倉氏が作曲したものと推定される。シネマティックライブシリーズでは那珂氏は第2弾のザ・ファイヤーメンで、新倉氏は第3弾であり以降独立したシリーズとなるクロックタワーで続投することになる。本作では映画の劇伴を彷彿させる悲壮なストリングスオーケストラ系の楽曲が揃っていて、時代設定が1921年ということもあってヴィンテージ感のある雰囲気を味わえる。物悲しい曲調が多いなかでも、転覆前の束の間の平穏やグッドエンドを迎えたときなどでは優しく労わってくれるような楽曲が流れるため、メリハリと物語性のあるサウンドを楽しむことができる。サウンドトラックは未発売のため、曲名は便宜上の仮称とする。
ゲームオーバーの際に流れるのがこの曲である。ゲームオーバーはバッドエンドとは異なり、バッドエンドの場合は所定のイベントを条件未達ながらも迎えてエピローグとスタッフロールが流れる(一応クリアしたと言える)が、ゲームオーバーの場合は単に時間切れで幕を閉じる。海底を背景に白文字で「Game Over」とだけ記されるシンプルな画面が表示されるなか、哀しみとやるせなさが詰まったオルガンの音色を軸として、さながら鎮魂歌のような曲調で静かに彩る。ただし魂を鎮めるというより、文字通り身も心も魂までもが海の底に沈んでしまった、という絶望的な空気感が色濃く漂っている。12秒からオカリナと思しき笛の音が加わると、その音色は非常に美しく澄んでいて、傷心を癒してくれるような響きを帯びているが、それゆえかえって深く締め付けられる印象を与える。これまでの苦労が水泡に帰して自分自身さえも海の藻屑と消える、そんな無念さと虚無感が滲んだ一曲である。
これもこれで一つの結末として受け入れてしまいそうな説得力のあるゲームオーバー演出で、とても良いと思います。