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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1484 『トムの店』(崎元仁/デルトラクエスト 7つの宝石/NDS)

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Emily Rodda著の同名の児童小説を原作とする、

バンダイナムコがおくるフルタッチアクションRPGデルトラクエストより、

崎元仁作曲、『トムの店』。トムの店で流れます。

オーストラリアの作家・Emily Rodda氏の代表作である「デルトラ・クエスト」のゲーム化作品にあたる本作。かつて七つの宝石の加護で栄えるも、影の大王により宝石を奪われ圧政に苦しむデルトラ王国で、鍛冶屋の少年・リーフが宝石を取り戻す旅に出ることになる。原作譲りの緻密な世界観が魅力的なアクションRPGで、フルタッチと銘打つ通り、あらゆる操作をタッチペンでおこなう点が特徴である。物語は沈黙の森編から帰還編までをベースに概ね再現されていて、適宜オミットされたり、逆にゲームオリジナルの展開が追加されたりしている。探索や謎解き、鍛冶や調合など、RPGの王道を征く要素が揃っているなかでも、とりわけ戦闘システムに工夫がみられる。具体的には、DSの上画面に感情の昂ぶりを表現した波状のゲージが表示され、波が高いときに折よく攻撃すると多彩な必殺技を放つことができる。通常の移動も含め、これらのアクションはタッチペン特有の素早い操作で手軽に繰り出せる。全体的にテンポが良い反面、セーブポイントが限られるほか、ストックしたアイテムを選んで使うことはできず順番に消費するしかないなど、大味な仕様が点在する。総じてDSならではの遊び心地で原作の世界を探検できる意欲作に仕上がっている。

本作の音楽を担当するのは阿部公弘氏、岩田匡治氏、金田充弘氏、上倉紀行氏、崎元仁氏。阿部氏、岩田氏、上倉氏は当時、金田氏と崎元氏は現在も音楽制作会社ベイシスケイプに所属する作曲家である。また、マニピュレート担当として同じくベイシスケイプの金子昌晃氏が関わっている。このうち崎元氏は本作のサウンドプロデュースを手がける傍ら、メインコンポーザーとして最も多くの楽曲を作曲している。本作ではいかにもハイファンタジーらしい壮大なオーケストラサウンドを軸に据えつつ、要所要所で愛嬌のある笛や鐘などを取り入れることで、気取った雰囲気や物々しい印象を出しすぎず親しみやすさが感じられるようなバランスを保っている。とはいえ物語後半にかけてシリアスな印象がぐっと増すため、物語の展開にあわせて音楽が大いに魅せてくれる。サウンドトラックには開発音源と内蔵音源が両方収録されていて、曲ごとに作曲家によるコメントが添えられている。

トムの店で流れるのがこの曲である。旅行用品という名目で珍品を扱う店で、店主のトムは敵か味方か判断しづらい不敵な態度を取る。どうにも胡散臭いけれど妙に居心地が良くて購買意欲をそそられる感覚を表現するにあたって、開始早々から野太く唸るような音色を用いてどっぷりと没入感に浸らせてくれる。その音色はディジュリドゥ(オーストラリア先住民の管楽器)を思わせる独特な響きがあり、ハープやシロフォンなどと組み合わせることで怪しくも愉快な雰囲気を生み出している。7秒から徐々に綺麗な笛の音が聴こえ始め、9秒頃でマラカスのリズムが加わるようになると、次第に賑やかな印象が強まっていく。19秒あたりで打楽器が目立ち出すと、続けてシンセ風の浮遊感のある音色が入り、プリミティブでミステリアスなムードを漂わせる。特に38秒以降、根幹となるフレーズだけを残して簡素なメロディーを刻むくだりは一際面妖な響きを帯びている。怖いもの見たさならぬ怪しいもの見たさを刺激される一曲である。

こういうファンタジー系の怪しく愉快な曲って得も言われぬ魅力がありますよね。開発音源のほうもあわせてどうぞ。

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