VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1524 『Olvan Jaess』(山貫憲彦/エルナード/SFC)

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プロデュースがおくるRPG・エルナードより、

山貫憲彦作曲、『Olvan Jaess』。港町ボンロや水の町ペルなどで流れます。

プロデュース開発でエニックス販売によるRPGの第1弾にあたる本作。伝説の大地・エルナードを舞台に、神の子として名高い賢者・シーダの七人の弟子たちは、世界を導く力を持つという七つのアークを探し求めて旅立つことになる。開始時に性能や素性の異なる七人の主人公のうちの一人を選択して進めていくファンタジーRPGである。一見するとごく王道な筋書きと世界観だが、仲間たちとともに巨悪に立ち向かうようなイメージではなく、弟子同士の敵対や仲間割れ、過去と現在の世界の行き来など、意外性のある展開が待ち受ける。その一方で、主人公は無口で、パーティ編成は最大2人という少数制であることから、心情面や交流面での物語描写は淡泊で寂寥感が強く漂っている。戦闘はターン制コマンド式で、フィールド画面のエンカウントから疑似3Dのカメラ演出でシームレスかつスピーディーに戦闘画面に遷移する点が目を引く。物語上で入手したアークは戦闘中に使用することで回復やバフなど実戦に役立つ力を発揮するため、システムとストーリーが密接に絡み合っている。ゲームバランスや操作手順の煩雑さなどやや扱いづらいところはあるが、総じて心に染みる独自の侘しさがある仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは山貫憲彦氏。主に演劇やアーティストのプロデュースなどを手がける作編曲家兼ジャズドラムの教育者である。ゲーム音楽の担当例は限られていて、本作以外だと魔動王グランゾートPCエンジンSG向けゲーム化作品に携わったことがあるのみである。なお、氏の他に本作ではサウンドクリエイターとして、くきのつとむ氏(漢字表記不明)と光田康典氏が参加していて、山貫氏からみて光田氏は教え子にあたる。本作の音楽は笛の音をふんだんに取り入れた物哀しく味わい深い作風で特徴づけられていて、全編にわたって独特な孤独感のある世界観を見事に反映している。他方で戦闘曲はプログレッシブ×オーケストラ系の意気盛んな曲調を中心に揃えられていて、通常戦闘曲は場面によって複数種類用意されている。サウンドトラックは長らく未発売だったが、2023年になってBosatsubeat名義で山貫氏のBandcampで配信された。

港町ボンロ、水の町ペル、雪深いパレンシヤなど、複数の町で流れるのがこの曲である。前述の通り本作の音楽は笛の音を用いた味わい深いものが多いが、そのなかでもこの曲は最も端的に作風を表していると言える。とても素朴で澄んだ音色を奏でるリコーダーに、温かく寄り添うベースやタンバリンを組み合わせることで、非常に真っすぐ琴線に触れてくるような響きを生み出す。その調べは美しいながらも寂寞とした感覚が絶えず漂っていて、得も言われぬ感慨深さがある。とりわけ38秒以降で奏でられる旋律は、盛り上がりつつも物憂げな印象をバランスよく保っている。ループ前の58秒~1分6秒では、続けざまに同じ音程を短く鳴らした後、最後は音階を上っていくことで丁寧かつ綺麗に締め括る。すっと心に浸透する一曲である。

曲名は主人公のうちの一人であるドワーフの名前です。別にこの曲が流れる町はオルバンの出身地ではないので、あまり彼のテーマという感じはしませんが、元々はテーマ曲を想定してつくったんでしょうかね?