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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1473 『風の塔』(土屋俊輔・光田康典・三留一純/ワールド・デストラクション ~導かれし意思~/NDS)

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イメージエポックがおくるRPGワールドデストラクションより、

土屋俊輔・光田康典・三留一純作曲、『風の塔』(仮称)。風の塔で流れます。

ルミナスアークシリーズで知られるイメージエポックのメディアミックス作品として、アニメや漫画と並行して登場した本作。大地が砂に覆われ、獣人が人間を支配する世界を舞台に、辺境の村で暮らしていた気弱な少年・キリエは、歪んだ現状を打破しようとする世界撲滅委員会の少女・モルテとの出会いをきっかけに数奇な運命を辿ることになる。個性的なキャラと世界観が特徴のファンタジーRPGで、軽妙な見た目ながらも世界の撲滅を軸とした物語が描かれることから、死や迫害などのシビアな展開が待ち受ける。戦闘はDSの上下2画面を活用した一風変わったターン制を採用していて、2画面に及ぶ巨大な敵と対峙したり、地上(下画面)だけでなく空中(上画面)にも現れる敵を叩き落としたり打ち上げたりすることができる。戦闘の各コマンドは対応するボタンを入力して選択し、行動のリソースとなるBPを消費して強攻撃や多段攻撃などを繰り出す仕組みであるため、疑似的なアクションか格闘ゲームのような操作性がある。また、作中の決め台詞を装備できるワードエクイップシステムというものがあり、戦闘時に恩恵を得たり、戦闘以外でも買い物の値引き交渉に用いたりして冒険を有利に進められる。戦闘システムが凝っている反面、バランスが大味で演出が長い点が目立つ。RPGらしさを押さえつつ捻りを加えた意欲作に仕上がっている。

本作の音楽を担当するのは土屋俊介氏、光田康則氏、三留一純氏。光田氏と土屋氏は音楽制作会社プロキオンスタジオに所属する作曲家で、三留氏はフリーランスである。プロキオンスタジオは本作やルミナスアークシリーズなどをはじめ、イメージエポック製の作品には頻繁に携わっている。また、三留氏も1作のみだがルミナスアークの作曲に参加しているほか、かつてスクウェアに在籍していた頃にはゼノギアスの効果音制作を手がけたことがある(光田氏含む本作の主要スタッフの多くはゼノギアスと共通している)。本作はグラフィックがよく描き込まれていて、それに見合うように音楽も高い水準で瑞々しく幻想的な雰囲気を漂わせている。ハープやクワイアを駆使したハイファンタジー系のオーケストラサウンドが取り揃えられている。サウンドトラックについては、数曲のみ収録された予約特典のミニアルバムを除いて未発売であるため、曲名は便宜上の仮称とする。

風の塔で流れるのがこの曲である。複数階から成る物語終盤のダンジョンで、強風が吹く迷路のなか、各所に点在するスイッチを踏んで道を拓いていく。ここでは作中の大ボスにあたる四獣聖の最後の一角が待ち受ける。そうしたなか、ハープと鐘とピアノの珠玉の組み合わせで奏でられるイントロによって、一気に空間ごと包み込むように儚く神秘的な雰囲気を充満させる。8秒頃からメインメロディーが入ると、後を追うように一定間隔でクワイアが響くようになり、尾を引くような夢見心地の奥ゆかしさを感じさせる。25秒でクラリネットと思しきリード系の音色が加わることでますます心地良くもミステリアスな印象が強まっていき、45秒で再びピアノが姿を現すとハープがにわかに勢いを帯びる。サビの盛り上がりはとても美しく、何度も繰り返すうちにこの曲の魅力を十分満喫したような気分にさせてくれるが、まだ後ろに最大の魅せ場が控えている。ピアノと入れ替わるようにして1分3秒から歌声が聴こえるくだりは格別のインパクトがあり、どこか遠くへ連れ去られてしまいそうな情緒を漂わせる。風のようにしなやかで浮世離れした一曲である。

元々はタナー高原の曲を紹介するつもりで記事を書き始めましたが、途中で心変わりして風の塔の紹介になりました。でもタナー高原も、あの紅葉の美しい景色とBGMの親和性が素晴らしいので、ぜひ聴いてほしいです。あわせてどうぞ。

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