光田康典作曲、『ゴブリンの谷』。北の渓谷で流れます。
開発協力で名を連ねることの多いキャトルコールによるRPGとして登場した本作。依頼で持ち帰った宝珠によって神の怒りに触れた主人公は、肉体と魂が分離してしまい、償いのために悩める人々に乗り移って様々な問題を解決することになる。憑依することで見た目も能力も他人からの反応も変わる点が特徴で、壮大なシナリオを楽しむというよりはコンパクトにまとめられた短編エピソードを攻略するような感覚で進めていく。戦闘システムはガードに重きを置いていて、基本的に被ダメージは重めに設定されているが、複数種類のガードを敵の攻撃に応じてタイミングよく発動することで、被ダメージを軽減したり完全に無効化したりそのままカウンター攻撃をしたりできる。随所に入るロードが長く、全体的に地味な印象があるが、独特な落ち着きのある仕上がりとなっている。
本作の音楽を担当するのは光田康典氏。音楽制作会社プロキオン・スタジオの代表で、当時は法人化する前、個人事務所時代のフリーランスの作曲家だった。本作では素朴な民族音楽調、特にケルトサウンドを軸に、ハープやギターといった柔らかめ音色を用いた楽曲を中心としつつ、戦闘曲などではフィドルやバグパイプを使った華やかな音を堪能できる。サウンドトラックはan cinniùint(ゲール語やアイルランド語で「運命」)という題で発売されている。
北の渓谷で流れるのがこの曲である。色の異なるレバーを動かすギミックのあるほの暗いダンジョンで、曲名が示す通りゴブリンが多く棲息している。いかにもファンタジーでRPGらしい雰囲気を表現するにあたって、ハープの甘美な音階と規則的なパーカッションのリズムが、たちまちにして引き込まれるような不思議な没入感を生む。次いで笛の音色が加わると、音色自体は安らかだが、同時にかすかな不穏さを滲ませる。不穏さは35秒に入るピアノや、56秒で入るビブラフォンの音色でさらに磨きがかかるが、とはいえ焦燥感のなかに聴き心地の良さが居残り続ける。絶妙な匙加減で癒しと焦りが共存した一曲である。
ダンジョン曲のお手本のようなバランスの良さですね。ちなみに『オークの砦』もいいですよ。怪しいけど癖になる音がなんとも素敵です。あわせてどうぞ。