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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を一日一曲を目安に紹介します。

隔週末の作曲家談議 vol.006:佐藤直之(猫叉Master)

作曲家について語るコラムです。

vol.006で扱うのは、コナミの佐藤直之(さとう・なおゆき)氏。

猫叉Master(ねこまたマスター)名義でも知られ、

代表作は「実況パワフルプロ野球」「ウイニングイレブン」「BEMANI」など。

なお、記事に記載された内容はすべて2019年3月16日現在のものです。

まずは一曲。

www.youtube.com『Far east nightbird』(jubeat knit/AC/2010年)

音楽ゲームで名を馳せる氏の代表曲の一つとして、ジャンル〈DRUM'N'BASS〉のもと収録されているこの曲は、氏が得意とする民族音楽電子音楽が高度に融合した一曲である。ゲーム中一定条件を満たすと解禁される隠し曲であり、威圧的なキック音と浮遊感あふれるシンセベースが織り成すアヴァンギャルドなメロディーラインは、絶妙な聴き心地の良さを誇る。実際の譜面では横スライドが非常に多く、クリア難易度はそれほど高くないとされる一方で、スコアが伸びにくいことで知られる。この曲は後に同じくBEMANIシリーズである弐寺ポップンにも移植されているほか、kors k氏によるダブステップアレンジが「DanceDanceRevolutionA」(2016年)に収録された。佐藤氏はこのアレンジについて、「音楽でこんなに鳥肌立ったの久しぶり」と絶賛している。

佐藤直之氏、1975年生まれ、東京都出身の作曲家。猫叉Masterや猫叉Master+、飛燕流舞、BaSTeTなど、複数の名義を持つ。得意楽器はピアノ。DTMへの造詣が深い。コナミ入社後は実況パワフルプロ野球シリーズを中心に手がけ、おそらくゲーム音楽家としてのデビュー作はパワプロクンポケット2」(2000年)である。翌年には実況パワフルプロ野球8」(2001年)にて、同作から新たに導入されるようになった主題歌の作曲およびゲーム本編の作曲を務める。その後もパワプロパワポケシリーズをいくつか担当する。

www.youtube.com『オールスター試合中』(実況パワフルプロ野球10超決定版2003メモリアル/PS2/2003年)

2003年度のペナント終了時のデータを搭載した10超決定版において、新たに追加されたサクセスオールスターズの試合曲として流れるのがこの曲である。それまでのマイナーチェンジはいずれも「決定版」という名前を冠していたが、同作では「超決定版」と一際気合いの入ったネーミングとなっていて、そうした勢いは、楽曲にも反映されている。気恥ずかしいほど堂々とクサメロを取り入れることで、明るく元気に力強く、真っ向勝負を彩ってくれる。歴代のキャラたちが一堂に会するオールスターのサクセスシナリオにふさわしい、オーソドックスな格好良さを誇る一曲である。

野球ゲームのパワプロシリーズの他に、同じくコナミの作品として、サッカーゲームウイニングイレブンでも作曲を手がけることになる。ウイイレシリーズといえば山岡晃氏や三浦憲和氏などが担当してきたことで知られるが、佐藤氏が初参戦を果たすことになる「ワールドサッカーウイニングイレブン9」(2005年)では、藤森崇多氏とともに新体制で作曲することになる。なお、藤森氏は佐藤氏と年齢が近く、いずれも最近は音楽ゲームへの楽曲提供がメインであるなど、共通点が多い。

www.youtube.com『Spiral.2005』(ワールドサッカーウイニングイレブン9/PS2/2005年)

同作のメニュー画面で流れるこの曲は、一際洒落た雰囲気を醸し出すテクノサウンドである。EDM調のノリノリなリズムに、「I'm so obsessed about you(意味は「あなたに夢中」)」というフレーズを淡々と繰り返し、そのなかに「イェイ!」「ワーオ!」「ハハハハハハ!」といった愉快な叫びや笑い声が挿入されるのが特徴である。歌詞のない間奏部分ではいかにもダンスミュージックらしいグルーヴ感を高めていき、昂揚感たっぷりに盛り上げてくれる。試合前のメニュー画面の段階ですでに白熱のムードをセットしてくれる一曲である。

同作以降、10でも同じく藤森氏とタッグを組んで作曲した後、シリーズがPS3に移行すると一旦離れるが、「ワールドサッカーウイニングイレブン2009」(2009年)にて、多数の気鋭の作曲家たちのなかに混じって一曲だけ提供することになる。年度が付されるようになったウイイレシリーズでは作曲に国内外のアーティストを起用することになり、それに伴い佐藤氏がメインで手がける機会はなくなっていった。かわりに氏の活躍の場はコナミの音楽シミュレーション・BEMANIシリーズへと移行し、なかでもpop'n musicのコンシューマー版「pop'n music 10」(2004年)において、氏の専用ジャンル〈コンテンポラリーネイション〉のもと、『BEYOND THE EARTH』を書き下ろすと、以降も定期的にBEMANIシリーズに携わることになる。この頃からすでに現代音楽(コンテポラリー)民族音楽(ネイション)を組み合わせた独自のスタイルを確立していた。なお、初登場時の名義は誤表記により、叉の中の点が抜けた猫又Masterとなっていた。

その後、主にCS版のポップンで〈コンテンポラリーネイション〉シリーズや〈フォレストスノウ〉といった固有ジャンルでの作曲を手がけると、「pop'n music 15 ADVENTURE」(2010年)からはアーケード版の作曲にも携わることになる。同じ頃、BEMANIシリーズの源流であるbeatmania IIDXでも、初期はCS版(初参戦は2005年のbeatmania IIDX 10th style」、既存曲のアレンジ)で、「14 GOLD」(2007年)以降はAC版で楽曲を提供する。また、2008年に新たに稼働し始めたjubeatシリーズでは、2作目のjubeat ripples」(2009年)で参戦して以来、定期的に新曲を書き下ろしている。猫叉Master+名義が初登場したのはCS版beatmania IIDX 13 DistorteD」(2006年)の『Infinite cave』においてであり、民族系サウンドとは一線を画するハードコアなドラムンベースで新境地を開拓した。+名義の際はこうしたハードな雰囲気のサウンドが多い。2009年には氏が担当してきた音楽ゲームの楽曲を中心に収録したアルバム「Raindrops」(猫叉Master名義)および「Backdrops(猫叉Master+名義)を発売し、名実ともにコナミ音ゲーの旗手としての役割を果たすようになる。

音楽ゲームで目覚ましい活躍を見せるなか、氏は佐藤直之名義でコナミのシューティングElebits(2006年)や3Dアクション武装神姫 BATTLE MASTERS」(2010年)といった作品にも、複数の作曲家のなかの一人として参加する。特に「Elebits」ではキュートなトイポップエレクトロニカを組み合わせたトイトロニカ系のサウンドが充実していて、同作の可愛らしい雰囲気にぴったりな珠玉の名曲が揃っている。2011年にはコナミトライエースの共同制作RPGFRONTIER GATEサウンドディレクターを務めることになり、当時コナミに入社したてだった西木康智氏やElements Gardenの面々と一緒に王道ファンタジーの世界観をサウンドで表現する。

www.youtube.comFRONTIER GATE』(FRONTIER GATEPSP/2011年)

ゲームタイトルをそのまま題名に冠する同作のメインテーマとして、タイトルムービーにて流れるのがこの曲である。さながら映画音楽のような豪快かつ壮大なスケールで奏でられるオーケストラサウンドに、RPGのエッセンスである冒険感が練り込まれた仕上がりとなっていて、ストリングスの緊張感あふれるイントロに続くウィンドとブラスのアンサンブルが遥かなる旅路の始まりを鮮烈に印象付ける。果てしないほど力強く展開するサビが終わると、それまで縁の下の力持ちとして裏方の伴奏に徹していたハープが、優しくも切ない音色を響かせることで有終の美を飾る。激動と変革の時代に新米開拓者としてフロンティアを駆け巡る、そんな同作を象徴する一曲である。

このほか、グラディウスの系譜を継ぐオトメディウスシリーズにて、Xbox360用のオトメディウスX(2011年)の主題歌を作曲したり、西木氏が中心となって手がけるトレーディングカードゲームモンスター烈伝 オレカバトル(2012年)にて編曲のみの参加をしたりするなど、活躍の幅を広げていく。それと同時に音楽ゲームでも相変わらずのペースで楽曲を提供していて、2010年から稼働開始したREFLEC BEATや、ギター・ドラム演奏に特化したGUITARFREAKSdrummaniaシリーズにも、「GuitarFreaks V6 & DrumMania V6 BLAZING!!!!」(2008年)から継続的に参加している。また、新シリーズ「GITADORA」(2013年)では同じくコナミに所属する角田利之氏(もっぱらL.E.D.名義で知られる)とタッグを組み、猫叉L.E.D.Master+として楽曲を提供する。このコンビはbeatmania IIDX 22 PENDUAL」(2014年)でも引き継がれた。また、氏はDanceDanceRevolutionにも進出を果たし、DanceDanceRevolution X3 VS 2ndMIX」(2011年)に一曲提供した後、新型筐体を導入し、心機一転ナンバリングを廃した次作のDanceDanceRevolution(2013年)にも、その真新しい門出を祝うかのごとく良曲を提供する。

www.youtube.com『nightbird lost wing』(DanceDanceRevolution/AC/2013年)

見覚えのある題名から察することができる通り、この曲は『Far east nightbird』(FENB、この記事で最初に紹介したもの)の続編にあたる曲である。「翼をもがれ、朦朧とする意識の中で故郷を想い続け、儚くも力強く飛び続ける」と氏本人が解説しているように、帰巣本能をテーマとしたノスタルジックなドラムンベースのナンバーであり、流麗なピアノと重厚なシンセが醸すエッジの効いたサウンドが聴く者を虜にする。FENBよりBPMが10上昇したことで190とかなり速めに設定されていて、譜面上では開幕直後に停止や高速の16分といった難所が用意されているほか、8分捻りも連発されるなど、一筋縄ではいかぬ仕上がりとなっている。この曲は後にREFLEC BEATミライダガッキに移植され、GITADORAにも専用のギターアレンジを携えて移植された。ちなみにこの曲では、+のないFENBと異なり、猫叉Master+名義を使用している。また、FENB、NBLWの両方に関連する曲として、『Lost wing at.0』がBeatStream アニムトライヴ」(稼働開始は2015年、収録されるのは2016年)にて登場する。

音ゲーの楽曲提供と並行してアルバム制作も着実に進めていて、現在までに5枚発売されている。なかには「pop'n music 20 fantasia」(2011年)で結成された劇団レコード(広野智章氏)との共作なども、猫叉劇団名義で収録されている。また、氏は同時期にいつもの作風とは違うネタ重視のコミックソングを猫叉Masterβ2名義で発表していて、アルパカをモチーフにした『moffing』、野球をモチーフにした『デッドボヲルdeホームラン』、いずれも強烈な中毒性を誇る仕上がりとなっている。特に後者はマヌーシュ・ジャズの音使いのなかに入り混じる電子音の扱いが、以前氏が担当していたパワプロシリーズの名残りを感じさせる。2014年にはコナミの社内レーベルであるbeatnation Recordsに加入し、弐寺を中心に手がける他のアーティストたちとともに活動する(なお現在は脱退したようである)。また、2017年には新たな音楽ゲームとしてピアノ演奏がテーマのノスタルジアが稼働を始めると、氏は得意楽器のピアノを活かした美しい楽曲を書き下ろす。以降の「FORTE」(2017年)「Op.2」(2018年)でも質の高いピアノサウンドを提供する。

www.youtube.com『風の丘の東』(ノスタルジア Op.2/AC/2018年)

同作の作中の風の丘ルートで解禁されるこの曲は、BPMが102とゆったりめの一曲で、きらり煌めくピアノの旋律に重なるバグパイプのメロディーが独特な安らぎをもたらしてくれる。あくまで主役は無国籍なピアノサウンドだが、アイリッシュ系の民族音楽を彷彿させるバクパイプの存在感も非常に強く、そうした音使いは遥か遠方の地に対する異国情緒を誘うと同時に、ノスタルジアというゲーム名が示す通り、本来故郷であるはずのない場所への郷愁をも誘う。先に追加された二曲(『Fly far bounce』『飽和世界』)と比較しても、民族音楽としての色合いがとりわけ濃くなっている。ちなみにこの曲は猫叉Master名義を使用している。

2017年の後半にコナミの社内アーティストの名義を一斉にBEMANI Sound Teamに統一する動きがあると、以降は氏の名義がBEMANI Sound Team "猫叉Master"といった形で表記されるようになる。この傾向は上述の『風の丘の東』や「DANCERUSH STARDOM」(2018年)beatmania IIDX 26 Rootage」(2018年)などで確認することができ、現在でも続いている。

佐藤氏は音楽ゲームでの露出が非常に多い作曲家で、BEMANIシリーズの新作が発表されるたびに氏の独自の世界観を表現した楽曲を提供し続けている。ときにはそれ以外のゲームタイトルへの進出も期待されるなか、今後もBEMANIサウンドの重要な担い手としての活躍が見込まれる。

 

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二番目に紹介した『オールスター試合中』が特に好きです。『デッドボヲルdeホームラン』もかなり良いので、そのうち記事で扱いましょう。参考までに、今まで格納した佐藤さんの楽曲をどうぞ。