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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#539 『ラストバトル』(田中伸一/ヒーロー戦記 プロジェクト オリュンポス/SFC)

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ウィンキーソフトがおくるRPGヒーロー戦記より、

田中伸一作曲、『ラストバトル』(仮称)。ラスボス戦で流れます。

特撮やロボットがクロスオーバーするコンパチヒーローシリーズのうち、初のRPG作品として登場した本作。ウルトラマン仮面ライダー機動戦士ガンダムの三作品が軸となって物語が展開していく。三つの作品をコラボさせるにあたって、原作の設定から改変された部分が多く見受けられるが、そうしたなかでも全体的にシナリオは手堅くまとまっている。隅々にまで古今東西の様々なネタが仕込まれていることや、後のスパロボシリーズの定番キャラとなる本作オリジナルのギリアム・イェーガーが初登場を果たしたことも大きな魅力で、コンパチヒーローシリーズのみならずスパロボシリーズの一作として数えることもできる仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは田中伸一氏と山根昇氏。いずれも当時ウィンキーソフトに所属していた作曲家である。山根氏にとっては本作がデビュー作であり、二人体制になったことで機材を新調して作曲に挑んだらしい。当時19歳だった田中氏が、どの曲を誰がつくるか、という分担を決めたそうで、曲数はすくないながらも新進気鋭の二人の作曲センスが光る出来栄えとなっている。サウンドトラックは未発売のため、曲名や作曲者は基本的には明かされていないが、一部の曲については、スーファミに落とし込む前の段階の、カセットテープに録音されていた原音源を、田中氏本人が解説付きでニコニコ動画に投稿していることから、詳細が判明している。

ことこの曲に関しては曲名は分かっていないが、田中氏が作曲したという情報は分かっている一曲である。ラストバトルの第二形態において流れるこの曲は、それまでの第一形態では通常戦闘曲(兼ボス戦、どちらも同じものを用いている)を流用していたこともあってか、形態が変わって曲が切り替わった瞬間、プレイヤーをあっと言わせるようなインパクトに満ちている。焦燥感を駆り立てるようなイントロから始まり、主旋律が入ると、その勇ましさと切なさが混在した悲愴感あふれるメロディーラインが、世界の命運を賭けた最後の決戦を華やかに彩ってくれる。ラスボスがかなり硬くて倒しづらいことや、戦闘後に明かされるラスボスの正体と相まって、印象に残りやすい一曲である。

もともと用意していた曲がギリギリになって親会社からダメ出しを喰らって急遽つくり直したのがこの曲、だそうですが、それでこのクオリティはすごいですね。くだんのニコニコの原曲集もぜひご視聴ください。いろいろ当時の面白い裏話が語られていて、読み物としての価値も高いです。